十話
会場内は行方不明になった指輪を探すために皆が集まり、男女や身分に関係なく皆がくまなく必死に探していく。
各箇所を手分けしており、一か所一か所しらみつぶしに探していくのだけれど、レプラコーンの姿はなく、どこへ行ってしまったのかが分からない。
「アシェル殿下、一体どこへ行ってしまったのでしょうか」
私がそう尋ねると、一緒に探していたアシェル殿下は、額の汗をぬぐいながら立ち上がり背伸びをすると言った。
「そうですねぇ……彼らがどこに住んでいるのかも検討もつきませんしね」
『まさかこんなことになるなんて、想像もしていなかったよなぁ。はぁぁぁ。でもとにかく見つけなきゃね』
会場にいるのは王族が多く、探すことになど慣れていない者ばかりなので時間もかかる。
使用人達に苛立ちをぶつける者まで出始めており、険悪な雰囲気が流れ始めていた。
私の近くにはココレット様もおり、私は注意深く彼女の同行を見つめていた。
「私、ココレット様と話をしながら探してみます。いいでしょうか?」
「分かりました。でも無茶はしないでくださいね」
『彼女のことは気になるよね。エレノア、よろしく頼むよ。でも、無茶はなしだよ』
私はうなずき、ココレット様がいる場所へと移動すると声をかけた。
「ごきげんよう。ココレット様。正式にはご挨拶をしておりませんでしたが、サラン王国から参りました。エレノア・ローンチェストと申します。そちらはどうですか? 指輪、どこへ行ったのでしょうね?」
ココレット様は驚いたように肩をびくりと震わせると、私の方を見て、慌てて立ち上がりスカートについたほこりを払うと言った。
「マーシュリー王国より参りましたココレット・マーシュリーと申します。ご挨拶が遅れてしまい申し訳ありません」
『んだなぁ。綺麗な人だなぁ……だけど……本当に生きていたんだなぁ……』
一瞬、私は背筋に寒気が走り、ぞっとして動けなかった。
“生きていたんだなぁ”ということは、もしかしたら私は死んだと思っていたのであろうか。
たしかにゲーム上ではサラン王国が亡びるというエンディングもあった。しかし、現実にはそれは起こっていない。
そう考えるとやはり予言の乙女はココレット様なのではないかと思う。それか転生者か。
私は確証が欲しいと思い、笑顔を顔に張り付けるとココレット様に尋ねようとした時であった。
いつの間にか私の横にはヴィクター様が経っており、私のことを睨みながら見下ろしていた。
「あ……」
挨拶をしようと口を開こうとした時であった。
『くぅっ。この女がアシェル殿の婚約者……たしかに美しい。だが、だが完璧な王子で、誰もがうらやむ美貌! 所作! そして強さ! あぁぁ。アシェル殿の横に本当に立つのにふさわしいのか!? 俺もやっと自信をもってアシェル殿下の横に立てるくらいになれたと思ったのに、くっ。負けぬ!』
『兄様ったら、そんな顔で睨んでも、何にもならんがよ。アシェル殿下大好きはかわらんのけ』
私の頭の中は混乱が渦巻き始める。
大好き?
今の心の声の真意が分からないというか、頭の中が疑問でうまく回転しない。
「えっと」
言葉を詰まらせてしまうと、ヴィクター様は私を小ばかにするように言った。
「マーシュリー王国より来たヴィクターと申す。ココレットの兄だ。アシェル殿とは旧知の仲であり、大親友だ」
『っふ。負けぬぞ。俺の方が絶対にアシェル殿の横に立つに相応しい!』
聞いていた前情報との違いに、私は思わずどう答えるべきか悩んでしまったのだけれど、どうにか立て直すように一礼をする。
「よろしくお願いいたします。エレノア・ローンチェストでございます。アシェル殿下より、幼い頃に一緒に過ごしたことがあるとお聞きしております」
「ふっ」
『俺達の仲はそのように浅い物ではない。っふふふ。お前の知らぬアシェル殿の姿を俺は見ているのだ! ふははははは! 負けぬぞ!』
頭の中が混乱する中、私はどうにかココレット様と話をしようとする思うのだけれど、私の前からヴィクター様はどかずに言った。
「まずはあのレプラコーンを探すのが第一! 一緒に探そう!」
『ココレットがしゃべるのを聞かせたくないぞ。っく。我が妹ながらなぜ訛を直さないのか! ふふふ。アシェル殿の昔話でも聞かせてやろう』
ヴィクター様はそう言うと私の手を取ろうとしたのだけれど、後ろからとんと私の肩に手を置き、アシェル殿下が来てくれたのを感じた。
「エレノア」
『……ヴィクター殿……馴れ馴れしくないな~? もしかしてエレノアとお近づきになろうとしている?』
「?」
アシェル殿下はいつものように笑顔を浮かべていたけれど、それは表面的な笑顔であり、私はどうしたのだろうかと思うと、ヴィクター様に向かって口を開くのを見つめた。
「あ、アシェル殿。久しぶりだな」
『ふふふ。ひ、久しぶりだな。ふふふ。アシェル殿に相応しい男に俺はなったぞ。見てくれ。俺のこの筋肉を。この鍛え抜かれた体を!』
「えぇ。お久しぶりです。お元気にされていましたか?」
『……む……なんだこの、感じ』
「あぁ! 元気にしていた!」
『嬉しい。嬉しいぞ。あぁぁ。心が滾ってきた。この滾る思いを聞いてほしい』
私はそっと、アシェル殿下の腕をぎゅっと掴むと、ヴィクター様を見つめた。
アシェル殿下が、恐らく狙われている。
私はそれを察知して、オリーティシア様とは違ったアシェル殿下に向ける好意に、アシェル殿下を渡さないぞと気持ちを強くする。
「そうですか。では、私はエレノアと共に探すのでこれで」
『なんだろう……この距離感……エレノアにアタックするつもりかなと思って間に入ったけど……とりあえず、エレノアに近づく気は……ないのかな?』
「あ、アシェル殿……行かないで……えっとその、一緒に探そう」
『待ってくれよぉぉぉ。話したい。話したい! 俺のこの想いを伝えたい!』
この人はアシェル殿下には近づけてはいけない。私がそう思った時であった。
また大きくその場が揺れて、私達は伏せると揺れが収まるのを待った。
その時であった。
「あ! あれ」
『道が開いた……見たとおりだぁ』
ココレット様の声に、私達が視線を向けると、そこには扉があり、キラキラと光っている。
私は耳を澄ませると、確かに中から声が聞こえた。
『わぁぁい。げっとぉ』
『ふふふ。人間大騒ぎ』
『かくれんぼだなぁ』
恐らくその声の主はレプラコーンだろう。人の声よりもかなり高い声で話をしているので特徴がある。
私はアシェル殿下に小声で言った。
「中にレプラコーンがいると思います」
アシェル殿下は頷くと、一瞬迷ったように眉間にしわを寄せた。
一緒に行くべきか迷っているのだなと思い、私はハッキリと告げた。
「私も一緒に行きます」
その言葉にアシェル殿下は少し考えて頷くのが見えた。
「行きましょう」
『でも、危ないと思ったらすぐに逃げるからね』
「はい」
その時、扉が光ったかと思うと、閉じようとしているのが見えた。
恐らくその周辺にいた人だけが気づいた。私とアシェル殿下、そしてノア様、ココレット様とハリー様はぎりぎり扉の中へと飛び込んだ。
緊張から心臓が痛い日々が続いております(*´▽`*)
こういう時には深呼吸!
最近、一日一日を大切に生きようと心がけております。日常の忙しさに忙殺される毎日だけれど、こうやって毎日を笑顔で過ごせることは最高に幸せだなと思います。
私の本を読んでくださる皆さまに感謝感謝です(●´ω`●)
短編を一本あげました!そちらも読んでもらえたら嬉しいです!
【どうやら私は不必要な令嬢だったようです】






