十話 アシェル殿下は可愛い
ハリー様に案内されたのは、アシェル殿下の執務室の隣にある客間であった。
そこにはまだアシェル殿下の姿はなく、しばらくの間、侍女がお菓子やお茶を準備してくれて、それを楽しみながら待つこととなった。
ハリー様は、そんな私にこっそりと言った。
「実の所、エレノア様がジークフリート様と接触したとの連絡を受け、アシェル殿下が慌てて僕を送り込んだのですよ」
『ぼんきゅーぼーん』
「え?」
私が首を傾げると、ハリー様は楽しそうに笑った。
「殿下のやきもちですかね? ふふっ」
『ぼんきゅぼんが大切なんだなぁ』
私は、嬉しいような、何ともいえない感情を抱くのだが、静かに思う。
もしかしてハリー様は私のことを頭の中でぼんきゅぼんと呼んでいるのだろうかと。
あと、頭の中では意味のない言葉かりを考えて、考えを口に出す人だとは思っていたが、頭の中がその単語しかほとんど出てこないのはいかがな物だろう。
ハリー様の頭の中の思考回路がどうなっているのかが気になるのであった。
しばらくした後に、アシェル様は慌てた様子で部屋へと駆けこんでくると、笑顔で言った。
「エレノア嬢、お待たせしました」
『ジークフリート殿に会ったと聞いたけど、大丈夫だったかな? 彼は、天使のような見た目で腹黒だからなぁ。エレノア嬢は、どう思ったんだろう』
私はそれを聞いて、アシェル殿下もハリー様も人の心の声は聞こえないのにしっかりと把握されているのだなと感心してしまった。
「お仕事お疲れ様です」
「いえ、もう少し早く終わらせられたらよかったのですが。朝は庭に散歩に行ったようですね」
『えー。大丈夫かなぁ。ジークフリート殿の外見に騙されて何て……ないよね?』
何と答えればいいのだろうかと思いつつ、アシェル殿下を見つめると、不安そうにこちらを見つめる視線に、私は胸がトクリと鳴った。
薄らとではあるけれど、もしかしたらアシェル殿下は嫉妬に似た感情を抱いてくれているのだろうか。
そう思うと、何となく、嬉しいような気持ちになって、私は内心思ってしまう。
アシェル殿下はやはり可愛いと。
「朝の散歩は気持ちが良かったです」
「ジークフリート殿に会ったと聞いたけれど、彼は中々のやり手な人間だから、会う時には注意するようにしてね」
『エレノア嬢は可愛いのだから、気を付けないと……男は狼なんだぞ。いや、それは分かってるか? うーん』
「そうなのですね。気を付けます」
私が素直にそう答えると、アシェル殿下はほっとしたようにうなずいた。
アシェル殿下から男は狼なんて言葉が出るとは思わなかったけれど、少しだけ、アシェル殿下をちらっと見て思う。
アシェル殿下も狼なのだろうかと。
そんなことを考えて、私は慌てて火照る顔を振ったのであった。
「え?」
『なぁに? え? 可愛いけど、ちょっと待って。ジークフリート殿のこと、もしかして? え? え?』
「すみません。あの、その、アシェル殿下と会えたことが嬉しくて」
慌てて、嘘ではなくそう思ったことを言うと、アシェル殿下が目を丸くした。
「へ?」
『へ?』
現実の声と心の声が重なり合い、アシェル殿下の顔が見る見るうちに赤く染まっていく。
私も思わず顔がどんどんと赤らんで行くのを感じた。
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