お正月
同棲中の彼女の料理はおいしい。
大学を卒業して一年。慣れない社会人生活をこなしながらも、私たちは同棲を始めた。
私はカムアウトする勇気もないから、周りの目を気にしながらなんとかここまでこれたという感じだ。
付き合ってから五年。酸いも甘いも乗り越えて、やっと私たちはここにきた。人間どうにかなるもんだ。
同棲生活は、そりゃまあ幸せだった。腐るほど喧嘩もしてきたけど、やっぱり一緒にいられてよかったと思う。こたつに入ってテレビをみて、たまにセックスして、いいことがあった日には二人で一緒にチーズケーキを食べる。そういうのがいいんだ。
でも最近、困ってることがある。
彼女の料理の量が多いのだ。それも尋常じゃない。
料理を作ってくれるのはありがたい。他の家事の多くを私が担当しているとはいえ、料理は頭の一部をずっと占拠する大変な家事だ。しかも、彼女の料理はとてもおいしい。なんでもおいしい。
それでも、量があまりにも多すぎる。
この年末年始が顕著だった。
おせちのおかずを一通り買ってきて食べて、作ってくれたお雑煮を食べて、大量に作った年越し蕎麦を食べ続けて、おいしい蜜柑をどこからか仕入れてきて食べて、急に私の好物のタケノコの煮物を作り始めて、なぜかコンビニスイーツを毎日買ってくる。
うれしい。うれしいけど、どんどん太っていく。
彼女のあまりの攻勢に対して、私は一月の始めにダイエット再開宣言をした。
「最近太り気味だから、ちょっとダイエット再開するね」
「あ、そうなの。了解」
その日も彼女はまるごとバナナを買ってきて、私の好物のホワイトシチューを大量に仕込み始めた。
作ってもらっている手前文句もいえず、私は出されるがままに料理を食べる。よく煮込んだ鶏肉がおいしかった。
去年末の私のダイエットの努力は露と消え、みるみるうちにリバウンドを終えた。
こたつに入りながら、私は彼女へ抗議する。
「ねえ、最近ちょっとだけ料理の量多くない?」
「そう?まあお正月だから。そういうこともあるでしょ」
「体重戻っちゃったんだけど」
「いいじゃん。瘦せすぎてもいいことないよ」
彼女はこちらを向かず、テレビを見続けている。
「ねえ、あんた私を太らせようとしてない?」
「してるよ」
特に隠すこともなく、彼女は私のダイエットへの拒絶を宣告する。
「今年はダイエットしてきれいな社会人目指すんだから、邪魔しないでよ」
「だめ」
「なんで」
「最近のあんたは髪さらさらだし、スタイルいいし、胸は相変わらずでかいし、メイクもうまくなってきてる。これ以上かわいくなると、変な男が寄ってくる。だからやだ」
ああ、もう。私はこたつで寝転んで、こたつ布団を顔までひっぱりあげる。
彼女が買ってきた蜜柑を口に入れる。甘くて、おいしかった。