第8話 学園長と戦う俺(1)
ラスボスは強いです
「ふっふっふ⋯⋯君と合法的に戦う機会を待っていたよ」
「そんなことを考えてるから、シャル姉に嫌われると思わないのですか?」
「な、何を言ってるのかね君は! 私のどこがシャルロッテに嫌われていると言うのだね」
ダーカス学園長はシャル姉のことを溺愛しているから、話を出せば動揺を誘えるはずだ。
「そういえばこの間言ってましたよ? 親戚同士は結婚ができると」
「結婚⋯⋯だと⋯⋯」
案の定俺の挑発に乗って学園長はワナワナと震え出す。
「貴様! まさかシャルロッテの相手は自分だと言いたいのか!」
「さあどうですかね」
学園長はどこからともなく剣を出し、俺に向かって構える。
「セリカくん! 早く始めたまえ!」
俺も剣を手に持ち、切っ先を学園長へと向ける。
おそらく学者長は怒り心頭のため、真っ直ぐ俺に向かって突っ込んでくるはず。俺に取ってそこが勝機だ。
「はじめ!」
セリカ先生の開始の合図が闘技場に鳴り響く。
「うおぉぉぉぉ!」
やはり学園長は俺の挑発に乗り、猪突猛進に向かってくる。
「【守護の楯】!」
「開始早々守りを固めるか。そんなことでこの私を倒せると思っているのがあっ!」
突如学園長は何かに当たり、体勢を崩して地面に膝をつく。
よし、作戦通りだ。
【守護の楯】を俺のすぐ近くではなく10メートルほど前に展開した。
そのため学園長は【守護の楯】に激突し、よろめかせることに成功する。これも【守護の楯】が透明だからできる技だ。
「透明の壁⋯⋯だと⋯⋯こしゃくな真似を!」
学園長は体勢を立て直し、走り出そうとするがもう遅い。俺の準備は整った。
手に持っている剣に魔力を込め、空気を纏わす。
「くらえ! 【空覇斬】!」
俺はその場で上段から剣を振り下ろすと、空気を切り裂く刃が一直線に学園長に向かっていく。
飛ぶ斬撃⋯⋯男なら1度はやってみたい技だ。
空気の加護をもらった時、最初に思い付き練習していたが、ようやく形になった。
詠唱をしていないが、軽く丸太を切り裂く力はある。いくら学園長でもこの透明の斬撃はかわせないというか、自分に向かって飛んできていることすらわからないだろう。
そして空覇斬は見事に学園長に当たり、土煙が辺りに舞う。
「まだだ!」
この程度でランキング1位が倒せるとは思えない。
俺は学園長を中心に円形に走りながら、【空覇斬】を撃ち込んでいく。
「いやっ! はっ! せいっ! まだまだぁ!」
この場を逃したらやられるのは俺の方だ。やられる前に殺ってやる。
土煙がさらに舞い上がるが、俺はお構い無しに斬撃を繰り出す。
すると闘技場全体が土埃で見えなくなり、動いているものは俺以外いなくなった。
「お、おい⋯⋯これってやりすぎじゃないか」
「さすがの学園長もこの攻撃を食らったらひとたまりもないだろう」
「ということはリクトはランキング1位に勝ったってことか!」
クラスメート達が俺の勝利に沸き立つ。
「勝った⋯⋯俺は本当に勝ったのか⋯⋯」
やった! 俺はやったぞ!
模擬戦だからこれでランキングが変わるということはないけど、俺は少なくとも1位と同等の力があるということだ。
このまま魔物を討伐していけばサリバンのランキングを抜いて、クワトロ家を取り戻すことができる日も近いだろう。
俺は喜びに浮かれていると突然土煙が吹き飛ばされた。
「少々君を侮っていたようだ」
ゆっくりと立ち上がりこちらに向かってくる。
「ば、ばかな!」
ゾクッ!
俺は恐怖を感じ、反射的に思わず後ろに後退ってしまう。
「な、何ですかこのプレッシャーは! 遠くから見ている私でさえ、学園長の威圧で恐ろしくて立つことができないのに⋯⋯闘技場にいるリクトさんはどれほどの⋯⋯」
あまりの恐ろしさに、離れた位置にいるシルヴィアは声が震えてしまう。
「くっ!」
なぜだ! なぜ学園長は動ける!
「俺の【空覇斬】でほとんどダメージを負っていない⋯⋯まさか!」
「その通りだ⋯⋯この土煙は私が起こしたのだよ⋯⋯闘技場の床を切り裂いてな」
この土煙は俺の攻撃で生まれた物だと思っていたが、【空覇斬】を防ぐために学園長が起こした物だった。
「君の攻撃は見えないからね。ちょっと対策を立てさせてもらった」
透明の斬撃である【空覇斬】は見えない。だが土煙を切り裂いた時に、その通り道がわかり、学園長はそれを見て【空覇斬】を防いだんだ。
迂闊だった⋯⋯何で土煙が巻き起こった時に気づかなかったんだ。
【空覇斬】が当たっただけで油断するなんて⋯⋯戦場なら命取りだぞ。
だがまだ負けた訳じゃない。ここから学園長を倒せばいいだけだ。
「まあ、私が答えを言わなくてもかしこい君ならどうやって防いだかわかっているのだろう⋯⋯ここからは少し本気でやらせてもらうぞ」
くそっ! あれを使う前に蹴りを付けたかった。
学園長は右手に魔力を込め、召喚する。
「我が神具クラウ・ソラスよ。この手に顕現せよ!」
学園長を中心に風が⋯⋯いや嵐が巻き起こり、目を開けることもできない。
「ぐっ!」
そして嵐が収まった時、学園長の右手には、一振の光輝く剣が握られており、俺はその神々しさに、思わず戦場だということを忘れて、その剣に見とれてしまった。
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