十八話
アシェル殿下とヴィクター様は私達と離れた直後すぐに地上へと戻されたようで、私達を探すためにノア様達と合流をし地中への入り口を探していたのだという。
エル様がアシェル殿下の元に、先に風を飛ばしてどこから出てくるかを伝えてくれていたようで、だらこそ間一髪間に合ったのだという。
先のことを読み、私達の為に力を使って眠ってしまったエル様。
私は心から感謝し、お礼を絶対にしなければいけないなと心に決めたのであった。
「とにかく、一度戻りましょう」
『エレノア。泥だらけだ。着替えをした方がいい』
私はアシェル殿下の言葉に首を横に振るとノア様の方へと視線を向けた。
「ノア様は古竜について何かご存じありませんか?」
尋ねられた言葉に、ノア様は少し考えてから口を開いた。
「自然界にも恐らくかなり数は少ないですが、竜は存在します。単独でも生き残れるほどに強く、それでいて何千年も生きる存在です。人語を理解しない個体が多く、意思疎通は難しいかと思います。そうした竜は神の使徒だと考えられています」
『同じ竜でも、竜人の王国にいた竜達とは違う』
その言葉になるほどと思いながら、私は視線をココレット様へと向けた。
ココレット様は視線を少し彷徨わせた後に、静かにうなずくと口を開いた。
「エレノア様、私の話を、聞いてくれますか?」
『他人は信じてくれないと思うがよ。でも、エレノア様なら、信じてくれる』
私がうなずくと、ココレット様は口を開いた。
「たくさんの、未来が見えるんです。糸が絡まっているように。私とオリーティシア様は、もしあの場にエレノア様がいなかったら、どうなっていたかはわかりません。真っ黒な未来しか見えなかったので」
『真っ黒空を見ているかのようだった……』
皆がココレット様へと視線を向けており、ヴィクター様は驚いたように目を丸くしている。
「元々の未来ではサラン王国は滅びていて、けれどエレノア様とアシェル様を国交会場で見た瞬間にその未来は別にものへと変わったんです。つまり、私が見える未来は、たくさんあって今がどの未来に繋がっているのかも分からないんです。私の妄想かもしれないし、けれど妄想にしては鮮明だし、当たっていることも、多いんです」
『怖い。本当は他人に知られるのが怖いがよ。だから、兄様にも言ったことがない。けれど、このままじゃ……大変なことになる。エレノア様に私は勇気をもらった。だから、だから頑張るしかないがよ!』
ココレット様の言葉を聞いた私は、ココレット様の前へと移動するとその手をぎゅっと握る。
「勇気を、出してくれて、ありがとうございます」
手は震えており、ココレット様が浮かべる笑顔もぎこちがなかった。
オリーティシア様は私の横に来ると、ココレット様に指輪を差し出した。
「さっきは、私を止めよとしてくれていたのね。これ、貴方が持つべきものなのでしょう?」
『……結局私は、何者でもないただの女で……はぁ。情けなくなるわ』
ココレット様は指輪を受け取ると、不安そうに口を開く。
「オリーティシア様は男性にも負けず、立派な方で、エレノア様は勇気があって精霊にも愛されている方です。だから、私なんかより、絶対に指輪に相応しいんです」
『怖い……これで違ったら? いや、これで本当に私が予言の乙女だと確定したら?』
渦巻くような不安。私はココレット様に笑みを向けた。
「オリーティシア様は本当に素敵な女性ですよね。私もそう思います。けれど、私は同じようにココレット様も素敵な女性だと思います。私に勇気があると言いましたけれど、私よりもココレット様の方が勇敢です。だって、未来何があるか見えながらも、一緒にレプラコーンを追いかけてくれたのでしょう?」
私の言葉に続けるようにオリーティシア様も言った。
「ココレット様。私は、自分が予言の乙女であればいいなと思っていました。それは自分の地位を高めたいという思いがあったから。けれどね、私ではないのよ。そしてエレノア様でもない。まぁ、もしもあなたも予言の乙女でなかった場合には笑い話になるようにしてあげますから、ね?」
私達の言葉を聞いたココレット様は、オリーティシア様から指輪を受け取り、そしてそれをじっと見つめた後に、大きく深呼吸をした。
『エレノア様とオリーティシア様が背中をおしてくれたがよ。きばるしかない! 私の見た物が未来ならば、私は予言の乙女なのだから!』
指輪をゆっくりとココレット様がはめた瞬間、失われていた光が眩いばかりに輝きだし、それは空に向かって光を解き放ち、空は青く澄んでいるのに星がきらめいて見えた。
あまりに美しい光景に私達が目を見張っていると、ココレット様は目を見開き、そしてその体は温かな乳白色の光で包まれた。
瞳が美しい黄金色に輝き、そしてココレット様は口を開いた。
「すごい……鮮明に、見えます」
『不安が消えた……未来が、見える』
先ほどまでのココレット様は、まだどこか不安そうであった。けれど今は違う。
胸を張って立ち、背筋は伸びている。
空を見上げてココレット様は何か聞こえるのか何度か頷いているのが見えた。
一体、何が起こっているのだろうかと思っていると、いつの間にかレプラコーン達が近くの岩の上に集まっており、先ほど渡した木の実を口の中で転がしならそれを眺めている。
そして次の瞬間、空がはじけたように輝くと、私達は舞踏会の会場へと移動しており、舞台上にココレット様は光に包まれて立っている。
会場には他の国々の貴族や王族達が集まっており、突然現れた私達や舞台上にいるココレット様を見つめている。
『どこから現れた!?』
『指輪! あれは、マーシュリー王国の姫!?』
『オリーティシア様ではなかったのか!』
会場中がざわめく中、ココレット様は天井へと手を伸ばすと、口を開いた。
「神々より、これから何が起こるのか信託を受けました。周辺諸国の皆様にはご協力いただき、この危機を、国という垣根を越えて乗り越えていきたいのです。ご協力いただけるでしょうか」
『まだ、怖い』
ココレット様の声が聞こえ、私は心の中でエールを送る。
そしてアシェル殿下が一歩前へと進み出ると口を開いた。
「私達はココレット嬢が指輪をはめる瞬間を目撃しております。彼女が神々に選ばれた予言の乙女で間違いないかと思います」
『エレノア。一緒に同意して』
私もアシェル殿下の横に並び、声をあげた。
「私も、アシェル殿下と同じ考えです」
それに続いて、オリーティシア様も前へと進み出た。
「私も指輪をはめてみましたが、光は失われ、何も起こりませんでした。指輪が、彼女が予言の乙女だという証拠です」
『ココレット様。大丈夫です』
会場は私達の声に、ココレット様への心の声で溢れていく。
『本当に!?』
『指輪をはめているのだから、そうなのだろう』
『だが、まさか小国の姫とは……』
現実的に指輪をはめているのだから認めるべきなのに、会場の中の皆の心の声は芳しくない。
男性優位の社会において、女性の発言権はまだまだ低い。けれどだからと言って神々の信託があったのにもかかわらずどうしてと、私は憤りを感じる。
「エレノア。行こう」
『さぁ、援軍だ』
「はい!」
アシェル殿下は舞台の上にいるココレット様の元へと私をエスコートして連れて行ってくれたのであった。
春らしい天気が続いております!
お花見したいですね!(●´ω`●)






