第6話 シルヴィアさんと戦う俺
模擬戦でも負けると死ぬ。そんな戦いもあります。
セリカside
「ほう⋯⋯さすが首席と呼ばれることはあるな」
セリカはリクトの戦いにおもわず言葉を漏らす。
【空気失ロスト】もそうだが、剣の腕、魔法の無詠唱、相手の包囲網を抜ける手段、その戦略に感心していた。
これはもう一学生の器ではない。
「まずったなあ。これはレベルが違いすぎて他の生徒が自信を失くすかもな⋯⋯だがそれで戦えなくなるならそれまでだ」
強敵に会う度に尻込みするようなら、この先魔物と戦うなど到底できないからな。諦めるなら早いに越したことはない。
「さて、この現状を見て入学試験次席の彼女はどう戦うか⋯⋯」
リクトside
後はシルヴィアさんだけだ。
ひったくり犯との戦いを見たが、彼女は舐めてかかれる相手ではない。
ここは安全に決めさせてもらう。
「【空気失魔法】」
俺はシルヴィアさんの周りの酸素濃度を低下させる。
「残念ですがひったくり犯のように私を倒すことは出来ませんよ」
シルヴィアさんは俺が言葉を発した瞬間にその場を離れ、【空気失魔法】から逃れる。
「やっぱりあの時俺がやったことに気づいていたのか」
「あの魔法を見たのは2度目ですから」
だからと言って酸素という概念がないこの世界の人に、かわされるとは思わなかった。
シルヴィアさん⋯⋯恐ろしい観察眼だ。
「一気に決めさせてもらうわ【法則】」
ひったくり犯を捕まえた時のように、彼女を中心に突然光が溢れ、薄いブルーの制服姿が一瞬でピンクのヒラヒラした服に変わり、魔法少女?に変身する。
「光の雨よ、かの者の頭上に降り注げ【光雨魔法】」
無数の光の粒が空より落下してくるため、俺は魔法で防ぐことを選択する。
「【守護の楯】」
頭上に空気の壁を作り出すことによって、光の雨を食うことはなかったが、魔法に気を取られていたため、シルヴィアさんが接近していることに一瞬気づくのが遅れた。
「行きますわよ!」
「ぐっ!」
魔力が込められたロッドを横一閃になぎ払らってきたため、俺はバックステップでかわそうとするが、左腕に攻撃を受けて、後方にはじき飛ばされてしまう。
や、やるな。
油断していたわけじゃないけど、魔法を囮に直接攻撃を仕掛けてくるとは。
俺はシルヴィアさんの行動に注視ししていると、唇が動いている様が見えたので、魔法がくることが予想される。
「これは訓練⋯⋯セリカ先生も相手を殺す気でやれと言っていました⋯⋯もしここで相手が死んでも事故⋯⋯私は罪に問われない⋯⋯秘密を知ったリクトさんを亡き者にするチャンスです⋯⋯フフ⋯⋯フフフフ⋯⋯」
魔法じゃなくて、狂気じみた目をして俺を殺す算段を付けていた。
じょ、冗談じゃない!
もしこのままシルヴィアさんに負けるようだと俺はそのまま殺られるかもしれない。
今さらながら俺は先生の言う通り、本気で戦うことを決意する。
「死んで下さい! 天に轟く雷よ、我が眼前にいる宿敵を滅ぼす一条の光を創生せよ、かの覇王が放ったような⋯⋯【覇王雷魔法】」
黒光りした稲妻が、地を這うように一直線に向かってくる。
これは百年前、人類を護るために戦った英雄⋯⋯覇王と呼ばれた闇魔法の使い手が生み出した魔法だ。
当時全てを焼き焦がす雷で、覇王を見ただけで魔物は逃げ出したという。
そんな魔法を人に向けて放つか普通!
本当にシルヴィアさんは俺を殺して、証拠隠滅を計るつもりだ。
全てを焼き尽くす稲妻が俺に迫ってくる。
「くそっ! 死んでもたまるかこんな所で!」
「大丈夫です⋯⋯リクトさんを殺した後、私も責任を取って死にますから」
「全然大丈夫じゃねえ!」
ここは全力で防がないとやばいかもしれない。
「魔を退ける神の楯よ、汝の力を我が身に宿し、全ての理をねじ曲げろ【守護の楯】!」
詠唱付きで絶対防御の【守護の楯】を展開する。
先程とは違い、前方だけではなく俺を中心に球状の楯が全方位にあるため、死角はない。
そして黒い稲妻と空気の楯がぶつかり、ひしめき合う。
「抵抗すると楽になれませんよ!」
「死んで楽になるってことか! 冗談じゃない!」
シルヴィアさんが放つ稲妻がさらに威力が増す。
「さあ! 私と一緒に天に召されましょう」
「俺は天国に行くかもしれないけど、訓練中に事故と見せかけて俺を殺そうとするノーパン娘は地獄に堕ちるぞ!」
「あーっ! ノーパン娘って言ったぁぁ! 2人だけの秘密だって約束したのに! もうやだお家に帰る!」
出来ればそのまま本当に家に帰ってくれると俺も助かる。
やばい。これはもう完全に持久戦だ。
黒い稲妻が【守護の楯】を破ることはない。
だけど一度空気の楯を解除してしまうとシルヴィアさんの黒き稲妻が、容赦なく俺を焼き尽くすだろう。
「うおぉぉぉぉ!」
絶対に負けるか!
「くっ! もう⋯⋯だめ⋯⋯」
そして10秒ほど経過した時、徐々に黒き稲妻が弱まり、遂にはシルヴィアさんは地面に膝ついてしまう。
どうやら魔力が尽きたようだ。
「だ、だけどまだ!」
だがシルヴィアさんの戦う意志はまだ残っているようで、こちらに向かって走り出し、上段からロッドを振り下ろす。
残念だけど先ほどのスピードは見る影もない。
俺は隙だらけの胸部に向けて剣を横一閃になぎ払うが、すでシルヴィアさんの魔力は尽きていたせいか、服がフェザー学園の制服に戻っていたため、制服を切り裂いて胸が丸見えになってしまった。
「きゃあぁぁぁっ!」
こ、これは⋯⋯!
俺はあくまで制服とワイシャツを切り裂いただけで、下着には何もしていない。ということはこのノーパン娘は下だけにとどまらず上も着けてないのか!
シルヴィアさんは両手で胸を隠し、恨みがましい目で俺の方を見てくる。
「これは勝負ありだな」
セリカ先生の言葉により、命懸けの訓練が終了となった。
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