十三話
アシェル殿下を巻き込んではいけないとそう思った。
精霊のエル様を呼ぼう。アシェル殿下を危険に巻き込むわけにはいかない。エル様を私は呼ぼうと口を開いた。
「エル様」
けれど、次の瞬間、私の体はアシェル殿下に抱きかかえられていた。そして一緒に落ちていく中で、アシェル殿下が声をあげた。
「皆! こちらへ!!」
『間に合え! 間に合え! 間に合え!』
ヴィクター様は片腕でココレット様とオリーティシア様とを引き寄せると、アシェル殿下の伸ばした片腕をもう片方の手でつかんだ。
筋骨隆々としたヴィクター様の腕の中で、オリーティシア様は身を固め、ココレット様はぎゅっと目をつぶっている。
アシェル殿下の指につけていた魔術具である指輪が次の瞬間砕けた。
それと同時に私の傍にエル様が姿を現すと、魔術を援護するように緑の風が吹き抜ける。
その瞬間、私達の周りに光が溢れる。エル様の風がそれを守るように吹き、地面へゆっくりと降りていく。
下を見下ろせば、うっすらと光輝く緑の若草が見え、風もないのにゆらゆらと揺れているのが見えた。
そして私達が無事に地面へと降りた。
一歩足を踏み出せば、ゼリーのように揺れるので、普通の地面ではないのは確かだ。
「ここは……」
上を見上げれば落ちてきた穴が点となって見えた。
アシェル殿下の腕の中にいたのだけれど、私は力強くぎゅっと抱きしめられた。
私はアシェル殿下の顔を見上げると、今にも泣きだしそうな表情を浮かべ、私のことをぎゅっともう一度強く抱きしめた。
「エレノア」
名前を呼ばれた時、私はアシェル殿下がかすかに震えていることに気が付いた。
『エレノア。エレノア。エレノア。どうしてあの時手を伸ばさなかったの。ねぇ、君、僕を巻き込まないようにって考えたでしょう。エレノア。僕は今、怒っているんだよ』
抱きしめられる腕の力に、私はアシェル殿下の胸に頭をもたげながら、小さく息を吐いた。
怖かった。
けれど一番怖かったのは、アシェル殿下を失うかもしれないということであった。だからこそあの瞬間、私は、アシェル殿下から目を反らした。
私はアシェル殿下の背中に腕を回すとぎゅっと抱きしめ返した。
「ごめんなさい。でも、私もあなたを失うのが怖かったのです」
そう言うと、アシェル殿下は私の両頬を手で包んで、泣きそうな顔で言った。
「僕もだよ! お願いだよ。お願いだ。危ない時には守らせて。頼むから……僕を優先なんてしないで」
真っすぐに告げられた言葉に、私は涙が溢れてきた。
お父様にもお母様にも、誰からも愛されなかった私を、この人は愛してくれている。
そして私も、自分の死よりも、アシェル殿下を失う方が恐ろしくなるほどに、愛している。
私達はお互いの存在を確かめ合うようにもう一度ぎゅっと抱きしめあった。
『……精霊!? どういうことなの? エレノア・ローンチェストはただの見た目だけの女ではないの!?』
『アシェル殿!? 僕!? 瞳一杯に涙をためる……だと!?』
『どういうことだぁ!? なんでエレノア様が精霊を? 私が見た未来とは全然違う。やっぱり、私のただの妄想なのけ? でも……この穴に落ちるのは当たっていたし……』
心の声が聞こえ始め、私は現実に引き戻どされて慌ててアシェル殿下から離れようとしたのだけれど、アシェル殿下が離してくれない。
『『『それにしても……いつまで抱き合っている?』』』
私は恥ずかしくなって顔が真っ赤になっているのが分かった。そして慌ててアシェル殿下の腕から逃れるように離れたのだけれど、すぐに、アシェル殿下に引き戻されてもう一度抱きしめられた。
そしてそのまま横抱きにされると、アシェル殿下はさも当たり前のように、こちらの様子を見守っていた三人に言った。
「すみません。とにかく無事でよかったです。では、今後のことについて話しましょう」
『エレノアはこのまま抱えられていて。未だにさっきのが怖くてたまらないから、しばらく離れないよ』
私は羞恥心から両手で顔を覆った。
物語が進むと、好きなキャラクターが増えていきます(*´▽`*)
キャラクター名鑑欲しいです(●´ω`●)






