表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/5

第2話 築城前夜

 俺は大学進学と同時に上京した。

 一浪しての入学だった。


 高校生の時から、自分はバンドでプロのミュージシャンになるものだと思いこんでいて、軽音サークルにも参加した。


 しかし、三年生にもなると、同級生たちは意識を就職活動にシフトしていき、周りはほとんどが下級生で、あとは数人の同級生とほんのわずかかな年上の同級生と上級生になってしまった。


 元々、大学に進学するつもりはなかった。

 タクシーの運転手をしながら男手ひとつで俺を育てた父親が、自分が苦労したのは、ガクがなかったからだ、と言って、俺の大学入学資金をめていることを殊更ことさらアピールし続けたため、それにこたえただけだった。


 だから、父に文句を言われたくないがために、それまではどうにか進級できる程度に勉強もしていたのだが、何か目標を失ったような気分になってしまい、勉強にも身が入らなくなった。

 

 そして、単位を落として留年が決まった日、俺は父には何も言わずに大学を辞めて当時のバイト先だったバーでそのままバイトを続けることで、どうにか東京に残っていた。

 

 しかし、それからふた月ほどが過ぎた頃に父が事故で死んだ。俺の22歳の誕生日の10日後だった。

 

 

 地元の県境の峠での単独事故だった。

 どうやら夜中に長距離の客を乗せた帰りだったようで、居眠りをしてしまったのだろうということだった。

 

 父とはちょうど、その3日前に電話で話したばかりだった。

 俺は上京してからろくにこちらから連絡しなかったので、父も連絡をしてこなくなって久しかったのだが、一週間遅れではあるものの、珍しく俺の誕生日を祝う言葉をかけてきた。

 だが続けて、俺が大学を退学したことで責め始めたため、口論になってしまった。


 父が大学に学費を振り込んだことで大学から父に連絡がいき、俺の自主退学が発覚したのだが、俺はバレるのは時間の問題だと分かっていたので準備していた言葉を告げた。

 元々大学に入学するつもりはなかった事や、自分はもう成人しているのだから自分の人生は自分で決める、そんなようなことだ。

 結局、会話は平行線のまま無理矢理に俺は電話を切った。


 そんな喧嘩をしたばかりだったこともあり、事故で死んだと伯母からの電話で聞いた時、気が動転して理解が追いつかず、伯母相手に咄嗟に詐欺か何かの電話だと思ってしまった。

 

 いつからか俺の誕生日などろくに祝ったことなどなかった父が、べつに忘れていたわけではなかった事を知り、喧嘩をしたものの少し嬉しくもあった。

 なのに、その三日後に死ぬなんて。そんな事あるのか、と何か因縁めいたものを感じたりもした。



 葬式で、数少ない親族である伯母から事故の状況を聞いた。

 

 事故現場は、ダムの貯水池沿いのカーブで、父のタクシーはガードレールを突き破り、その先のワイヤーにひっかかっていたらしい。

 

 伯母は、もう少しスピードが出ていたらダムに落ちて水の底だったかもしれない、と震える声で興奮するように言っていたが、それに対して伯母の夫は、あそこはカーブ続きだから貯水池に届くような勢いがつくほどスピードは出せねーよ、とどうでもいいことを正していた。



 俺にはいくばくかの遺産と保険金が入った。

 そして、それを元手にライブバーでも開きたいという漠然とした目標が頭に浮かんだ。



 そうして、23歳の時にこの小さなライブバーを開いた。

 表の道路から地下に階段で降りたテナントは、内覧時に少し下水の臭いが気になったので、それを不動産屋に言うと、入居前のクリーニングでほとんど消える、と言った。

 

 それでも俺が迷っているのを見て、不動産屋は既に相場の90%くらいだった家賃をオーナーと交渉して更に5%下げさせた。

 

 俺は契約する事にした。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ