第6話 ダンドと戦う俺
ムカつく奴がやられるとスッとする今日この頃です。
ダーカスside
「さてシャルロッテ⋯⋯どちらが勝つと思う? 片や中等部の成績トップ、片や可もなく不可もない平均点の男⋯⋯まあ比べるまでもないな」
「では私はリクトちゃんが勝つ方に」
シャルロッテは得意気に、そして自信満々でダーカスの問いに答える。
「即答か⋯⋯私も妻の妹の息子だから応援はしてやりたいが、実力差は明白だ」
「そうですね」
「ほう⋯⋯では何か勝つための策があるというのか」
「⋯⋯」
シャルロッテは答えない。父には贔屓目なしに試合を観てほしいからだ。
「リクトくんは持って数秒って所だな」
「いえお父様⋯⋯一瞬です」
「一瞬⋯⋯だと⋯⋯」
「ええ⋯⋯一瞬でリクトちゃんが勝ちます」
ダーカスの驚きの声と共に試合は開始され、そしてすでに決着はついていた。
リクトside
試合が開始され、ダンドは一度後方に下がり距離をとる。
ダンドは杖を、リクトは剣を持っていたため、万が一接近戦でやられないためだ。
先程の言葉通り、ダンドはこの2年間リクトに負けたことがなかったので油断していた。
ダンドは負けるはずがないって顔をしているな。
俺はその自信を打ち砕くため、1つの魔法を唱える。
「【空気失魔法】」
「へへ、手加減なん⋯⋯がぁ⋯⋯ぐっ⋯⋯」
するとダンドは声も出せず、両手で自分の首を握りしめながら地面をのたうち回り、そして動かなくなった。
今この場にいる者達は何が起こったのかわからず、ただ驚愕するだけであった。いや1人だけ⋯⋯学生の身でありながら三桁のランキングを持つシャルロッテだけは何をしたのか気づいていた。
「試験官?」
リクトの声で試験官は現実の世界に戻り、判定を下す。
「しょ、勝者リクト・シェフィールド!」
試験官の言葉により闘技場は歓声の渦に巻き込まれ、俺は手を振ってその声に答える。
「い、今何をしたのかわかったか?」
「全然わからなかった⋯⋯気がついたらダンドが苦しんで倒れていた」
「見た目も良くて強いなんて⋯⋯私、ファンになっちゃいそう」
皆、どうやって勝ったか不思議がっている。傍目からみたら何をしたのかわからないだろう。何せ使ったのは俺の加護である【空気】だからな。
ダーカスside
「どういうことだ! 一瞬目を離しただけなのに、すでにダンドは倒れていたぞ」
ダーカスは解答を知りたく、娘のシャルロッテに視線を向ける。
「お父様⋯⋯戦いの最中に目を放すなど魔法士として如何なものかと思いますが」
「わかったわかった⋯⋯油断していたことは認める。それより早く種明かしをしてくれ」
ダーカスはリクトの未知の力にワクワク感が止まらない。
そんな滅多に見ることのできない父親の姿を引き出したリクトに、シャルロッテは笑みを浮かべる。
「それはダンドくんの周りの酸素を操作したからです」
「酸素を操作⋯⋯だと⋯⋯」
「お父様はリクトちゃんの加護は御存知ですか?」
「確か空気だ? 水の加護をもらうことが多いクワトロ家の者で、空気という異端な加護を授かったことで蔑まされていたと聞いている」
「ですからその空気の加護を使って、酸素濃度を低下させたのです。ダンドくんは突然息をすることができなくって、さぞビックリしたでしょうね」
「我々が吸っている酸素の濃度が下がっただけでそんなことができるとは⋯⋯」
「少なくとも初見であの力を使われたら、防ぐことは叶わないでしょう」
もしその力が魔物に向けられたら⋯⋯そう思うとダーカスは武者震いが止まらなかった。
「それにしてもなぜシャルロッテはそのようなことを知っているのだ?」
ダーカスの質問に対してシャルロッテは顔を赤らめる。
「なぜ顔を赤くする?」
「それはもう⋯⋯2人っきりで逢瀬を重ねていましたから❤️」
シャルロッテは両手を頬に当て、身体をくねらす。
「なんだと! 前から私より強い者ではないと付き合うことは許さんと言ってあるだろ!」
「すみません言い間違えました⋯⋯夜に特訓をしていたのです」
「お前はまだ嫁入り前だ。男と二人で会うなど⋯⋯」
「ですが今日リクトちゃんは、ランキング1位になれる片鱗をお見せしてくれたと思います」
「むう⋯⋯」
確かにシャルロッテの言うことに間違いはない。リクトの能力は魔物を退治できるものであることは間違いなかった。だが父親としては娘の婿候補として認めるようなことをしたくはなかった。
リクトside
「救護班! 早く彼を見てくれ!」
試験官は急に倒れたダンドのことが心配になり、急ぎ救護班を呼び寄せる。
大丈夫だよ。手加減したからただ気を失っているだけだ。
俺は先程【空気失魔法】でダンドの周りの酸素濃度を21%から10%に減らした。
おそらくダンドは息苦しくなり、頭痛、吐き気、全身脱力、判断力の低下、そして声を出すことができないなどの症状が出ていたはずだ。
そして俺の思った通り、ダンドはすぐに意識を取り戻したが、記憶が混濁しているのか、今の状況が理解出来ていなかった。
「大丈夫かい?」
「えっ? 俺は⋯⋯そうだ! リクトのやろうはどこだ!」
突然立ち上がり、戦闘態勢を取るが既に試合は終わっている。
「もう勝負は着いた⋯⋯君は負けたんだ」
「俺が⋯⋯負けた⋯⋯」
ダンドは信じられないという様子で、その場に座り込んでしまう。
「う⋯⋯そ⋯⋯だ⋯⋯。俺がリクトごときに負けるわけがねえ! そうだ、何かきたねえ手を使ったに決まってる!」
自分の敗北を受け入れられず、辺りに喚き散らしている姿はとても見苦しい。
「君は戦場で敗れた時も同じセリフを言うのかね⋯⋯常時油断するような者が非常時に戦えるとは私は到底思えんな⋯⋯さあ、この試合の決着は着いた。次の試合を始めたまえ」
観覧席にいる学園長から、早く次の受験生の試合に移るよう指示が入る。
「いや、だってこのままだと俺が試験に落ちることになるんだろ⁉️ ふざけるなやりなおせ!」
このダンドの身勝手な行動に、ここにいるもの全員が呆れ返る。
「自分で負けた方は不合格って言い始めたんだろ」
「それで負けたらやりなおせって」
「ちょっと見苦しいよね」
その有り様を見て、ダーカスはため息が漏れる。
「俺はクワトロ家の人間だぞ!」
「私はシエテ家の人間だが何か?」
「ひ、ひぃ!」
現ランキング1位のダーカスは、威圧を込めて言葉を発するとダンドは凄まじいプレッシャーに悲鳴を上げることしかできない。
「さあ試験官よ。次の戦いを始めてくれ」
「はっ!」
こうしてクワトロ家の戦いはリクトの勝利となり、フェザー学園の合格を
ほぼ手中に納めるのであった。
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