1話
書籍化小説に合わせている為、カーバンクルのカルちゃんが仲間に加わっております。
それ以外に関しましては、WEB版だけお読みの方でも問題なく読めるかと思いますのでよろしくお願いいたします。
作者、誤字脱字多めです。それでも大丈夫な方は読んでいただけたら嬉しく思います。
温かな日差しの中、私はうとうととするカルちゃんの体を優しくブラシで梳きながら声をかけた。
「カルちゃん。可愛いなぁ」
神々の島からサラン王国の王城へとやって来た魔物カーバンクルのカルちゃんは、もふもふの毛並みの可愛らしい子である。
最近では偉そうな口調を辞めて、すごく甘え上手になって来た。
「エレノアちゃん。もう少し耳の裏お願い」
『眠たくなって来たなぁ。ふわぁぁ』
「はーい」
小さな体を膝の上で伸ばしながら身を任せてくれるその姿が愛おしくてしょうがない。
「ふふふ。カールちゃん」
「なーぁに」
『気持ちいいなぁ』
可愛らしいなぁと思っていた時、部屋の扉がノックされて返事をすると、入ってきたのはアシェル殿下であった。
アシェル殿下が入って来たと同時にノア様とハリー様もやってきて一気に部屋の中が賑やかになる。
『ぼん、きゅ、ぼーん……失礼しました』
最近、毎回ハリー様が心の中でそのように言うものだから、笑ってしまいそうになるのを堪えるのが大変である。
「エレノア。話があって来たんだ! 少しいいかな?」
こういう個別の場だけ、アシェル殿下は心の声の赴くままに喋ってくれる。
ハリー様は慣れっこであり、ノア様はそのことについては何も言わないのだけれど、ノア様の心の声が聞こえてくる。
『アシェル殿下……最近、エレノア様の前でだけ……やたらと子どもっぽい気がするが……そういう趣味嗜好なんだろうか……』
ノア様は私の能力について何やら気づいた様子だったのだけれど、途中から自分が知らないほうが良いことと考えるようになり、それから尋ねてくることも、思い出すこともなく私の護衛として働いてくれている。
ノア様にならば伝えてもいいと思ったのだけれど、ノア様自身が知らないほうがいいと心の中で思っていたこともあり、私も言うのをやめたのであった。
私はアシェル殿下へと視線を向けると、アシェル殿下は嬉しそうに私に一通の手紙を差し出した。
「エレノアは、魔法の王国ロマーノ王国を知っている?」
「魔法の、王国ですか?」
ロマーノ王国と言えば、サラン王国からはかなり距離のある大国であり、魔法がかなり発展している王国だと聞いたことがある。
「僕ね、実はロマーノ王国の王太子であるレガーノ王子と友達なんだ。幼い頃から外交で会う機会があってね、そこで仲良くなってずっと文通をしていたんだ。そんな彼が、今回戴冠式を迎えることになったんだ。その招待状が届いたんだ!」
アシェル殿下は嬉しそうにそう言うと、私に手紙を見せてくれた。
その手紙を開いてみると、中は真っ白であった。
「見ていてね」
アシェル殿下はそう言うと、手紙の蠟封の所に指で触れた。
その瞬間、一人の男性の姿が手紙の上に映し出された。
淡い菫色の髪と瞳の男性は、前髪を書き上げながら色気のある雰囲気で口を開いた。
「いよいよ俺は戴冠式を迎えるぞ。アシェル。俺様の勇士を見に来い。あぁ、お前もついに婚約者が決まったそうだな。せっかくだから傾国と呼ばれる美姫も連れて来いよ。待っているからな」
そこまで言うと、男性の姿は消え、元の真っ白な紙へと戻った。
私はそれを驚いて眺めていると、アシェル殿下が興奮した様子で言った。
「レガーノの戴冠式、是非参加したいと思っているんだ。遠いけれどさ、エレノアも一緒に行けたらいいなぁって思うんだ。どうかな?」
その言葉に、私はうなずいた。
「もちろんです。私もアシェル殿下にご一緒したいです」
そう答えたところで、カルちゃんが目を開けて大きく背伸びをすると、どこからともなく当たり前化のようにユグドラシル様が姿を現した。
そしてカルちゃんの背中の上に乗ると言った。
「エレノア今度はロマーノ王国へ行くの? いやねぇ。私あそこの国あんまり好きじゃないのに。魔法使いっていう生き物は冗談が通じないから困るのよ」
『面倒くさい面倒くさい』
「あら、そうなのですか?」
最近では約束していた入国の際の決まりも、堂々と破るようになったユグドラシル様はカルちゃんの背中でくつろぎながら言った。
「そうよ。魔法使いってのは、魔力、魔力ってうるさいのよ。魔力がない人間は価値がないって思っている人間が多いわ。だからエレノアも気を付けるのよ」
『本当にバカよねぇ。魔力なんて価値の一つでしかないのに』
その言葉にアシェル殿下もうなずくと言った。
「うん。それはあるね。魔法社会っていう感じだから。サラン王国は魔術が盛んだけれど、ロマーノ王国では魔法が盛んなんだ。ただし、大きな魔法が使えるのは王族くらいで、普通の人々は魔力を少量持っているっていう感じなんだ」
なるほどなぁと私は思っていると、ユグドラシル様がカルちゃんの背中のもふもふを堪能しながら呟いた。
「よく言えば魔法の素敵な国。悪く言えば魔力ない人間はゴミクズっていう感じよ。だけどゴミクズにだって意思はある……あそこの国は非魔力団体がいつもくすぶっているから気を付けなさいよ」
『エレノアを危ない目に合わせたらただじゃおかないんだから』
ユグドラシル様の言葉に、私は優しいなと思いながら頭を指先でちょんちょんと撫でると、ユグドラシル様が少し嬉しそうな顔をしていた。
『ふふふん。私の大切なエレノアを酷い目に合わせたら、魔法の国の植物全部枯らせてやるわ!』
思いがけず過激な心の声に、私は自分の行動も気を付けなければならないなと、そう思った。
草木が枯れたら自分のせい……なんてことにはならないように気を付けようと思った。
「では、日程を調整しなければなりませんね」
私がそう言うとアシェル殿下はうなずく。
心が浮き足立っているのだろう。
鼻歌交じりの心の声が聞こえてきて、私はアシェル殿下のお友達は実際に会ったらどのような人なのかなぁと、楽しみに思う。
ふと、アシェル殿下の心の鼻歌が止まると、少し心配そうな顔でアシェル殿下が言った。
「実はさ、気になることもあるんだ」
「どうしたのです?」
「レガーノにはメローナ嬢という妹君がいるんだけれど、彼女は魔力を持っていなくてね……レガーノはメローナ嬢と、上手くやっているかなぁ」
「どういう意味です?」
「レガーノ……顔面が怖いんだよ」
予想外の言葉に、私は先ほど見た顔を思い浮かべ、確かに少し怖いような印象はあったなぁと思いながら、真顔で考え込むアシェル殿下を見て、なんだか、笑いが込み上げてくる。
「ふふふ。ちょっと待ってください。さっき魔力を持っていなくてねって……おっしゃったのに、ふふふ。最終顔面が怖いからっていうことですか?」
笑いが込み上げて、どういうことなのだろうかと私がそう言うと、アシェル殿下も笑いながら言った。
「レガーノは、魔力至上主義っていうわけじゃないから。ごめんごめん。説明不足だったね。魔力を持っていないからメローナ嬢にとってレガーノは強い味方になっていてほしいんだ。でも、レガーノ見た目が怖いからさ……メローナ嬢をいつも怖がらせていてさ……仲良くなったかなぁ」
そう心配をしながら、アシェル殿下は小さな輪を取り出すと、それをユグドラシル様に手渡した。
なんだろうかと思っていると、ユグドラシル様が嫌な顔をする。
「何よこれ」
「最近普通に出入りをされるでしょう? ですから、これで髪の毛でも括っていてください。そうすると、うちの魔術師にユグドラシル様の居場所が伝わる魔術具です」
「嫌よ。そんなの」
『何それ』
「ではちゃんと手続きを踏んでいただけますか?」
『定期的に言わないとすぐに適当にするんだから』
二人のやり取りを見つめながら、私は魔法の国とはどのような国なのだろうなぁと思いを馳せたのであった。
いよいよ第四章スタートです!






