二十三話
事前にココレット様から、どこから古竜が出現するのかについてや、どのような攻撃があるのか、どのような動きをするのかについては皆情報共有している。
古竜を飛び立たせてはいけない。飛び立たせてしまえば、そこで私達の負けが確定する。
その為に少人数ではあるけれど、部隊を編成してカザン様を中心に攻撃の陣営が組まれている。
また古竜の攻撃が人にあたらないように、攻撃力を分散する魔術が組まれており、また魔術師達が持ってきた防御の魔術具や攻撃増強の魔術具なども騎士達は身に着けている。
私とココレット様、オリーティシア様はダミアン様とオーフェン様の後ろへと待機する。
私達の周辺に二人は魔術具を配置した。
「いいですか。何があってもここからはでてはいけません」
『古竜とかもう、本当になんなんだよ。あー。明日はオーフェンとデザート食べまくるか』
「無事に生きて帰りましょうねぇ~」
『明日は自分へのご褒美に最高級のデザートを購入してやるわ! ダミアンがお財布よ!』
二人の心の声に私は多少和みながら、ココレット様の横に待機する。その時、後ろからオリーティシア様の声が聞こえた。
「お待たせしました」
振り返ると、そこには髪の毛を一つにくくり、女性用の騎士服に身を包み防具をつけ、手には剣を構えるオリーティシア様の姿があった。
ココレット様と私は驚いてしまう。
どうやらココレット様の未来にはそれが見えていなかったらしく、声をあげた。
「オリーティシア様、え? 私の知らない未来……です」
『どうして? あ……オリーティシア様との関係が修繕されたから?』
オリーティシア様は苦笑を浮かべると、私達の横に立ち言った。
「私、ジークフリートより強いんですよ? でも、女だからと剣を持つことを許されず、王国の為に神官の道を選びました。我が国は今信仰が不安定な状況なので。ですが、私は今神に背中を押されている気分なんです。自分らしくいなさいって」
『どうせここで死ぬかもしれないのだから。せっかくならば自分らしく今はいたい』
こちらに向かって笑顔を向けるオリーティシア様は、最初に見たオリーティシア様の印象とは違い明るくそして溌溂としていた。
「物理的な攻撃があれば、私が二人を守ってあげるわ。ココレット様。私、恩はしっかりと返すタイプなの」
『ふふふ。大丈夫。絶対に生き残って見せるわ』
ココレット様も笑い返し、そして身構える。
「始まります」
魔術具で、ココレット様の声は全体に響くように仕掛けられている。ココレット様は大きく深呼吸すると、目を見開いた。
その瞬間、瞳の中が淡く金色に輝き始めた。
「来ます!!!!」
次の瞬間地面から耳が痛くなるほどの音が響き始め、体はその揺れに耐えかねて地面へと倒れた。
ココレット様の体は光に包まれおり真っすぐにそちらを見つめている。
爆音と共に炎の柱が天を貫くように上がる。雲は裂け強風が吹き抜けていく。
「構え! 第一陣! 前へ!」
「魔術師は破壊された魔術の修復! 防御を強めろ! 来るぞ!」
炎の塊の中から、地面から這い出るように姿を現したのは、赤い鱗に身を包んだ巨大な古竜であった。
その瞳は虚ろであり、口からは黒い煙がぷすぷすと音を立てている。
ココレット様が声をあげる。
「古竜はまだ完璧には目覚めていません! きっと今ならばまだ眠らせられます!」
魔術師達は催眠の魔術を掛ける部隊が前へと進み、魔術を展開させていく。それを守るべく騎士達が前へと立つ。
あまりにも巨大なその体が地中から這い上がってきた時、皆が一歩後ろに下がりそうになる。
その時、アシェル殿下の声が聞こえた。
「下がるな! 下がれば自分の大切なものが死ぬと思え! この場の死守こそが未来を守る唯一の道! 前を向け!」
『絶対に、守る』
手が、震えた。
皆がその声に鼓舞され古竜を見据える。古竜は炎を吐き、長いしっぽは岩を薙ぎ払う。
カザン様達獣人達は爪と牙を露にすると、咆哮をあげた。
「行くぞ! 前へ出ろ! 我々の爪は岩をも砕く! 古竜を止めるのだ!」
巨大な古竜を押さえつけるために、騎士達は魔術具の縄をその体へと投げ、地面に設置されている固定魔術具へとつなげる。
人間がこの世界を生き残る上で発展してきた魔術具は多種多様である。
だからこそ、強大な敵への対応魔術具もまた進化を続けていた。
「魔術を発動させる!」
古竜に掛けられた縄には光が走り、古竜の体を地面へと押さえつける。
「炎が来ます! 前方の騎士達は退避!」
ココレット様の声に従って騎士達は行動する。ココレット様は変化した未来を見つめながら声をあげている。
おそらくかなりの体力を使うのであろう。ふらつくココレット様の体を私は支える。
オリーティシア様はこちらに富んできた炎や岩を剣で防いでくれている。
歯がガタガタと音を立てて鳴る。心臓が煩いくらいに鳴り、恐怖が胸の中を渦巻くけれど、前を見ることを私はやめない。
怖くても、出来ることなど限られていても、私は目を背けてはいけないと思った。
その時、ココレット様が息を呑むのが分かった。
ココレット様の予言通りに、皆がそれぞれの指示に従いながら攻撃をよけ、古竜を眠らせるように奮闘する。
倒すことが目的ではない。
「……何か、何か足りない」
ココレット様がそう呟くと、爪を噛み、震える手を抑えながら目を凝らす。
「あと少し、何かが、見えそうなのに……」
そうココレット様が呟いた時、古竜がこちらの方へと頭をぐっと向けた。
その赤い瞳がこちらをぎょろッと見つめたかと思うと、口の中でくすぶる炎が大きくなり始めるのが見えた。
「ココレット様! だめだ! 狙いを定められました! 退避!」
ダミアン様がそう叫び、さすがにオリーティシア様も無理だと判断したのだろう。ココレット様を軽々しく抱き上げると走り始めた。
私はオーフェン様に抱えられる。
二人の魔術具を使っても竜の炎を止められるわけではないので、退避の為に移動魔術具を使おうとした時であった。
「ダメ! 戻ってください! 私達は囮でいい! その間に反対側の魔術具を発動させ、地面を砕き、古竜を地中へと落とします!」
ココレット様の声に、ダミアン様とオーフェン様が息を呑む。
私とオリーティシア様も、ココレット様を見つめた。
皆が足を止め、そして竜の方へと視線を向けると、今にも口の中の赤々とした炎が吐き出されようとしている。
「ははは……あれを、どうしろと」
『まじかよ』
「無茶を言うわねぇ~」
『死ぬわね』
「ははっ! ココレット様って意外とおちゃめね!」
オリーティシア様は飛んできた岩を片腕で持っていた剣で砕き、ココレット様を地面に下ろすとまた剣を構えた。
「古竜を背中を狙ってください! 地面を砕き、地中へ落とします! 魔術でその瞬間に催眠を!」
ココレット様の声に皆が呼応するように動き始めた。魔術師達は全力を地中の魔術と催眠の魔術へと向ける。
この一瞬で決める。
そう皆が思って行動をしているが、私達の前へと獣人のカザン様やアシェル殿下、それに他の騎士達が現れると古竜へと攻撃を仕掛けていく。
背後からの部隊と正面からの部隊に分かれた様子である。
正面からの部隊は明らかに危険である。
アシェル殿下が古竜に向かって剣を構え向かっていく姿に、私は声をあげた。
「アシェル殿下!」
声が届くことはない。
皆が危険な状況で、皆が命を懸けている。
それは分かっている。けれど、手が震える。体が震える。
心臓が痛い。
「エル様。ユグドラシル様。お願いです。お願い。力を貸して」
精霊であるエル様の力は弱っているのは分かっていた。
妖精であるユグドラシル様がこの国には来たくないと思っていることも知っている。
けれど、この命を懸けてもいい。今の私にできるのは、お願いすることしか出来ない。
私は声をあげた。
「エル様、ユグドラシル様! 力を、お願いします。貸して下さい!」
たくさんの方に読んでもらっているみたいですー!
読んでくださった方!ありがとうございます!!
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