第3話 大会と俺
美味しい話には裏があります。
その日の帰りのホームルームにて。
「喜べお前ら! ランキングを上げるチャンスがきたぞ!」
突然テンション高めで語る、我が担任のセリカ先生。
「チャンスってどういうことですか?」
男子生徒の1人が、セリカ先生に質問をする。
「よくぞ聞いてくれた! 1週間後フェザー学園で、二人一組で戦う大会が開催される。1年だろうが、学園問わず出場でき、優勝ペアにはランキング1000位が授与されるんだ! どうだ⁉️ 出たくなっただろ?」
ランキング1000位? それは確かに魅力的だ。もし勝ち取ることができ、申請をすれば、城壁の外に行くことも可能だ。
現状だとランキングすら持たない俺達は、ベルファイヤの外にどんな世界が拡がっているか見たことすらない。
「でも私達が出て先輩達に勝つことができるのかなあ」
女子生徒から出た声に周りのクラスメートも同意する。
「それに何で入学早々、上の学年と戦う大会があるんだ?」
確かにそうだ。1年だけで行うならまだしも上級生と戦うなど普通なら無謀でしかないだろう。
「なるほど⋯⋯てっきりランキングという餌に飛びついて出場する奴がいる思っていたが、お前らはただのバカではなかったか」
セリカ先生は不適に笑みを浮かべている。
「まあお前らが察している通り、この大会は一応1年も出場することができるが、それはお前らの尖った鼻をへし折るためだ。この学園に入学した奴らは今まで、やれ天才だ、やれ神童だと持て囃されてきた者ばかりで調子に乗ってるから、1度ボコボコにして井の中の蛙だと教えてやる目的が裏にはあるのさ⋯⋯なあに安心しろ。先輩達は優しいから全治3ヶ月くらいのケガにしてくれるはずだ」
セリカ先生の話の後、クラスは静まり返る。
そりゃそうだ。こんな裏の目的まで正直に伝えられて出場するバカはいないだろう。
「じょ、冗談じゃねえ! 俺はぜってえ出ないぞ!」
「わ、私も先輩達に敵うとは思ってないし」
クラスメート達から次々と出場辞退の声が上がってくる。
「だが昨年、そんな1年共に希望の光が現れた! お前らも知っているだろ? 2年のシャルロッテ・シエテだ!」
シャル姉?
「彼女のペアは、見事に上級生達をなぎ倒し、見事にランキング1000位の座を手に入れたのだ!」
そうだったのか。それは知らなかったぞ。
何でシャル姉が街の外で、魔物を狩る許可をもらっているのか、シエテ家の力かと思っていたが、この大会で優勝したからなのか。
「さすがはシャルロッテお姉様」
「あの人は見た目も強さも別格だぜ!」
男子も女子も皆、シャル姉のことを称えている。
シャル姉は本当人気があるなあ。
「よし! お前らは全員出場でいいな!」
「いや、それとこれとは話は別です」
「私はシャルロッテお姉様みたいになれるとは思っていませんし」
クラスメート達は、俺を含めて全員出場を拒否している。
優勝賞品はほしいけどそれによって大怪我をしてしまったら、それこそランキング所ではなくなってしまうので俺も勘弁願いたい。
だが、大会に出場しない⋯⋯そんな軟弱なこと考えがこの先生の前で許されるのか⁉️
「まあ強制ではないので、出場するもしないも本人の自由だ」
なん⋯⋯だと⋯⋯セリカ先生とは思えないセリフが出てきた。なら俺は出場するのをやめる。今年は先輩や同学年の能力を把握して、来年優勝を狙うとしよう。
「ただし!」
何か例外や条件があるみたいだ。何だか嫌な予感がするぞ。
「入学試験の首席合格者は毎年出場する決まりとなっている! 良かったなあリクト」
「良くないよ!」
「お前は今週中にパートナーを選び、必ず大会に出場するように」
「いやだ⋯⋯と言ったら?」
「それはもちろん⋯⋯退学だ」
ですよねえ、俺もそんな予感がしてました。
「それでは今日の授業は終了だ」
「起立、礼」
こうして俺は入学して2日目で、先輩達が出場する大会に出ることになってしまった。
その日の放課後。
「リクトはダブルスの大会に出場決定か」
「昨日の模擬戦、リクトくん凄かったよね」
「ということはコンビを組めれば、優勝してランキング入りが出きるかもしれない」
何だかみんなの目付きが怖いぞ。
俺はその視線に気づかないフリをして席を立つとクラスメート達が一斉に声をかけてきた。
「俺はカシム! 大会に出る相手、決まってないだろ? 一緒に出場してやるよ」
「ちょっとカシムずるい! 抜け駆けはなしよ! 私はリンダ、大会には私と出てくれないかなあ」
うお! あっという間に人だかりができたぞ。
みんな賞品のランキング1000目当てか。だが俺としてもペアの相手は慎重に選びたい。やるからには優勝したいからな。
「ちょっとまってみんな! だけどリクトくんは彼女のシルヴィアさんと組むのかな?」
みんなの視線が俺に集まる。
ちょうどいい、俺とシルヴィアさんが恋人同士という噂を否定するチャンスだ。
「みんな⋯⋯俺とシルヴィアさんは付き合っているわけじゃないぞ」
「そうなの⁉️ でも秘密の話しとか、二人っきりで話すこととか⋯⋯」
「それは⋯⋯俺達がとても仲良しだからだよ」
「「「仲良し⋯⋯だと⋯⋯」」」
男達の声が一斉に揃ったぞ。
「じゃあ今は付き合ってないけど仲がいいからいずれ付き合う可能性があると?」
「そ、それは⋯⋯」
どうだろうか。その前に俺が殺られるかもしれないけど。
「はい⋯⋯そういうこともあるかもしれません」
俺が返答に迷っているとシルヴィアさんが顔を赤らめながら答えてくれた。
そんな顔で答えたら、何かあるんじゃないかと誰もが疑うじゃないか!
「なんだよ⋯⋯リクトと仲良くなれるかと思ったがやっぱり無理だ!」
「いつかその首を取ってやる!」
「俺達のシルヴィアさんが⋯⋯」
野郎達の殺気がどんどん膨らんでいるのがわかる。
たった1人の女性問題でトラブルが起きるのは前の世界でも、この異世界も同じだな。
「そうだ! セリカ先生に放課後来るように言われてたんだ! もし誰かのせいで遅れたら、その誰かもセリカ先生にお仕置きされるかもしれないな」
俺が声を上げると殺気だっていた野郎共が即座に道をあける。
「リ、リクト⋯⋯早く行った方がいいぞ」
「俺達は邪魔してないからな」
たった2日でクラスを掌握するなんて⋯⋯やり方は問題だが、すごいなセリカ先生は。
「それじゃあ行ってくる」
俺はクラスメートに見送られながら、セリカ先生がいる教務室へと向かった。
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