十一話 私にできることをしよう
アシェル殿下とはそれからもずいぶんと仲良くなってきた。
お互いに贈り物をしあったり、手紙をやりとりしたり、私はこんなにも幸せでいいのだろうかと思っていたのだけれど、ジークフリート様から聞いた暗殺者という言葉が何度も頭をよぎっていく。
だからこそ、このまま、のんびりと過ごすわけにはいかないと、私はアシェル殿下の命を守るために、今まではこの心の声を使って何かをしてきたことはなかったけれど、社交界に出たり、お茶会の度に、様々な人の心の声を聴き、情報収集をするようになった。
その結果分かったことは、意外と人の心の中は様々な情報で溢れているということである。
そして、平和に見えるようで、案外にも平和でない部分も見え始めて、私はアシェル殿下とのお茶会の席で、思わずそわそわとしながら、言った。
「アシェル殿下……あの、今度開かれる舞踏会、楽しみですね」
アシェル殿下は優雅にお茶を一口飲んだのちに顔を上げると頷いた。
「えぇ。そうですね」
『エレノア嬢、今度は何色のドレスを着てくれるのかなぁー。楽しみだなぁ』
うきうきとするアシェル殿下の心に、私は恥ずかしくなりながらも本題に迫るように尋ねていく。
「そういえば、舞踏会には、隣国諸国の方以外に、第二王子殿下も参加されるのですよね?」
第二王子であるルーベルト殿下はアシェル殿下より三つ年下であり十三歳である。アプリゲームの中ではショタとして大人気であったことは覚えている。
出来れば一度ルーベルト殿下にあって、暗殺を企てているのがルーベルト殿下の本意なのかを把握しておきたい。
現状は、過激派の一部が盛り上がっているように感じるのだ。
「ん? そうですね。ルーも参加しますが……そう言えば、今日は城にいると言っていました……」
『ルーにも紹介しておかないとだなぁ。いや、伝えてはあるけどさ、ちゃんと牽制しておかないと、あいつ、綺麗な人好きだならなぁ、会わせずにいるのは無理だしなぁ……』
予想外の心の声に驚いていた時であった。
ふと視線を感じて城の方を見上げると、二階の窓からこちらを見て、にやついている人物が目に入った。
『うっは! 超美人~! うはぁぁぁ。兄上うらやましいなぁ~』
話題のルーベルト殿下がまさかこちらを見ているとは思わなかった。
私の視線を追ってルーベルト殿下を見つけたアシェル殿下は少しだけ嫌そうに呟いた。
「噂をすればなんとやらですね」
『あいつ、僕達がここでお茶会することを嗅ぎつけて、覗きに来たなぁ。見るなよー! エレノア嬢が減る!』
何が減るのだろうかと思いながら、こちらに楽しげにひらひらと手を振るルーベルト殿下の声は賑やかであった。
『兄上、焦ってるな。あの顔。ふっふっふ~。からかいに行こう。ふふふ! まぁそれにしても、本当に流石はナイスバディだなぁ~。妖艶姫っていう異名もうなずけるー! あー。うらやましい! うらやましい!』
自分の婚約者がアシェル殿下で良かったなと内心思っていると、傍に控えていたハリー様が言った。
「アシェル殿下、ルーベルト殿下は朝の勉強の時間をずらしたという情報が入っています。おそらくこちらにいらっしゃるかと」
『ぼん、きゅ、ぼーん見学だろーな』
私はその言葉に、少しずつハリー様の心の声がぼん、きゅ、ぼーん以外も聞こえるようになってきたぞと、驚いたのであった。
少しでも楽しいと思っていただけたら嬉しいです。