十一話
一瞬光に包まれたかと思うと、そこは美しい緑あふれる庭のような場所であった。
ただ、遠くに見える建物などは壊れているのか、緑の蔦が絡んでおり、崩れているようであった。
「ここは……」
私が辺りを見回すと、なんとその場にはオリーティシア様とジークフリート様の姿もあり、私達は顔を見合わせた。
「エレノア嬢!? どうしてここに!」
『光っていた扉にはいったのだが、その場にはいなかったはずだ! 何故……って、アシェル殿下に他の何人かもいるのか? あ、ココレット嬢も……』
「これは……一体」
『人を見る限り……神々に選ばれているのかしら……それにしても、一体、神々は何を伝えたいの? 何故指輪をそもそも本人に渡さないの? 私ならば私と指名してくれればいいものを、何故?』
二人の心の声を聴きながら、私達は一度集まると辺りを見回した。
その場にレプラコーンの姿はない。そして、先ほどまであった扉も消えている。
一体何が起こったのだろうかと思っていると、ノア様が口を開いた。
「アシェル殿下、私は周辺を確認してまいりますが、その間エレノア様の傍を離れてもかまわないでしょうか?」
『この人数を俺一人で守るのは難しい。せめて周辺の安全だと確認したい』
アシェル殿下はうなずいた。
「ノア殿、頼みます」
『まずは動かない方がいいか』
私達は一か所に集まると、ノア様が帰ってくるまでまつことになった。
不思議なもので、待っている間とても穏やかな風が吹き抜けていく。
誰も口を開くことなく、その後ノア様はすぐに帰ってくると言った。
「周囲に問題はないようですが、一定の距離まで行くと、進めないようになっているので、この場所は部屋のような場所なのかもしれません」
『壁に囲まれているようだった』
その言葉に、私達はここはいったいなんなのだろうかと思いながらも、レプラコーンを探すことにすると、周囲を探し始めた。
ただ、レプラコーンの声は一切聞こえない。
その代わり、煩いくらいにヴィクター様の声が響いて聞こえた。
『アシェル殿と語り合いたい。どうすれば……うむ。ココレットにエレノア嬢の相手をしてもらうか。どうか、二人で……あぁ。胸が高鳴る。く。落ち着け俺。落ち着け俺の筋肉』
そしてたまに入るハリー様の的確な心の声。
『筋肉バカ』
何故こうも私を笑わせようとしてくるのか。
私はぐっと奥歯を噛んで我慢をする。
一度壁があるとノア様が言っていた箇所までノア様、ハリー様、ジークフリート様の三人が探索に行くことになり、私とオリーティシア様、ココレット様、そしてアシェル殿下とヴィクター様がその場に残ることになった。
アシェル殿下は少し先まで見てくると言い、見える範囲ではあるけれど少し先の方にいる。
『私一人だと、ぼろが出るに決まっとるがね。絶対に兄様からは離れないがよ』
『アシェル殿と一緒。ついに、ついに語るべき時が来たか!』
兄妹で考えていることは違うけれど、仲がいいんだろうなと私は内心思った。
私は、せっかくの機会なので話を聞こうと口を開いた。
「オリーティシア様方の前にも光る扉が現れたのですか?」
その言葉に、オリーティシア様はちらりと私の方を見るとため息をついた。
『なんで私がこんな見た目だけの女に話ししなくちゃいけないの? 私は一人でも指輪を探しに行きたいのに』
答える気がないのか、オリーティシア様は心の中でそう呟くとため息をもう一度つく。
私は視線をココレット様へと移した。
「ココレット様は、扉に迷いなく入られましたが、怖くはなかったのですか?」
ココレット様は口を開けた後、静かに閉じた。
『言ってもしょうがないがよ。ここに入るべきだと思っただなんて、信じてくれるわけがないが』
その言葉に、私は静かにハッとした。
神々の言葉を思い出したのである。
“予言の乙女が自らの意思で、己を信じた時、指輪は乙女に答えるであろう”。その言葉はつまり、今、予言の乙女は己を信じることが出来ていない状況ということだ。
オリーティシア様の瞳は自信に満ち溢れており、そしてココレット様は常に不安を感じている。
ココレット様に自信を持つことを神々は願っている?
そういえば、確かにココレット様の心の声は常に自信がないものであった。
自分のことを信じていないというか、自身がないというか。
何故なのかは分からないけれど、ココレット様は予言の能力を有していながらもそれを信じられていない状況にあるのかもしれない。
だからこそ不安で、だからこそ自分から口を開かない。
それが正しいことなのか、本当に起きるかは分からないから、口を開かないのだ。
私はそれに気が付いた時、ココレット様も私と同じようにこれまで悩んできたのかもしれないと感じた。
ノア様が危なかった時に何も言わなかったことに私は一人で憤りを感じたけれど、自分だって心の声が聞こえるからと言って、面と向かって私は心の声が聞こえるので、あの人は危ない人ですなんてこと、言えたことはなかった。
そう思った瞬間、私は自分のことが恥ずかしくなった。
知った気になって、勝手に、理解もしようともせずに憤りを感じた自分はなんと浅はかなのだろうか。
「ココレット様……」
「私は」
『全部夢だったらいいのになぁ』
うつむくココレット様に、私はなんと声を掛けたらいいのだろうか。
「エレノア嬢。うちのココレットはあまり社交的ではないのだ」
『はぁぁ。しゃべって訛がばれるのは恥ずかしい。くそ。こんなことならもう少ししゃべる練習をさせてくればよかったな! ココレットには心の筋肉をもう少しつけさせるべきか』
心の筋肉とはいったい何でしょうか。
私は、ヴィクター様にハリー様と似たような空気を感じ始めた。
こちらは春らしい日々になってきました。
私は風の匂いを感じるのが好きなのですが、たまにあれ?この風、おじいちゃんちの香りがするぞなんて変なことを思ったりします(/ω\)






