第2話 双子とシーラと俺
悪い人は多くいます
「おはよう」
「おはようございます」
爽やかな朝日が照らす通学路。フェザー学園の学園生達の挨拶が飛び交う。
平和だ⋯⋯昨日シルヴィアさんと学園長に殺されかけたのが嘘のようだ。
「何でお前がここにいるんだ!」
なんだ?
突然怒号が辺りに鳴り響いた。
この平和がいつまでも続くことが望ましいが、どうやらそうもいかないようだ。
大声が聞こえた周囲には人だかりができ、辺りは騒然としている。
俺は人垣を抜い中の様子を伺うと、そこにはフェザー学園の制服を着た、1人の少女と2人の男がいた。
「お前ごときがどうやってフェザー学園に入ったんだ」
「まさか本家の力を使ったのか!」
「そ、そんなことして⋯⋯ません⋯⋯」
ん? あれは双子か?
大きな声で叫んでる男達は同じ顔をしており、そして地面に座りこんでいる少女の方は⋯⋯入学試験の時、1番最初に戦っていたシーラさんだ。
制服を着ているということは試験に合格したんだな。彼女は魔力値が高そうだったから、負けても試験官にちゃんとそこを見てもらえたようだ。
「それとも試験官に色仕掛けをして裏口入学したのか!」
「そうでなければ、まともに魔法が使えないお前がここに入れるわけないだろ」
「私は⋯⋯何も⋯⋯」
こいつら、シーラさんにひどいことを言うな。
事情はよくわからないが、とにかく双子にシーラさんが罵られているのは確かだ。
このままあの双子を止めにいってもいいが、あの感情の高ぶりから見て、素直に引き下がるかは微妙だ。むしろ火に油を注いでしまうかもしれない。
それなら⋯⋯。
「セリカ先生! 双子の男達が可憐な少女を苛めています!」
俺は大声で叫ぶと双子だけではなく、周囲の人達も騒がしくなってきた。
「げっ! セリカ先生が来るのかよ!」
「巻き込まれる前に逃げるぞ!」
「アインとカインは終わったな」
おそらくセリカ先生を知っている上級生が声を上げているっぽいが、うちの担任はえらい言われようだな。
だが効果は的面だったようで双子達も慌てふためいている。
「ど、どうするアイン⋯⋯」
「さすがにブラッドホラーに来られるのはまずい⋯⋯逃げるぞ!」
そう言葉を残してアインとカインとかいう双子と周囲の人達は、蜘蛛の子を散らすように逃げていき、この場には俺とシーラさんだけとなった。
「大丈夫?」
俺はシーラさんに声をかけると同時に手を差し伸べる。
俺に声をかけられ、初めはキョトンとしていたが、ゆっくりと右手を伸ばしてきたので掴み、立ち上げるよう引っ張る。
「あ、ありがとうございます⋯⋯」
「いえいえ」
「セリカ先生にもご迷惑をお掛けしてしまいました」
シーラさんは申し訳なさそうに俯いてしまう。
「ああ、それは大丈夫。最初からセリカ先生はいないから」
「えっ?」
「そう言えば、双子が逃げていくかなと思って⋯⋯そうしたら双子だけじゃなく誰1人いなくなっちゃったけどね」
「すごいですねリクトくんは⋯⋯私だったらそんなこと思い付かないですね⋯⋯そういう発想が出来るから、昨日の模擬戦で私達は簡単にやられてしまったのですね」
「模擬戦? シーラさんもいたの?」
「そうです⋯⋯ね。私のみたいな弱い人を覚えていませんよね⋯⋯」
昨日模擬戦にシーラさんもいた?
俺は昨日の記憶を呼び起こしてみる⋯⋯⋯⋯⋯⋯いた! 四方を囲まれた時に【炎の矢】を射ってきたのはシーラさんだ!
あの時は俺の命がかかっていたから正直それどころじゃなかった。
「ごめん! あの時は訓練と思わず、実戦をする覚悟で戦っていたから、相手の顔を覚えている時間がなかったんだ」
「さすがですね⋯⋯私はリクトくんみたいにそこまでの覚悟を持って戦うことができませんでした⋯⋯」
負けたら本当にシルヴィアさんに殺されかねないからな。
何だか空気が重くなってしまったぞ。
「それにしてもセリカ先生どんだけ恐れられているだ⋯⋯まあ昨日見た感じでは何か悪いことの1つや2つはしてそうだったけど⋯⋯はは、イテッ!」
場を和まそうとわりと本気のジョークを言ったら、突如後頭部に激痛が走り、俺はおもわず声を上げてしまう。
「誰が悪いことの1つや2つはしてそうだって! お前、今日講義が終わったら私の所へ来い。来なかったら⋯⋯わかってるよな?」
どこからともかくセリカ先生が背後から現れ、俺の後頭部を殴ったようだ。
ていうかこの先生どこにいた⁉️ 周囲は俺とシーラさんしかいなかったのに。
「返事はどうした!」
「は、はい」
俺の言葉を聞いてセリカ先生は、風のように立ち去っていった。
まさか昨日戦えなかったから今日殺ろうって言う気じゃないよな。
そうなったら今度こそ殺されてしまう。
「ご、ごめんなさい⋯⋯私のせいで⋯⋯」
シーラさんは、俺がセリカ先生に怒られたことを自分のせいだと思い、シュンとなってしまう。
「いや、これは俺が余計なことを言っただけだから気にしないでいいよ」
「でも⋯⋯」
「まあ、遅かれ早かれ呼ばれたと思うから」
万が一決闘することになったら⋯⋯その時はその時で考えよう。
「それより何なのあの双子は?」
どんな事情があるかわからないが、好ましい感じではなかった。
「⋯⋯2人は私の親戚です」
親戚? ということはトレス家の人間なのか。
「だからといってあんな人を陥れるようなことを公衆の面前で言っていいわけじゃない⋯⋯何か理由があるの?」
「そ、それは⋯⋯」
シーラさんは口を閉ざす。
キーンコーンカーンコーン
そして俺にとってはタイミング悪く予鈴のチャイムが鳴る。
「は、早く行かないと⋯⋯リクトくんも2日連続で遅刻はさすがに良くないから急ご」
そのオドオドした表情から、彼女にとってはあまり触れて欲しくない内容だということだけわかった。
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