九話 暗殺者は
「おはようございます。たしか、アシェル殿の婚約者のエレノア嬢ですよね」
『笑顔振り撒いて、好印象を残しておくかな。女なんて、ちょろいもんだしな』
爽やかな笑顔とは裏腹な心の声に、エレノアは自分に対しての妄想ではないことにほっとしつつ笑顔を返す。
「はい」
「どうぞ僕のことはジークフリートと気軽にお呼びください。これからは国同士仲がいいこともあり何かと会う機会も多いでしょうから」
『アシェル殿が生き残れば、の話だけどなぁ』
ジークフリート様はどこまで知っているのだろうかと思いながら、私は笑みを携えて訪ねる。
「ジークフリート様は、国外の方とのお知り合いも多いのですか?」
「ええ。そうですね。他国との関わりもこれから今以上に深めていけたらと思っております」
『アシェル殿がもし、暗殺された場合、しばらくこの国は荒れるだろうしなぁ』
「そうなのですね。近々、近隣諸国の方を招いた舞踏会も開かれるそうですが、そちらにも参加されるのですか?」
「ええ。そうさせてもらうつもりです」
『ただ、その日に暗殺の企てがありそうなんだよなぁー。もしもの時には体調不良で欠席するかな。ゴタゴタに巻き込まれるのは面倒だ』
「そうなのですね」
有用な情報を聞けたことに安堵しながらも、暗殺の方法は一体どのような手法で来るのだろうかと考える。
舞踏会での暗殺というならば、毒殺か、もしくは不意を突いたものか、私は考えながらふと、ジークフリート様の視線を感じて顔を上げた。
「何か考え事ですか?」
『しまった。見てたことがばれたか。近くで見ると予想以上に綺麗だな』
「いえ」
私はそろそろ離れた方がいいかと思っていた時、いつものあの声が聞えた。
「ジークフリート様、こんにちは。エレノア様、アシェル殿下がお呼びです」
『ぼん、きゅー、ぼーん……と、腹黒王子』
ハリー様は眼鏡をくいっと上げると、私とジークフリートの間に割り込む形で現れた。
私は間に入ってくるのはどういう意味だろうかと考えるが、ハリー様の頭の中は、あまり語ってはくれない。
「ハリー様、呼びに来て下さったのですね」
「ご案内します。では、ジークフリート様、失礼いたします」
私もジークフリート様に一礼をした。
「失礼いたします。お話しできて楽しかったです」
「こちらこそ。では、また」
『アシェル殿の陰険眼鏡側近か。っふ。アシェル殿はエレノア嬢のことを大切にしているのだな。なるほど、僕と二人きりにはさせたくないのかな……意外に束縛するタイプなのだろうかなぁ』
ジークフリート様の言葉に、私は頬を赤らめると、ジークフリート様は何を勘違いしたのか笑みをこぼす。
『やっぱり女はちょろいな』
私は思わず、ハリー様に向かって言った。
「アシェル殿下にお会いできるのが楽しみです! どちらにいらっしゃるのですか?」
ジークフリート様に好意を寄せているとは思われたくなくてそう声を上げたのだが、一瞬、ジークフリートの眉間にしわがよる。
『何だと? まさかこの女、僕よりアシェル殿方が良いってことか? 』
勘違いされなかったことにほっとしながらも、ジークフリート様はかなり自分に自信を持っているのだなと思うのであった。
少しでも楽しいと思っていただけたら幸いです。