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第2話 トアと俺

お姉ちゃんと妹のバトルはハラハラしますね。

 家までの帰り道。


「どう? 学園の方は? 楽しい?」

「別に普通だよ」


 シャル姉がまるで母親のようなことを聞いてくる。


「何であの空気な奴とシャルロッテさんが⁉️」

「シャルロッテお姉さま~」


 背後からシャル姉を尊敬する眼差しが降り注いでいるが、実際のシャル姉は笑顔で顔に締まりがなく、彼ら彼女らの理想とは程遠い表情をしていた。


「お母さんも心配してたよ⋯⋯と言っても1番リクトちゃんのことを想っているのはお姉ちゃんだからね」

「はいはい」


 シャル姉は昔からこうだ。

 シエテ家に嫁いだ俺の母親の妹の娘がシャル姉で、俺とは従姉同士になり付き合いは長い。以前から何かと気にしてくれていたが、俺の両親がいなくなってからは特に甘やかしてくるようになった。


 しばらく無言のまま歩いているとシャル姉がらしくないほど小さな声で話しかけてくる。


「お家ではどう?」

「何も変わらないよ」

「⋯⋯そう」


 シャル姉は俺の答えを聞いて寂しそうな顔をする。


「リクトちゃん⋯⋯困ったことがあったらお姉ちゃんに何でも言ってね」

「それはダメだよ。ナンバーズが互いの家のことには干渉しない決まりだろ? もしシャル姉に頼ることになればナンバーズの当主会議⋯⋯7賢人会議(セブンセージ)に伺いを立てなければならない」

「そ、それはそうだけど⋯⋯」

「あの人達がそんなことを許すとは思えない⋯⋯だから気持ちだけ受け取っておくよ。ありがとうシャル姉」

「⋯⋯ごめんねリクトちゃん⋯⋯けど必ず私がランキング1位になってリクトちゃんと()()()()()が過ごしやすい世界を絶対作って見せるから待っててね」


 シャル姉は俺と妹のトアのためにいつもこう言ってくれる。ひょっとして俺達のために防壁の外へ行って、魔物と戦いランキングを上げてくれているのかもしれない。

 いつか本当に1位を取ってしまう⋯⋯そんな予感をシャル姉から感じさせられる。


「ふふ⋯⋯そうすればリクトちゃんは御屋敷に閉じ込めて⋯⋯そして⋯⋯」


 ⋯⋯やっぱり人に頼るのは良くないな⋯⋯自分の力で何とかしよう。もしシャル姉がランキング1位になったら⋯⋯。考えるはやめておこう。

 こういう残念な所がなければ完璧なお姉ちゃんなんだが⋯⋯でも⋯⋯。


「シャル姉⋯⋯頼みたいことがあるけどいいかな?」


俺はこの優しくて少し怖い姉に、1つだけお願いをした。



 そして高級住宅街にくるとその中でも一際大きい建物が見えてくる。

 ここはクワトロ家の屋敷で、中は建物の外見通り、豪華な作りでナンバーズが住むに相応しい物となっている⋯⋯屋敷の中は。


「今日は私もお邪魔しちゃおうかな⋯⋯久しぶりにトアちゃんに会いたいし」

「久しぶり?」


 えっ? 一昨日合ったばかりじゃないか。それとも俺の久しぶりの定義が違うのか。

 優等生のシャル姉に堂々と言われると自分が間違っているのではないかと錯覚に陥る。

 だが今シャル姉は残念モードに入っているので、俺は間違っていないはずだ。


「特に用もないから何時でもどうぞ」

「うん⋯⋯ありがと」


 そして俺達は門を通って敷地内に入り、屋敷の入口ではなく、離れにある、とてもこの住宅街には似つかわしくない木造でできたボロ家へと向かう。


「ただいま」

「お帰りなさい兄さん」


 家のドアを開けると妹のトアが直ぐ様声をかけ近寄ってくるが、後ろにいる人物が目に入ると、若干怪訝な顔を作る。


「ふ~ん⋯⋯お兄ちゃんと二人っきりだとそんな素敵な笑顔ができるんだ」

「何ですか私と兄さんの愛の⋯⋯いえお家に」


 出迎えてくれたのは俺の妹のトア。年齢は1つ年下で周りの評価だと、人見知りで感情の起伏に乏しいとのこと。だが俺から見れば良く気が利くし、自慢の妹だ。

 そしてセミロングの髪にお人形さんみたいな容姿から、学園では氷の姫と呼ばれていて、ファンがたくさんいるらしい。


 そしてここにもそのファンが1人いる。


「久しぶりにトアちゃんに会いたくなって」

「久しぶりも何も一昨日会ったじゃありませんか」


 良かった。やはり俺の考えは間違っていなかったようだ。


「もう⋯⋯そんなこと言って本当はお姉ちゃんに会えて嬉しいでしょ?」

「誰が」

「お姉ちゃんが抱きしめて上げるから、胸に飛び込んで来てもいいんだよ」

「残念ながらその包容力のない胸に飛び込むことはありませんね」


 ピキッ!


 何かが凍りつく音が聞こえてきた。

 そういえば性格以外でもう1つシャル姉に残念な所が1つあった⋯⋯それは胸が同年代と比べて小さいこと。

 本人もかなり気にしているようなので、俺からはその話題を振ることはしないが、氷の姫と呼ばれるトアにとっては関係ないみたいだ。


「ひ、ひどいよ! トアちゃんがお姉ちゃんのこと虐めるよ」


 そう言ってシャル姉が俺の胸に飛び込んでくる。

 鼻から到底俺からは出せないような甘い匂いと、小さいとされているシャル姉の胸の感触が俺を襲う。


「ちょ、ちょっと何をやっているんですか従姉同士で」


 珍しく慌てた様子で、トアが俺に抱きついているシャル姉を引き剥がしにかかる。


「従姉? トアちゃん知ってた? 従姉同士は結婚できるんだよ」


 結婚という言葉が引き金になったのか、トアの身体から冷気が漏れ、部屋の中の温度が急激に冷えていき、そしてトアに近いものから順にどんどん家具が凍っていく。


「おいおい、これはヤバくないか」

「そ、それじゃあお姉ちゃん、今日は帰るね⋯⋯じゃあね~」

「ちょっとシャル姉! 逃げたのかよ⋯⋯もうこれどうすればいいんだよ」


 トアは俺と違って、クワトロ家の水系の加護を受け継いでおり、氷の力はかなり強いものだと言われている。


「シャル姉⋯⋯よくも兄さんに⋯⋯」


 今はその強い力が少し暴走しているようなので、俺は後ろからトアを抱きしめて言い聞かせる。


「トア⋯⋯もうシャル姉は帰ったよ」

「⋯⋯兄さん⋯⋯」


 徐々にトアから溢れていた冷気が収まっていく。

 そして力を使いすぎたのかトアはそのまま気絶してしまったので、俺は部屋のソファーまで運び静かに降ろした。

ここまで読んで頂きありがとうございます。

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