6話
私は先に部屋へと戻らせてもらった。
アシェル殿下とレガーノ様は男同士色々と積もる話もあるということだったので先に部屋に帰って来たのだけれど、ちらりと振り返り見た二人は、楽しそうに笑い合って話をしていたので、ほっとしたのであった。
アシェル殿下とレガーノ様が出会ったのは、レガーノ様の父君の葬儀の時だったのだという。そんな大変な時、アシェル殿下はレガーノ様の傍にいた。そして二人は固い友情で結ばれたのだという。
何があったのかいつか聞きたいなと、私はそう思ったのであった。
今日はとくに他にはないということだったので私はその後部屋でのんびりと過ごしていたのだけれど、通信用の魔術具が鳴り、私は誰だろうかと手に取ると、映像が空中に映し出された。
そこに映ったのは、オリーティシア様とジークフリート様、そしてココレット様であった。
別々の場所にいる者同士がこうして映像を通して会話ができるとは、なんと便利な道具なのだろうかと思う。
だけれどこれは試作品であり、魔術師のオーフェン様とダミアン様が作り出した物であった。
私がお二人と連絡を取りたいと伝えると、オーフェン様とダミアン様があーでもないこーでもないと言いながら作り上げてくれたのである。
ただ、かなりこれは作るのが難しいらしく、しばらくは作りたくないと二人は言っていた。
「オリーティシア様! ジークフリート様! ココレット様!」
私がそう声をかけると、少し時差はあるものの会話ができる。
「エレノア様! もうロマーノ王国にはついたようですね!」
「はい! 到着いたしました」
ココレット様は私の部屋を見つめながら呟いた。
「装飾が何というか、可愛らしいですね。いいなぁ。私の国は……地味なので勉強になります!」
この通信の魔術具を通してだと、心の声は聞こえないという特徴があり、私は不思議だなぁと思いながらも、心の声を気にせずに会話が出来るのが嬉しかった。
「今回は皆で集まれなくて残念でした」
今回、それぞれの王国の行事重なってしまったとのことで、こちらに参加が出来なかったオリーティシア様とココレット様。
ジークフリート様はおそらく使い方の良く分かっていなかったオリーティシア様の為に横に控えているのだろう。
ちらちらとこちらを見つめていた。
「ジークフリート様は自国に帰られているんですよね。母国はやはり居心地がいいですか?」
私がそう尋ねると、ジークフリート様は少し慌てた様子で早口で言った。
「べ、別に居心地は悪くはないが……まぁ、だが……サラン王国も居心地は悪くなかったから……」
そんなジークフリート様に、オリーティシア様はため息をつくと口を開いた。
「それで、魔法の王国はどう?」
その言葉にココレット様もわくわくとした様子で言葉をかぶせてきた。
「私も気になります! 魔法の王国なんて、本当に素敵ですよね!」
私は魔法の王国の様子について語りながら、ただ、まだそこまで見れていないのでまた見て回ってから離したいということを伝えた。
距離があり、立場もある私達は会うことはほとんど出来ない。
だけれど、こうやって作ってもらった魔術具を通して話が出来る。
友達と話が出来るというのは本当に素晴らしいなぁと、私はこれを作ってくれたオーフェン様とダミアン様に心から感謝した。
ひとしきり会話をした後、今まで会話に混ざっていなかったジークフリート様がそわそわとした様子で、会話に入ってくると言った。
「その……ロマーノ王国のレガーノ殿は……その……かなりの女たらしという噂だが……」
ごにょごにょと喋るジークフリート様の言葉に、オリーティシア様も少し心配そうにうなずいた。
「そうなのよねぇ……まぁでも、顔は少し怖いけれど、いい男だもの。女性も放ってはおかないでしょう」
「あ、私も噂で聞いたことあります! 魔法の王国の王子様は女性を魅了する魔法が使えるって! まぁそれは比喩で、それくらいの素敵な男性だって聞いています! 実際はどうでしたか!? エレノア様!」
私はその言葉に、どうだろうかと小首を傾げる。
顔は、怖いという印象があった。
心の声は、妹大好きな人ということしか分からない。
他は……。
私は少し考えてから言った。
「素敵な男性かどうかの、基準がよくわからなくて……すみません」
「まぁまぁ! ふふふ。まぁそうですわよねぇ。エレノア様は、アシェル殿下以外の男性は素敵かどうかなんて関係ないですものねぇ。でも不思議。他の人を好きになったことはないの? その、婚約前とかでもなかったの?」
「ふふふ。本当ですねぇ! エレノア様って、アシェル殿下以外に心惹かれたりしないんですか? だって、素敵な男性多いですよね?」
「素敵な……男性ですか? えっと」
想像もしたことがなかった。
自分がアシェル殿下以外の男性に惹かれるということも、他の男性を恋愛対象としてみるということも。
「その、私の婚約者はアシェル殿下ですし……それに」
アシェル殿下以外の人を、恋愛的な意味で素敵だとは思ったことがない。
でもこれを言うと明らかに惚気だと思い、私は顔が熱くなる。だけれど言わないのも変な誤解を生んでしまいかねない。
私は小さな声で言った。
「アシェル殿下以外の方を、異性として見ることはありませんし……その、私、その……私、あ、あ、アシェル殿下が、初恋で……なので、異性に対して、その、そのような感情を抱いたことも、その、なかったので……すみませんんん。許してください」
両手で顔を被ってそういうと、オリーティシア様とココレット様のきゃーという声が聞こえた。
「もう! 初心なエレノア様が可愛い!」
「本当ですね! アシェル殿下は幸せ者ですね!」
私は、二人にその後もなんだかんだと冷やかされながらも、嫌な気持ちはしなかったのであった。
楽しい時間はあっという間に過ぎていく。
ちょっとだけと思ったおしゃべりも、気がつけばずっとしゃべり続けていた。
こんなにもおしゃべりが楽しい相手と出会えてよかったなぁと私は思いながら、その日は、穏やかな気持ちで眠りについたのであった。
そんな私の枕元で、クマのぬいぐるみが私のことをじっと見つめていたことなど、その時の私は全く気がつかなかったのであった。






