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第10話 医務室送りにされた俺

医務室だからといって安心してはいけません。

 シルヴィアside


 私はレクリエーション? で学園長と戦って敗けたリクトさんの付き添いで、医務室へと向かうこととなった。


「まあただ強く身体を打っただけだね。回復薬を使っておいたからその内目が覚めるよ」


「ただ身体を強く打っただけ⋯⋯ですか」


 学園長にあの高さから地面に蹴り落とされて身体を強く打っただけって⋯⋯リクトさんは私では到底敵わない強さにいることが理解できた。


「ちょっと教務室に行かなければならないから、ここを頼むよ」

「わかりました」

「⋯⋯私がいないからといって変なことしないでよ」

「し、しません!」


 先生は余計な一言を残して、この医務室から出ていく。


 先生まで勘違いしているのかしら? クラスメート達も私とリクトさんが付き合っていると思ってるらしく、いくら違うといっても聞いてくれなかった。


 今この部屋に私しかいない。

 そして私の秘密を知ってしまったリクトさんは寝ている。


 リクトさんの側へと近づく。

 今ならリクトさんを亡き者にできる⋯⋯けど⋯⋯この人の強さは本物だ。

 そんな優れた魔法士を私個人の理由で殺すことなどできない。


 そんな私の思いも知らず当の本人は、寝息を立てて夢の中にいる。

 もう⋯⋯私の気も知らず、呑気に寝ていていいのかしら。


 それにしても初めて顔をじっくりと見ましたけど、端正な顔だちをしてますね。

 私は間近で見ようと、無意識に吸い込まれるように近づいていく。


 ガラガラっ!


「リクトちゃん!」

「兄さん!」


 突如医務室のドアが勢いよく開き、シャルロッテ先輩と見知らぬ美少女が、部屋に乱入してくる。


「ちょ、ちょっと!」

「顔が近くありませんか? この人」


 はっ⁉️


 しまった! リクトさんの顔を見ようと近くに寄りすぎた!

 私は慌ててリクトさんから離れるが、シャルロッテ先輩とリクトさんの妹さん? が、じと目で私を見てくる。


「わ、私は⋯⋯ただのクラスメート⋯⋯です」

「本当に⁉️ それにしてはリクトちゃんに近づきすぎな気が」

「私の直感が、この人と兄さんはただならぬ関係と言っています」


 す、するどい⁉️

 確かにリクトさんは私の秘密をしっているから、ただならぬ関係というのは間違いない。


 ガラガラ


「リクトは大丈夫か?」

「心配だから見に来ちゃいました」


 今度はクラスメートがリクトさんのお見舞いに現れる。


「こ、氷の姫⁉️」

「シャルロッテお姉様⁉️」


 まさかの人物達にクラスメート達は騒然となる。


「皆さんこんにちは⋯⋯リクトちゃんのお見舞いかな?」

「⋯⋯」


 シャルロッテは完全無欠のお姉ちゃんらしく、トアは人付き合いが苦手なため、おそるおそるクラスメート達を眺めている。


「ま、まさかこんなところで氷の姫とシャルロッテ先輩に会えるなんて⋯⋯」


 男子も女子も思わぬ人物に喜びを隠せない。


「皆はリクトちゃんのクラスメートかな? 初めましてシャルロッテ・シエテと申します。リクトちゃんとトアちゃんのお姉ちゃんをやってます⋯⋯ほらトアちゃんも挨拶して」

「⋯⋯トア・シェフィールド⋯⋯です」


 シャルロッテは2人の姉と皆に名乗れることが嬉しく、黙っていても口角が上がってしまう。

 そんなシャルロッテを恨めしそうにトアは見ているが、大勢の前で話したくないので悔しいが黙っている。


「皆、リクトちゃんと仲良くしてあげてね」

「「「「はい!」」」」


 ランキング三桁の憧れのお姉様に言われ、この場で異をとなえるものなど誰もいない。


「そうなるとリクトくんの恋人のシルヴィアさんは、シャルロッテお姉様の妹になるのね⋯⋯羨ましいです」

「「えっ!」」


 1人の女子生徒の言葉でシャルロッテとトアの雰囲気が一変する。


「その話、お姉ちゃん詳しく知りたいなあ」

「私も!」


 先程とは違って、トアも積極的に話に参加する。


「えっ? いや⋯⋯ふ、2人は秘密を共有する仲で、今日も誰もいない所で会うほどラブラブだと聞いています」

「はっ? ラブラブ? ふ、ふ~ん⋯⋯リクトちゃんは魔法士の学校に入学できたからってちょっと浮わつきすぎじゃないかな」

「兄さんに彼女? 百年早いよ」


 リクトに彼女がいたことに対して2人の殺気が、先程の学園長以上に溢れていた。


「ひ、ひぃ!」


 クラスメート達はあまりの恐ろしさに後退ってしまう。


「いえ、私はリクトさんの彼女では⋯⋯」

「でも兄さんと秘密の共有をしているのでしょ?」

「そ、それは⋯⋯」

「その秘密⋯⋯お姉ちゃんも聞きたいな」


 言えるわけがない。今そのことを言ったら私のフェザー学園生活は破滅してしまう。


 私はシャルロッテさんの言葉に黙るしかなかった。


 リクトside


 実はクラスメート達が来たときに目が覚めていたが、どんな話をするのか気になって寝たふりをしていた。

 そうしたら段々雲行きが怪しくなって、目を閉じている方が正解だと判断した。

 もしシャル姉とトアに、シルヴィアさんのことを問い詰められたら、隠し続けること難しいだろう。

 だって言わないと俺がどんな目に合わされるか⋯⋯。


「リクトちゃんのことは私達が看ますので、皆様は今日はお帰り下さい」

「「「「は、はい⋯⋯」」」」


 シャルロッテの得も知れない圧力にクラスメート達は、帰るという選択肢を選ぶしかなかった。


「じゃ、じゃあ俺達帰るわ」

「お、お大事にね」


 そう言ってクラスメート達は医務室を後にする。


「おっと⋯⋯あなたは帰らないで下さいね⋯⋯シルヴィアさん」

「は、はい」


 トアまでシャル姉みたいなプレッシャーを放つようになっていた。特にシルヴィアさんって言う所は、俺も震えが止まらなかった。

 しかもこの後2人のプレッシャーを受けるかもしれない身としては、恐怖でしかない。


「さて⋯⋯兄さん⋯⋯起きてるのはわかっていますからね」

「「えっ?」」


 トアの問いに、俺とシャル姉は驚きの声を上げる。


「ほら起きてた」

「なぜわかった!」

「何年一緒にいると思っているのですか」

「さすがトアだな⋯⋯お兄ちゃん大好きっ娘なだけはある」

「ば、ば、ばっかじゃないの! べ、別にお兄ちゃんのことなんて好きじゃないんだから!」


 トアは顔を真っ赤にして俺の言葉を否定する。

 久しぶりにお兄ちゃんって言われてしまった。トアにそう呼ばれると俺のお兄ちゃん属性が目覚めてしまう。


「そ、そんなことよりシャルお姉ちゃん! 早く兄さんにどういうことか聞こう!」

「ま、まあ⋯⋯お姉ちゃんも、リクトちゃんが起きてたこと気づいてたけどね」


 この部屋にいる者達の疑いの目がシャル姉に集まる。だって俺と驚きの声を上げてたじゃないか。


「ほ、ほんとなんだからね! リクトちゃんのことはお姉ちゃんが1番わかってるんだからぁぁぁ!」


 こうして医務室にはシャルロッテの声が木霊し、リクトの尋問が今まさに始まろうとしていた。

ここまで読んで頂きありがとうございます。

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