二十六話
ユグドラシル様曰く、古竜の上に大量の妖精の粉を撒くと、古竜は面倒くさそうに一瞬目を開いてから眠りに落ちたとのことであった。
私達は魔術師達と共に古竜の近くへと降りると、ユグドラシル様が飛んできた。
「エレノア古竜は眠ったから、地脈も落ち着いたはずよ。活動的になっていた火山も次第に落ち着くと思うわ」
『古竜は地脈を安定させる要みたいな役割を果たしてるから、あのまま飛び立っていたら地上は大変なことになっていたでしょうね』
「ユグドラシル様! ありがとうございます……あの、古竜はどこへ行こうとしていたんですか?」
気になっていたことを尋ねると、ユグドラシル様が答えてくれた。
「古竜とは古の存在。貴方達がいう神々が生み出した地脈を安定させる役割を果たす存在なの。だから本当はずっとここにいなくちゃいけないのに、たまに、寝ぼけて空飛んでいこうとするのよ」
『その間に地上は大変なことになるのに。だから、貴方達のいう神は毎回それを止めようと必死よ。ふふふ。古竜なんて不安定なものを生み出してしまうなんておかしなの』
古竜の方へと視線を向けると、今では最初と同じように眠っている。
魔術師達はその周りを取り囲み、また起きてはたまらないと催眠の魔術をしっかりとかけなおしている。
私達はそれを見てほっと胸をなでおろしたのであった。
その日は各国に火山の被害の確認や、負傷者の手当てなどに追われて過ごすことになった。
そして、それらがやっと落ち着いた頃、私達は泥のように眠り、翌朝はまた支度を済ませてから、各国が集まってそれぞれの被害状況の整理等を話し合った。
私はゆっくり休むようにとアシェル殿下に言われたけれど、最後まで自分でも手伝える個所を担い参加したのであった。
そしてようやくそれらが落ち着き、アシェル殿下も一度部屋で休むというのを聞き、私も下がり、今日はゆっくりと過ごすことになった。
お風呂に入れてもらい、香水を振り、そして髪の毛も結って、美しいドレスへと着替えた。
甘い香りを感じながら、私はほっと息をついて侍女に入れてもらった紅茶を飲んだ時であった。
部屋がノックされ誰かと思えば、ココレット様とオリーティシア様が一緒にお茶でもどうかとのお誘いであった。
私はすぐに了承し、廊下へと出ると美しい純白のドレスを着たココレット様と、神官服ではあるけれど、下はスカートではなくズボンをはき、髪の毛も一つにくくっているオリーティシア様の姿があった。
「ふふ。お二人共素敵な装いですね」
私がそう声をかけると、何故か二人共頬を赤らめた。
「えっと、はい。用意していただいて……エレノア様も、とても、お美しいです」
『はぁぁぁぁっ。エレノア様。お美しいがよ。あ、そうだ。この声も聞こえて!?』
「私も、自分らしくもう少しいようと思いまして。エレノア様も、今日は更に一段とお美しいですわ」
『私はもっと私らしく生きたい。あと……エレノア様可愛いわ。ふう。可愛い』
二人共どうしたのだろうかと思いながらも、私は二人と一緒に過ごせることが楽しみであった。
今回の一件で二人とはすごく親しくなれた気がする。
「では行きましょう。せっかくなので庭園を見てからお茶にしませんか?」
私がそう提案すると、二人は私の両脇に立ちうなずくと私の手をそっと握った。
「はい。行きましょう」
『ふふ。幸せだがよ』
「えぇ。せっかくなので庭にお茶の席を準備してもらいましょう」
『可愛い。可愛いわ。どうしましょう。私こんなときめき始めてかもしれなわ』
両側から手を握られて、私はなんだか仲良しみたいだなと思い、嬉しい気持ちのまま庭へと向かったのであった。
庭を散策していると、他の王族の方々も見に来ておりかなり人が多かった。
『わぁぁ。麗しの乙女が三人集結だぁ。はぁ。あの戦場のような場所に恐れることなく挑み、そして最後まで戦い抜いた乙女よ』
『お美しい。そして気品が溢れておる』
『予言の乙女ココレット様! 勇ましき神官オリーティシア様! そして精霊と妖精の愛し子エレノア様! はぁぁぁ。今瀬三大女傑と言っても過言ではないな!』
たくさんの声が聞こえてきて、私はそんな大げさだなと思っていたのだけれど、その声は止まらず、すれ違う人は皆私達のことをキラキラとした瞳で見つめてきた。
私は別段何もしていないのになと内心思ってしまう。
エル様やユグドラシル様の力であって私の力ではないと私は思い、その後のお茶会の席でそう言うと、ココレット様とオリーティシア様にはっきりと否定された。
「私が頑張れたのは、エレノア様がいたからです」
『背中を押してもらえなかったら、私は今でも以前のままだったがよ』
「えぇ。私もです。そもそも私はエレノア様がいなかったら、もしかしたらあの場で死んでいたかもしれません」
『謙虚な方だわ。はぁぁ。可愛いのに謙虚って、もう、もう!』
お二人共優しいなぁと思った時であった。遠くから声が聞こえて、私は振り返るとアシェル殿下が見え
少し小走りでアシェル殿下はこちらへと来ると、笑顔で言った。
「今日は三人でお茶をしているんですか?」
『いいなー。僕もエレノアとゆっくりお茶したいー。あ、邪魔はしないよ?』
「はい。アシェル殿下も散策に来られたのですか?」
「えぇ。やっと落ち着いたので、その予定です」
『中々この島を散策出来る機会はないからね。記憶に残しておこうと思ってさ』
私が口を開く前に、ココレット様とオリーティシア様に挟まれる。
二人は私の腕に自身の腕を絡めると、楽し気な口調で言った。
「アシェル殿下ごきげんよう。エレノア様をお借りしております」
『完璧王子様かぁ。エレノア様にはピッタリね』
「楽しいひと時を過ごさせていただいておりますわ」
『ちょっとだけエレノア様を独占させてくださいませ。ふふふ。こんな機会ありませんもの』
アシェル殿下は二人の様子に少しだけ驚いたように見せると、優しく微笑んだ。
「仲良くなったようですね。ではお邪魔虫は退散いたします。楽しんで。でも、少ししたらエレノア私とも一緒に過ごしてくださいね」
『エレノア仲良くなって良かったね。ココレット嬢もオリーティシア様もなんだか雰囲気が変わったね』
小さく私はうなずき、アシェル殿下は手を振って私達と分かれた。
そんな背中を見送りながら、後から一緒にゆっくりと過ごせるかななんてことを考えていると、ココレット様がにやにやとしながら言った。
「エレノア様は、アシェル殿下が大好きなんですね」
『恋する乙女がいるがよ』
「本当に。最初はアシェル殿下の婚約者の席、私がもらい受けようと思っていましたが、相思相愛には付け入る隙がなさそうですね」
『私も考えが本当に変わったわ。死にそうな経験をして、私自分の為にもっと生きようと思えたわ』
ココレット様の言葉に少し照れながらオリーティシア様の言葉に私は背筋を伸ばした。
「もしオリーティシア様とアシェル殿下を奪い合う形になっても、負けませんわ」
はっきりとそう言うと、二人は吹き出すように笑いだした。
私は何か違っただろうかと首をかしげると、二人は優しい瞳を浮かべている。
「いつか私もそんな恋がしたいですわ」
『でもどちらかと言えば、今はエレノア様にときめいているわ。はぁ、一緒の国で暮らせたらいいのに』
「私は、恋よりも自分の生き方を見直したいわ」
『女性の地位を高めたいのは、変わらないし、恋は……ふふ。エレノア様ともっと仲良くなりたいわ。ある意味、アシェル殿下とは恋敵になりそう』
どういう意味だろうか。私は首をかしげるけれど二人は楽しそうに笑うばかりであった。
旅行行きたいですね!!
温泉行きたいですね!!
美味しいもの食べたいですね!!
卵かけご飯うまうま(*´ω`*)理想と現実の差。






