2話
途中までは魔術師のオーフェン様とダミアン様の手助けもあり、魔法陣を使って馬車事移動できた私達は、魔法の国の入り口付近までたどり着いていた。
移動的には問題なく出来たのだけれど、現在アシェル殿下は私の膝の上に頭を乗せ、両手で顔を覆いながらうめき声をあげている。
『エレノアの膝枕が嬉しいけど……頭がぐらぐらしてもう指一本も動かしたくないよぉ。エレノアごめんねぇ』
心の中でそう呟いているアシェル殿下のお腹の上にはカルちゃんが丸まって眠っている。
アシェル殿下は戴冠式に来るまでにかなり無理をしたようで、仕事をどうにか片付け終えてここにいる。
そして睡眠不足と過労の中で魔術によって移動をしたことでめまいを起こして今、私の膝の上にいるというわけだ。
私はこんな機会なかなかないなと思い、アシェル殿下の髪の毛を、優しく指で梳きながらその髪の感触を楽しんでいた。
体調が悪いのに申し訳ないなと思いながらも、これは役得だなと感じてしまう。
『はぁぁぁ。幸せすぎるのにぃ。っく……喋れないくらいに辛い』
そうとう無理をされたのだなぁと思っていると、そんなアシェル殿下を気にする様子もなく一緒の馬車に乗っているハリー様がしゃべり始めた。
「ここからの日程についてお伝えしておきます」
『ぼん、きゅ、ぼーん……失礼しました』
その失礼しましたを毎回つけるのはやめてほしいと心の中で思ってしまう。
だけれど、ハリー様なので仕方がないかと私は諦めている。
護衛のノア様は馬で外におり、私がちらりと窓の外へと視線を向ければ、ノア様の姿が見える。
他の騎士達との連携もうまく行っているようで、仲良く過ごしている様子も見られるようになり、なんだか嬉しく思えた。
「エレノア様。日程についてよろしいですか?」
『ぼん、きゅ、ぼーん! ……失礼しました』
「あ、はい。お願いします」
私はアシェル殿下の頭を撫でながら、ハリー様の話を聞く。
日程的には明日からが本格的な行動となるので、今日は自由にロマーノ王国についたら過ごしても良いとのことであった。
ロマーノ王国側からは基本的に、入れない箇所には魔法が駆けられているので、自由に王城内を散策してもよいとのことであった。
私はせっかくだったらアシェル殿下と一緒に見て回りたかったなと思いながら、明日、アシェル殿下が元気になったら一緒に過ごそうと思ったのであった。
『エレノア、ごめんね?』
アシェル殿下の心の声に、私は小さな声で返事を返す。
「大丈夫です。ゆっくり休んでくださいませ」
『ありがとう』
心の声が聞こえると、辛い時でもこうやって会話ができるからいいなぁと私は自分の能力について良い点が新たに見つかったなと、思ったのであった。
ロマーノ王国へと到着をすると、すぐに私達は部屋へと案内をされる。
割り振られたのは隣同士の部屋であり、部屋の内側にも扉がついているので、行き来できる仕様になっていた。
アシェル殿下はハリー様と共に、部屋へと一度戻りゆっくり休まれるということで一度分かれた。
私はノア様と一緒に部屋にはいると、小さく息をつく。
移動自体は魔術を使ったことでかなり楽だったはずなのだけれど、やはり少し疲れはする。
私はノア様へと視線を向けると言った。
「ノア様もお座りくださいませ。少し休憩をいたしましょう」
私がそう言うと、ノア様は素直に私の席の前のソファへと腰を下ろす。
その姿を見て、私は心の中でにっこりと笑みを浮かべた。
これまで何回も何回も誘ってきた結果、ノア様は、私に何か言っても結局は座らされると学習をしたのだろう。
最近では断ることもなく座ってくれるようになった。
「エレノア様。魔法の王国というだけあって、色々と魔法でここでは出来るようですよ」
『ここに説明書きの本が。ふむ。面白いな』
ノア様は机の上に置いてあった本を開き、ちらりと見てから私へと差し出した。
「お茶も魔法で出るそうですよ。見てください。ここに」
『面白いな。魔法か……あーなるほど。これは魔術具に近いかもしれないな。だが……原理は違うのだろうな』
私は本に書かれていた通りに、机の上に置いてあるベルを三回鳴らしてみた。すると、机の上に、すっと突然湯気の立つ紅茶が、私とノア様の分現れたのである。
「これは……一体どこから」
「どういう仕組みなのでしょうか」
『種も仕掛けもないとはこのことだな』
私達は驚きながらも紅茶に口をつけ、息をつく。
香りも申し分なく、味わい深い。私達は顔を見合わせて笑い合い、それから少しだけ落ち着いた時間を過ごした。
ノア様と一緒に過ごすと、なんだか家にいるようなほっとするような感じがする。
以前友であり妹のようであると思ってくれているというノア様の心の声を思い出し、たしかにお兄様のようだなと思う。
ちらりとノア様を見ると、ノア様も優しく微笑み返してくれた。
「ノア様と一緒だと、やっぱり落ち着きます。ふふふ。ノア様が専属騎士になってくれて本当に良かったです」
そう告げるとノア様は少し驚いた顔を浮かべたのちに優しくうなずく。
「私もエレノア様の傍にいられて幸せです」
『ずっと傍にいられる……そう思うと、心が落ち着く。居場所とはこうやって出来ていくのだなぁと……実感する』
私達は微笑み合いながらしばらくの間穏やかな時間を過ごす。
特に何を話をするわけではないけれど、一緒の空間にいて穏やかに過ごせると言うのは良いものだなぁと思った。
「この後はどう過ごされますか? まだ時間はありますし、庭に散策など行ってみますか?」
『せっかくなので楽しんでもらいたいが』
その言葉に、私はうなずいた。
「そうですね。アシェル殿下はお部屋でゆっくりされていますが、少しでも王城内の様子を把握しておきたいので、行きましょうか」
情報収集は少しでも集めておきたいと思い、私は立ちあがりると、ノア様も一緒に立ちあがる。
「では行きましょうか」
「はい。エレノア様」
『さて、他国、しかも魔法使いの国だからな。気を引き締めて行こう』
危険はないだろうとはいえ、未知の国である。私も気を引き締めて行こうと思ったのであった。






