第8話 寮と俺
悪いことをすると裏目裏目に出ることがあります。
「馬鹿者!」
クワトロ家の書斎にて⋯⋯当主であるサリバンの怒号が屋敷の外に聞こえるほど響き渡る。
「リクトに試験で負け、挙げ句の果てにフェザー学園都に入学できないだと⁉️」
「そ、それは⋯⋯あいつが何か汚い手を使ったんだ」
ダンドは恐れのあまり、声を震わせてサリバンの問いに答える。
「そんなことが言い訳になるか! お前は学園の成績がCランクの奴に⋯⋯よりによって兄の子供に負けるなどあってはならないことだぞ!」
「俺も何で負けたのかわからないんだよ。突然頭痛と呼吸が出来なくなってしまいにはしゃべることも⋯⋯」
「お前の負け方はどうでもいい! 学園で何を学んでいたのだ!」
「ひぃ!」
サリバンは苛立ち机の上の物をぶちまけると、ダンドは腰を抜かし床に尻餅を着いてしまう。
「と、とりあえずリクトの合格を取り消すためにクワトロ家で動けないの⁉️」
「⋯⋯奴がクワトロ家にいた時は手を出すことができたが、今は無理だ」
「なぜですか⁉️」
「これを見ろ」
そう言ってサリバンは1枚の手紙を荒れた机の上に出す。
「こ、これは?」
手紙にはナンバーズの1つ⋯⋯シエテ家の紋章が刻まれている。
「父上! これには何と書かれているのですか」
サリバンは苦々しい顔を浮かべ、ゆっくりと語り始めた。
「クアトロ家が勘当したリクト・クアトロとトア・クアトロの両名を今後シエテ家が後継人になると記載されている」
「な、なんだよこれ! なぜシエテ家があの2人を!」
「母親の妹がシエテ家に嫁いでいるからおかしなことではなかろう」
「で、でもそんなのこちらが認めなければ!」
ダンドの言葉にサリバンは無言になり、芋虫を噛み潰したような表情をする。
「ま、まさか!」
「⋯⋯今朝承認した旨を伝えた」
サリバンは自分達がクアトロ家の権力を手中にするため、リクトとトアが邪魔だったので、シエテ家の提案に直ぐ様返事をしてしまった。
「⋯⋯ナンバーズの間で争い事は禁じられている。リクトとトアはシエテ家の保護下にあるため、問題を起こせばこちらにも飛び火が舞い込んでくる」
「それじゃあこのまま何もせずに見てろって言うのか!」
「これも全てはお前が負けたのが悪いのだろ!」
「リクトとの対戦を仕組んだのは父上ではありませんか!」
この日クワトロ家では、親子の醜い争い事が夜遅くまで続いていた。
リクトside
「さすがはリクト様です」
「兄さんにしてはまあまあですね」
フェザー学園の入学試験の後、俺はさっそく学生寮の申請を行い、トアとマリーを呼び寄せることにした。
そして今3人で部屋の内装を確認している所だ。
トイレ、風呂、キッチンは完備され、部屋は寝室とリビングの2つしかないが、それぞれ20畳ほどの広さがあり、今までのボロ家と比べれば雲泥の差がある。
「フェザー学園に入学できれば、こんなに素敵な部屋が用意されるのですね」
「いや、どうやらこの部屋は特別らしい」
「特別? 兄さんどういうことですか」
「俺は今回の入学試験で首席だったからね」
首席ということを聞いて2人は驚いてくれると思ったが、特に反応を示してくれなかった。
「まあ兄さんなら当然ですね」
「特に驚くことではありません」
トアとマリーの俺に対する評価はどれだけ高いんだ! 何か逆にプレッシャーがかかるんですけど。まあ信じてくれているんだろうけどさ。
とりあえず2人に住まいを用意することが出来て本当に良かった。これでトアとマリーを毎日お風呂に入れてやれる。ボロ家の時も風呂はあったが、水しか出ないしとてもゆっくりできる物ではなかった。2人共文句は言ってなかったけどやはり最低限そこは準備出来たことに安堵する。
ただこの最高級の部屋で1つだけ問題が⋯⋯。
「ベットが1つしかありませんね」
「そうですね」
寝室にはキングサイズのベットが1つあるだけで、他には見当たらなかった。
「仕方ありませんね。ここは兄妹でベットを使うので、マリーはリビングのソファーで寝なさい」
「トアお嬢様⋯⋯何を仰っているのですか? この部屋の主人はリクト様⋯⋯私にはメイドとしてリクト様にお仕えする義務があります。何か有事の際にはすぐに駆けつけなければいけませんので⋯⋯こ、この部屋は私とリクト様が使用します」
おいおい2人共何を言ってるんだ。
そんな女性と一緒に寝るなんてできるわけないだろ。
「寝室はトアとマリーで使ってくれ。俺はリビングに新しくベットを買ってそこで寝るから」
2人をリビングで寝かせるわけにはいかないからな。
「兄さん、私達はクワトロ家を出てしまったのですよ」
「これから先、どんな時にお金が必要になるかわかりませんから、なるべく節約をするべきです」
俺は最善の策を提案するが、問答無用で却下された。
「しょうがないですね」
「ではこうしましょうか」
その日の夜。
俺は2つの暖かいものに囲まれていた。
「に⋯⋯にいさん⋯⋯」
右側からトアが、俺の腕に絡みつくように抱きついてきたため、女の子特有の甘い香りがして、俺の脳内が麻痺し始める。
「リ⋯⋯リクトさまぁ⋯⋯」
左側からはマリーが、豊満な胸を押しつけるように抱きついてきたため、思春期の俺は眠れるはずがない。
「な、なんでこうなった」
結局トアとマリーの提案で3人でベットで寝ることになった。
それにしてもなぜこの2人は寝ることができるんだ。俺のことを男と見ていないのか?
男だったらこの状態で夢の世界へ行ける奴などいるだろうか⋯⋯いやいない。
少なくとも賢者タイムに入っていない俺には無理だ。
こうして俺はドキドキしながら中々寝ることができず、寝息を立てることが出来たのは朝方になってからだった。
読んで頂きありがとうございます。