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第5話 シーラと俺

腹が立つ人はどこにでもいるものです。

「それでは名前を呼ばれたものは前に出ろ! シーラ・トレス! そしてフェルナンド・ピーター!」


 試験が始まり受験生の名前が呼ばれる。


 トレス? ナンバーズの家の者か!


 その名前を聞き、この場にいるものが一斉に闘技場へと目を向ける。


「わ、私ですか⋯⋯」


 シーラと呼ばれた女の子は、おどおどした様子で戦いの舞台へと上がる。


 なんだ? あのトレス家の女の子から覇気がまるで感じられないぞ。ひょっとしたら油断させるための作戦なのかもしれない。

 逆に対戦相手の男はやる気満々というか、少し入れ込み過ぎている気がする。


「それでは⋯⋯はじめ!」


 試験官の開始合図と同時に、男はトレス家の女の子に向かって魔法を唱える。


「全てを切り裂く刃となれ! 【風切断魔法(ウインドカッター)】!」


 2つの風の刃が女の子に襲いかかる。


「きゃあ!」


 女の子は慌てふためき、その場に尻餅もついてしまう。しかしそのことが功を奏したのか、風の刃をかわすことができた。


「わ、私も攻撃しなくちゃ!」


 体勢を崩しながらも手に持った杖に魔力を込めて詠唱を行う。


「無数の矢よ、炎となりて敵を燃やせ【炎の矢(ファイヤーアロー)】」


 無数の炎が男に向かって放たれるが、1つ1つの炎の大きさが1センチほどしかないため、大ダメージを与えることは難しいだろう。

 男の方は、あまりの炎の多さに驚いていたが、数があるだけで威力がないと知るや、多少の炎を食らうことは覚悟し、そのまま女の子にダッシュで近づいて、体当たりを行い地面に転がす。


「ま、負けました⋯⋯」


 女の子は倒されたことでもう勝てないと踏んだのか、ギブアップを口にする。

 こうして初戦の戦いは男の勝利となった。


 なんかもったいないな。あれだけの炎が出せるなら魔力は相当高いはずだ。あのようの初級魔法の小さい炎を出すのではなく、中級魔法以上で勝負すれば良かったのに。


「おい、あのトレス家が負けたぞ」

「ああ⋯⋯シーラは落ちこぼれだから仕方ないのよ」

「なら何で試験を受けに来たんだ」


 落ちこぼれか⋯⋯何だか自分のことを言われているようで心が痛んだが、彼女はもう負けてしまったため、なんて言葉をかけていいのかもわからないので、俺は何もすることができない。


 外野の心ない声が聞こえたのか、彼女は俯き、肩を落としながらこの場を後にする。


 そんな姿が目に映り、俺は彼女の元へと急ぎ向かい、思わず声をかけてしまう。


「あの!」


 やばい。つい声をかけてしまったけどなんて言えばいいんだ。

 彼女もいきなり話しかけられてビックリしてるじゃないか。


「な、なんでしょうか⋯⋯」

「その⋯⋯すごい炎の矢(ファイヤーアロー)の数だった」

「えっ?」


 周囲の人と同じように、悪口をぶつけられると思ったのか、彼女は驚きの表情を浮かべる。


「ただそれだけを伝えたくて⋯⋯それじゃあ」


 俺は足早にこの場を立ち去っていく。


 試験が終わった人に何を言ってるんだ俺は。

 俺と同じ落ちこぼれと言われていることにシンパシーを感じたのかもしれない。周りの悪意ある言葉だけを聞いてこの場を去って欲しくなかった。

 あのように言われることの辛さは俺にはよくわかるから⋯⋯。


 俺は少し気恥ずかしを持ちながら先程座っていた席へと戻った。



 そして何人か試験が終わった後、堂々俺の番が来た。


「リクト・シェフィールド!⋯⋯そしてダンド・クワトロ!」


 ダンド⁉️ まさかあいつと対戦するとこになるとは!


 クワトロ家の登場に闘技場にいるもの達がざわめく⋯⋯と思ったらどうやら違うようだった。


「ねえ、あの人素敵じゃない」

「あんなカッコいい人ベルファイアにいたかな?」

「合格すればあの方とお近づきになれるかも」


 ダンドが俺を睨みつけながら戦う場に現れる。


「き、貴様何だその姿は! 魔法士の試験は崇高なる場だぞ!」

「ただ髪を切っただけだがそれが何か? 俺が周りに声をかけられるのが気にくわないのか?」


 昨日、クワトロ家に対する復讐の誓いを込めて、トアとマリーに髪を切ってもらった。俺はもうこいつらの言いなりなるつもりはない。


「何だその態度は! 俺はクワトロ家の当主の息子だぞ!」

「もう俺はクワトロ家とは関係ないはずだが」

「⋯⋯そうだったな。俺は父上からお前を試験で叩き潰すように言われているんだ」


 なるほど。これだけの人数がいる中、俺とダンドが対戦するなどおかしいと思った。試験で何かしてくると考えていたが⋯⋯。

 俺は思わず笑みを浮かべてしまった。


「何がおかしい!」

「いや、ナンバーズのクアトロ家がそんな姑息な真似するかと思うと可笑しくてな」

「リクトぉぉぉ!」


 ダンドは俺の挑発に怒りを露にし、そして観覧席にいる学園長に向かって叫ぶ。


「学園長! この試合負けた方はどのような活躍をしようと不合格にして下さい!」

「許可する!」

「お父様!」


 側にいたシャル姉が非難染みた声を上げる。


「本来戦いの敗北は死あるのみ。死んだのに合格しようなどおかしな話だ⋯⋯なあに安心しろ。そのルールはこの2人だけだ」


 その言葉を聞いて多くの受験生が安堵のため息をついた。


「ありがとうございます!」


 俺の意見も聞かず勝手に決める所は相変わらずだな。

 だが忘れるな! そのルールはお前にも適用されることをな!


「リクトくんもそれでいいか」

「はい!」


 俺の答えを聞くとダンドはニヤニヤと笑みを浮かべる。


「いつも澄ました顔をしやがって⋯⋯お前のことは前から気に食わなかったんだ。公衆の面前で恥をかかせる機会を待っていたぞ」

「奇遇だな俺もだよ」


 2人の間に火花が飛びちり、会場のボルテージが嫌でも上がっていく。


「リクトってあのリクトなのか?」

「性が違うけどあれがリクトくんなんだ⋯⋯髪を切ってるから全然気づかなかったわ」

「どっちを応援する? 私は大きな声じゃ言えないけどリクトくんかな」

「わ、私も⋯⋯」


 まあ日頃偉そうにしているからほとんどの者はダンドのことが好きじゃないのだろう。

 それなら皆の恨みも一緒に晴らしてやるか。


「よく負けるとわかっていてさっきの条件を飲んだな。この2年間お前は俺に勝ったことがないだろう?」

「だからと言って今勝てない理由にはならない」

「減らず口を!」


 試験官が闘技場に上がり一触即発の俺達の前に位置どる。


「ではこれからリクト・シェフィールドとダンド・クワトロの試合を行う⋯⋯それでは、はじめ!」


 今ここに、ナンバーズのクワトロ家前当主と現当主の子供の戦いが始まった。

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