七話
テラス……テラス(*´▽`*)
テラスへと移動をした私達は、少し肩の力を抜くと用意されていたソファへと腰を下ろした。
飲み物をハリー様が用意してくれて、テラスの中には私とアシェル殿下、そしてハリー様の三人がいる。
「エレノア大丈夫? 疲れていない?」
『僕は緊張したー! はぁぁぁ。やっぱり、こういう場は緊張するよね』
私は頷くと、飲み物一口飲んでのどを潤してから答えた。
「大丈夫です。でも緊張しますね。やはり他国の皆様は国によって考えが異なり、かなり緊張しました」
「そうだよね」
『エレノアは綺麗だから、皆の視線を集めたね。ふふふ。可愛いエレノアを自慢したくなっちゃうよね』
その言葉に私はふっと笑ってしまう。そんな私達の後ろでハリー様がコホンと咳ばらいをする。
「せっかくの国交会ですので、あまりここにいるわけにもいきませんので、さっと情報交換をお願いします」
『ぼん、きゅ、ぼーーーん』
通常運転のハリー様に、私はまた笑ってしまう。
ハリー様の心の声は今ではもう私の心の安定剤である。この声を聴くと親しみと共になんだか場の空気が和まされてしまうようになってしまった。
中毒性がありそうである。
私はこれまで得た情報をハリー様に伝えていくと、ハリー様は頷きながら頭の中で様々なあだ名を呟いていく。
アシェル殿下は頷いて私の話を聞きながら、意外な部分には驚いたようにへぇっと小さく言葉を漏らす。
そして、私は一番気になっていた声について話をする。
「あの、実は先ほどサラン王国が亡びていないと呟く女性の声が聞こえて、それについて気になっているのです」
私の言葉にアシェル殿下も顎に手を当てて考える。
「それはどういう意味なんだろう……?」
『不吉すぎる……むぅ』
「ふむ。まあただの戯言という線もありますが、念のため、調査をお願いいたします」
『ぼん、きゅ、ぼーん』
「はい」
その時、会場の方からひときわ大きなざわめきと拍手が起こり、私達はお互いにうなずき合うと会場へと戻った。
一体なんだろうかと思っていると心の声が大きくなる。
『アゼビアの王女であり神官オリーティシア様だ! 今回は弟君であるジークフリート殿がエスコート役か! ふむ。オリーティシア様の地位を確固たるものにするためか』
『なんと美しいことか。だが美しいだけではないとは、末恐ろしい。国交の場に神官でありながら現れるとは、アゼビアは今後どう出るのか』
『女性だというのに堂々としたものだな。さすがだな。女性の地位を確立させようとしているとか……さてさて、どうなるものか』
会場へと私とアシェル殿下が戻ると、一手に視線を集めている女性が見えた。
その横にはジークフリート様がおり、表面上は笑顔を携え楽しそうな雰囲気だが、心の中はそうではないようであった。
『はぁ。なんで僕がエスコートなんか……まぁ、エレノア嬢にも会えるだろうから、いいけど。でも姉上こえぇぇ。僕にも色仕掛けでも何でも情報収集しろっていうんだから、はぁ。面倒くさい』
アゼビアの王女にして神官を務めるというオリーティシア様は、アゼビアの中で問題となった先の異教徒達を鎮め、元々の信仰心を取り戻すようにと神官として活躍したという。
現在アゼビアは第一王子が王位を即位するであろうと言われているが、神官であるオリーティシア様がここに現れたことは、私は驚いた。
それと共に、オリーティシア様に向けられる視線に衝撃を受けた。
私が現れた時、会場内の国々の人々の心の声は、見た目に関する物ばかりであった。けれどオリーティシア様は違う。
国交相手として見られている。
同じ女性だというのに、堂々としていて、男性にも負けない発言力を持つその様子に私はこんな女性もいるのだと衝撃を受けたのだ。
その姿は堂々としており、他国の方々に挨拶をしながらこちらへと進んでくるのが見えた。
『エレノア、さぁ挨拶をしよう。行くよ! 頑張ろう!』
アシェル殿下の心の声に、私は頷きながらも先ほどよりもさらに緊張してしまう。
その時、ジークフリート様と先い視線があった。国に一度帰ると話を以前聞いていたので、個の為だったのだなと思う。
『エレノア嬢! 可愛い! っくない。くぅぅ。癒し……違う。ううう。あぁぁぁ。姉上の横にいると居心地が悪いんだよなぁ』
その言葉に、緊張しているのは私だけではないのだなという思いを抱き、少しほっとする。
けれど、次聞こえてきた声に私は驚いてしまう。
『サラン王国のアシェル様。なるほど。確かに美しい方ね。私の夫にも相応しい方かしら』
夫? どういう意味であろうか。私は緊張から心臓がバクバクと鳴っていくのを感じながらも、どうにか笑顔を顔に張り付ける。
私達はお互いに形式的な挨拶を済ませ、オリーティシア様とジークフリート様も美しい所作でそれに答えてくれる。
通常の国交の為の挨拶である。
けれど、心の中は全く違った。
「サラン王国とは、今後も良き関係でいたいと考えております。どうぞ、これからも仲良くしてくださいませね」
『私がサラン王国へと嫁げば、さらに友好関係は強固なものへなるわ。アゼビアに私が残るよりも有益なのは間違いない。アゼビア神への信仰を広げることにもなるでしょう。それに、女性の地位が現在低いアゼビアよりもサラン王国の方が私の地位をあげることが出来る』
私という存在が横にいることなど、恐らくオリーティシア様の中には関係がないのである。
眼中にない。その言葉が自分にあてはめられた時、私は言いようのない思いを抱いた。
初めて感じるその思いに、私は内心動揺しながらも何か、何か私も会話に混ざろうと思ったのだけれど、会話はアゼビアとサラン王国との国交についてになり、アシェル殿下とオリーティシア様との会話に混ざることができない。
その時、ふとオリーティシア様と視線が交わる。
『低能な女性。見た目だけなんて。こんな女性がいるから、女性の地位があがらないのだわ』
かぁっと、顔が熱くなる。けれどそれを表面に出すわけにはいかない。私はぐっと抑えるように小さく気づかれないように深呼吸をする。
バカにされたのだと、それは分かる。
けれど、今までだって散々私は見た目で決めつけられて生きてきた。仕方がないのだ。結局のところ私はそれを覆すようなことを今までしてきていないのだから。
けれどオリーティシア様は違うのだろう。
自分の地位を確立するために必死にあがいてきた方なのだろう。だからこそ、他国からの視線が見た目ではなくその能力に向けられているのだ。
彼女に向けられている期待の声がその証拠だ。
「アシェル様とは今後も親しくさせていただきたいですわ」
『できればここで関係を深めたいところだわ。ジークフリートにエレノア様を任せて、落とさせてしまえばいけるのではないかしら。ジークフリート見た目だけはいいですしね』
ジークフリート様もおそらくこういう性格が分かっているから苦手意識があるのだろう。
ただ、たとえどんな女性であろうともアシェル殿下の婚約者は私であり、私が引き下がることはない。
私がアシェル殿下の婚約者なのだから。
「私も、オリーティシア様と親しくさせていただきたいです。私もまだまだ未熟ですので、ご教授願いたいですわ」
オリーティシア様のような女性の考えを、私はもっと学ぶべきではないかと感じた。確かに先ほど呟かれた言葉は心が痛かったけれど、私に足りないものをオリーティシア様は持っている。
ただ、だからと言ってアシェル殿下を譲る気はない。
だからこそ私も一歩前へと踏み出して話題へと混ざった。
オリーティシア様は少し驚いたような表情を浮かべる。
「私からもぜひ、エレノアとも親しくしていただけたらと思います。彼女は私のこれからの人生のパートナーですし、今後アゼビアとの国交の時には一緒にいる大切な存在ですので、ぜひ」
『オリーティシア様は思慮深い方だからきっとエレノアも良い刺激をもらうと思うよ』
アシェル殿下の言葉に、オリーティシア様の頬が一瞬引き攣るのが見えた。
「えぇ。もちろんですわ。私もそうしていただけると嬉しいですわ」
『やっぱり男は見た目第一というわけ? はぁぁ。アシェル様もやっぱり女性がお好きなのね。でも、私を知れば、パートナーには私の方が相応しいと考えられるのではないかしら。そうね。うん。エレノア様、踏み台にさせていただきましょう』
心の中で私は踏み台にはなりません! と負けないぞ! と思ったのであった。
一階でいいからテラスとかお洒落なものがついた場所に泊まって優雅に紅茶とか飲みたい(●´ω`●)
あと少しで発売日ですー!!!! すごく緊張します。ドキドキします(/ω\)
どうか買ってくれる人が一人でもいますように!