八話
発売日!
今回の国交会は周辺諸国の小国が合同で主催となっている。
周辺諸国とは言っても、小国もかなりある。だからこそ、負担を軽減するために小国は数か国が同時に主催を協力して行うことになっているのだ。
サラン王国の主催はまだまだ先とのことで、今回はいずれくる順番の為に勉強をしておこうと私は思っていた。
オリーティシア様の先ほどの堂々とした姿を見て、私は勉強することがいっぱいあるなと感じた。
自分にはまだ力がない。だからこそオリーティシア様のように自立している女性に刺激を受けた。
オリーティシア様は私のことを今は認めていない。けれどそれをいつか覆したいという思いを私は抱いた。
憧れと、女性として自立しているオリーティシア様に多少の嫉妬。抱いたことのなかった感情が自分の中に芽生えたことが不思議と楽しく感じた。
負けたくない。
そんな感情だ。
会場の中でオリーティシア様はひときわ輝いて見えた。ジークフリート様はどこか諦めに似た感情を抱いていて、お姉様には弱いのだなと思った。
『ジークフリート。貴方には貴方の役割があるでしょう。しっかりなさい』
『あぁー。姉上張り切っているなぁ。ついこの間まで僕と一緒に剣を振り回していたのになぁ。さっきのあの様子だと、アシェル殿下をまだ諦めていないのか……っと……エレノア嬢は……今日も可愛……いくない! しっかりしろ僕!』
剣を振り回していた? 私はたしかにオリーティシア様は身長も高くそれでいて普通の女性よりも体格がしっかりとしているように思えた。今ももしかしたら鍛えているのかもしれない。
また先ほどからこちらをちらちらとジークフリート様は見ては、私のことを可愛くないと心の中で呟いている。ちょっとむっとしてしまうけれど、人の感情はその人の物なのだから仕方がない。
ジークフリート様については、もう私のことをどう思っているのかよくわからない。
「エレノア。オリーティシア様は現在アゼビアでも第一王子よりも人気を持つ女性なんだ」
『人格者だという噂だよ。できれば彼女がどのような人か把握しておきたいね』
オリーティシア様の思惑などアシェル殿下は現在は気づいてもいないのだろう。先ほどまで楽しかった気持ちは一瞬で嫉妬に変わり、その発言に私は小さな声でいった。
「アシェル殿下も、オリーティシア様のような人が……良いですか?」
これは違う。これではただのやきもちだとハッとして私は口を押えると、アシェル殿下が私を見て少し驚いたよう顔をしてから口元をぐっと手で押さえた。
『可愛い。やめて。ちょっと待って。可愛い。可愛い! はぁぁぁぁ。だめだ。むぅぅぅ。エレノア。今のは可愛すぎる。ああぁっ』
私はどうしてそうなるのだろうかとアシェル殿下を見つめると、アシェル殿下の手が私の手をぎゅっと握り、そしてその瞳が私のことを愛おしそうに見つめた。
『僕は、エレノアが大好きだよ。エレノアがいい。なんか嬉しい』
嫉妬してしまった自分が恥ずかしくなってしまう。
「エレノア」
アシェル殿下に名前を呼ばれたその時、会場が突然突き上げられるような揺れを感じた。
「きゃっ!」
「なんだ!?」
アシェル殿下は私を支えてくれるけれど、突き上げるような、ドンという揺れがに三度続き、机の上に置かれていた者達が地面へと落ちる。
会場内では悲鳴があがり、騎士達は自分たちの主を守るように構える。
どこから現れたのか、ノア様が私達の前まで飛んで現れると言った。
「アシェル殿下、エレノア様! もしもの時はこの後、脱出します!」
ノア様の声に私達は頷いたけれど、その後、奇襲などはなく、その場にうずくまっていた人達も少しずつ立ち上がり始める。
一体何だったのだろうか。
そう思った時であった。
会場内の天井から光が溢れ、たくさんの声が重なったようなそんな美しい声が会場内に響き渡る。
「「「「「愛しき人の子らよ。探せ。美しき高貴なる乙女を。この会場に、予言をもたらす乙女がいる。見定めよ。さすれば危機を乗り越えられであろう。予言の乙女にこれを授けよ」」」」」
その声は頭に響いてくるようで、人の声ではない。
私は天井の光を見つめる。
キラキラと光を放ちながら小さな何かが落ちてくるのが見えた。
「「「「「予言の乙女が自らの意思で、己を信じた時、指輪は乙女に答えるであろう」」」」」
響いてくる声は幾重にも重なっている。それは、周辺諸国の神々の声なのか、信仰心の強い国の者はその場に膝をつき祈りを捧げている。
神々の声は温かさで包まれており、その声に心が揺さぶられる。
神々の信託なのであろう。
キラキラとした光を放つそれは会場の中央へと降りると、空中にて光を放ちながら留まる。
天井の光は消えると同時に、皆が会場の中央にある物はなんなのだろうかと近寄ろうとするが、近寄ろうとする一歩が踏み出せない。
「これは、どういうことだ……選ばれし者しか近寄れないという事か!?」
「近寄れる者はいないか!? 試そう! 全員だ! そして近寄れなかった者は下がるのだ!」
同意するように皆が一度は近寄れるようにと前へと進み出ていく。
神々の先ほどの声に皆が未だに興奮状態にあるようだけれど、どこか冷静であり、だからこそ押し合うことはなく、順序良く皆が前へと進んでいく。
私と焦る殿下も皆の流れにそって順番に前へと進んでいく。
「だめだ……僕はここから進めない」
『……まさか……エレノア』
「……行ってきます」
私はアシェル殿下よりも一歩前へと進んでいく。ふと横を見ると、見知らぬ眼鏡をかけた少女とオリーティシア様の姿もそこにはあった。
他にも後二名ほどの少女が前へと歩み寄ることが出来た。
けれど、その二人の少女は途中で足を止める。
『だめ、ここからは進めないわ。あぁ~。救国の乙女みたいなのになって見たかったけれど残念だわぁ~』
『あぁ……私ではなかったのね。はぁ……私なら絶対に相応しいのに残念』
そう呟きながらもどこか安心するような少女達は後ろへと下がっていく。残ったのは、私、オリーティシア様、そして眼鏡の少女であった。
私達は、緊張しながらも歩み寄っていく。
『あぁ、あぁ! これはチャンスだわ。私がもしその乙女ならば、私の地位はさらにあがる! 選ばれたい。選ばれたい! これは神が私に与えられたチャンスよ』
『んだなぁ……いや、私なわがない……まさかねぇ……足よ、足よ止まれ……あぁぁぁ進めるがよぉぉぉ。けど……それならやっぱり私……なら、未来は』
その声に、会場で聞こえていた訛がある少女はこの子だったのだなと考える。
足は止まらず、私も緊張が高まる。
そして私達三人は、指輪の元へと進むことが出来たのだ。
会場内はそれにざわめきが起こった。
『どういうことだ!? 乙女は……乙女は三人の内誰だ?』
『アゼビアの神官オリーティシア様、サラン王国の王子の婚約者のエレノア嬢、そして……誰だ?』
『えっと……あれは、小さな島国の……あー……誰だったかな』
『オリーティシア様が最有力候補というところか』
私とオリーティシア様と眼鏡の令嬢は顔を見合わせる。
これは一体どういう事なのだろうかと私は考えながら、先ほどの神々の言葉を思い出す。
“予言の乙女が自らの意思で、己を信じた時、指輪は乙女に答えるであろう”
予言の乙女とはどういうことなのか、それに己を信じた時とはどういうことなのだろうかと考えていると、オリーティシア様が声をあげた。
「現状、私達三人の中で、誰が予言の乙女なのか、確証を得ることはできないでしょう。ですので、一度各国の代表者一名ずつ集まり、会議を開くのはいかがでしょうか」
その言葉に、皆が賛同するようにうなずき、オリーティシア様はその後も言葉を続けた。諸国の方々もそれに同意するようにうなずき、一旦、部屋へと下がった後に、代表者のみ集まる算段がとられた。
あっという間に話がまとまっていくその中心にいるのはオリーティシア様であり、私は女性でありながら男性に押されることなく意見を通す姿に、このような女性もいるのだと驚かされた。
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