六話
季節はもう春ですね(*´▽`*)
「エレノア。今日も素敵です」
『ふわあぁぁ。やっぱりそのドレスエレノアに似合うよぉ! もうどのドレスを着ても似合いすぎるって罪だよね。ああぁぁぁ。他の男に見せたくないと思う僕の男心。むぅ』
私はアシェル殿下に褒められて少し照れながら、アシェル殿下を見つめた。
お揃いのドレスは一緒に選んだものであり、実際にこうやって着てみると少し照れてしまうけれど、お揃いはやはり嬉しい。
いよいよ舞踏会である。
周辺諸国が参加するこの舞踏会は失敗できない。そう思うと緊張するけれど、美しく侍女達によって磨き上げられ、アシェル殿下の選んでくれたドレスを身にまとえば、勇気が持てる。
「行こう」
『さぁ、頑張ろう。えいえいおー!!』
いつでもアシェル殿下の声は私に勇気をさらにくれる。
横にアシェル殿下がいてくれるのであれば、私は頑張れる。
「はい」
気合を入れて、美しいシュライン城の廊下を歩いていく。途中途中小さなレプラコーン達がどこから持ってきたのかケーキを運ぶ姿が見られる。
「ケーキが会場から無くなっていたら彼らが犯人ですね」
『どこに持っていくんだろうね』
「ふふふ。そうですねぇ」
後で会場のケーキがおかれているところを見てみようと、私はそう思った。
舞踏会の入り口にはすでに列ができており、王族が入る扉と上位貴族が入る扉とが分けられているようであった。
私達は王族側の方へと向かい、列に並ぶ。他の王族達との顔合わせとはなるが、マナーとしてここでの挨拶は行わない。あくまでも会場に入ってからが始まりなのである。
「サラン王国 第一王子アシェル・リフェルタ・サラン様、そのご婚約者エレノア・ローンチェスト様、ご入場です!」
重厚な扉が開かれ、私達は名前が呼ばれると一歩前へと進み、そこで一礼をして会場へと入場を果たす。
サラン王国とは違った雰囲気の舞踏会会場。
会場内には美しい緑の植物が置かれていたり、自生していたり。
天井にはシャンデリアが輝き、その周りには色とりどりの光の玉が浮かんでおり幻想的な雰囲気を醸し出していた。
そして次の瞬間、声が洪水のように私の耳には流れていく。
『んだなぁ……会場中が綺麗すぎで、自分が浮いてないが心配になる。大丈夫けぇ』
『あれが妖艶姫か。見事な美貌。体つきも中々に素晴らしい。さてさて時期サラン王国を背負う王子はいかがなものか。あの美姫に手玉に取られているのかどうか』
『アシェル王子、素敵ねぇ。ふふふ。私の花婿候補だったのに、婚約者が出来るなんて残念。婚約者……ふ~ん。あれがねぇ~。私の方が可愛いわ。えぇそうよ。負けてなんて……くぅ』
『さてさて、サラン王国とは今後もお付き合いしていきたいが、時代はどうなるかな。まぁ美女とはお近づきにはなりたいものだ。一夜の夢も、良いものだがなぁ~』
様々な声が聞こえるけれど、ほとんどがこちらに探りを入れてくるようなものであり、私は心臓が煩くなるのをどうにか小さく呼吸を繰り返して抑えながら、平静を装う。
私はアシェル殿下にエスコートされながら会場を進み、そしてそこからは交流会がいよいよ始まりである。
周辺諸国の王族と挨拶を交し合い、国交についてはあくまでも雑談として探り合いをいれながら会話を進めていく。
私は頭の中でしっかりと諸外国の方々との会話と、そして心の中で呟かれた言葉とを必死になって覚えていく。
要点だけを、出来るだけ正確に覚えておくこと。これはハリー様との特訓を通して、身に着けてきた。
ハリー様のあだ名付けというのは結構有用なものだと特訓を通して私は知った。その人を連想できるあだ名と、ポイントとなる言葉を結び付けて覚えておく。
ただ、私にはハリー様のようなあだ名をつける名人にはなれなさそうだ。
側近として別の扉から先に入場を果たしていたハリー様は、私達が入場した後にさっと近くに控えてくれている。
そして通常運転のハリー様の呟きが聞こえる。
『眼鏡垂れ目王子、泣き黒子美女、熊隈な国王』
私はハリー様の心の声で呟かれるあだ名を参考にしながら、頭の中で情報を整理しながら記憶していく。
全部は無理でも、ポイントに絞れば覚えやすい。
友好的か、好戦的か、批判的か、頭の中では皆の情報が錯綜しながら、皆が心の中では様々な意見を持っていることを私は改めてすごいことだなと思った。
腹の探り合い。
表面的には笑顔で友好的では腹の中ではどう思っているかなど、聞こえてくる心の声を聴いた時には驚かざるを得ない。
優しそうな人が辛らつな言葉を呟き、冷ややかな人が心の中でハイテンション。そんなことよくあることであり、人は見た目ではないし、心の中でどう感じているのか思っているのかなどは、表面に出てくるのは一部なのだとよくわかる。
「エレノア。大丈夫ですか?」
『一度、テラスで休憩を挟もう』
私は小さくうなずく。
私の頭の中だけでは情報はすぐにキャパオーバーになる。なので、定期的に休憩時に情報を共有することは事前に打ち合わせていた。
心の声が聞こえるというこの能力を、私は今回の舞踏会では最大限に生かすつもりだ。
その時であった。
「エレノア様!」
『良かった。会えた』
可愛らしく、懐かしい久しぶりに聞くその声に、私は振り返ると、そこには獣人の国の正装によりいつもよりも少し大人っぽく着飾っている獣人のリクがこちらに向かってくるのが見えた。
後ろには獣人の王国の王弟であるカザン様とその奥方様であろう美しい女性の姿も見える。
どうやら今回参加しているのはリクだけなのか、カイとクウの姿は見えなかった。
「お久しぶりです。リク……様。お元気でしたか?」
途中呼び捨てにしそうになるのをぐっと堪えて私はそう言い、リク様の後ろに立ったカザン様方にも挨拶をした。
「ごきげんよう。お久しぶりでございます」
「エレノア嬢。ここで会えるとは」
『ここに来るということは……く、リクの嫁に来てほしかったがなぁ。無理か? いや、まだチャンスはある。結婚するまでにエレノア嬢の心を得れば問題ない!』
「ごきげんよう。初めましてリクの母シュゼットでございます。貴方がエレノア様ですね。やっとお会いできましたわ。どうぞ私のことはシュゼットと気軽にお呼びくださいませ」
『エレノア様! あぁぁぁぁあぁぁぁぁぁぁ! 我が子を救ってくださった女神! はぁぁぁ。可愛いわ! 可愛いわ! あぁぁぁあぁ。リクのお嫁さんに来てくださらないかしら? 婚約者がいるようだけれど……ほら、婚約だし、まだいけるわ』
問題しかありません。いけません。私は心の中で苦笑をする。
「お久しぶりです。シュゼット様はお初にお目にかかります。お会いできて嬉しいです」
横にいたアシェル殿下も一礼しをする。
「お久しぶりです。またお会いできて嬉しく思います。奥方様、始めまして。エレノアの婚約者のサラン王国第一王子アシェル・リフェルタ・サランと申します」
カザン様とシュゼット様はアシェル殿下にも笑顔で対応するのだけれどその心の中に私は表情を崩さないのが精いっぱいであった。
「アシェル殿もお久しぶりですな」
『くぅ。この完璧王子さえいなければ』
「初めまして。サラン王国のアシェル様と言えば、素晴らしい人格の方と有名ですわね。お目にかかれて嬉しく思います。今後もよろしくお願いいたしますわ」
『ああぁぁぁ。もっとダメな王子だったら、リクがエレノア様のお心をつかみやすかったのに! もう! だめだわ。私の胸もきゅんとしちゃう素敵なお、か、た』
その後他愛ない会話をしていた時、また会場内でふと声が聞こえた。
『んだなぁ。まさかサラン王国が亡びてねぇとは……やっぱり私の気のせいだったのけぇ』
一瞬、動きを止めてしまう。
今、なんて言ったのかと思い、私は顔をあげて周囲を見回すけれど誰の声か分からない。
サラン王国が亡びてない? どういう意味だろうかという思いと、独特なその訛にどこの地方の方だろうかという疑問を抱く。
「エレノア様?」
『どうしたんだろう。変な顔……っていうか、また綺麗になったな……はぁ。今日見て改めて思うけれどお似合いすぎだろ……父上と母上は奪い取れとかいうけど……エレノア様、アシェル殿が好きって顔に書いてあるしなぁ』
リク様の心の声に、私は少し驚きながらそっと頬に手を当ててしまう。顔が熱い。
私の顔はそんなにわかりやすくアシェル殿下が好きと書いてあるのだろうか。
「エレノア?」
『どうしたの? 疲れた?』
アシェル殿下にもそう声を掛けられ、私は急になんだか恥ずかしくなって慌てて言った。
「いえ、少し喉が渇いただけです」
その後、少し会話をしたのちに私達はテラスへと移動した。先ほどのリク様の言葉に私は動揺してしまい何を話したのかよく覚えていないけれど、リク様がまた会いにサラン王国に来たいと言っていたことには嬉しく思った。
今回は会えなかったけれどカイやクウにもまた会いたい。私はそう思い再会を楽しみに思ったのであった。
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