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第1話 空気のような俺

本日数値投稿致します。

少しでも気に入って頂けたらブックマークをして頂けると幸いです。

 ここは百年前に起きた魔物達の大侵攻、【暗闇の黄昏】から逃れた3つの都市の内の1つベルファイア。


 気候は穏やかで、作物はよく育ち、災害等も少ないため、とても過ごしやすい所ではあるが、街全体を取り囲む防壁を出るとその様子が一変する。

 魔物がいるからだ。

 今や一般人が防壁の外へ出ることなど論外、余程の魔法士でなければ瞬く間に魔物の餌食になってしまう。

 しかし中にはその魔物達を一瞬で返り討ちにしてしまう者がいる。

 それがこの百年間ベルファイアを護り続けていた一族、ナンバーズと呼ばれた者達である。

 ウノ、ドス、トレス、クアトロ、シンコ、セイス、シエテの名を持ち、数えきれぬほどの魔物を撃ち倒して来たことから、人々より尊敬の念を集めると共に畏怖の対照でもあった。

 なぜならナンバーズはこの百年間ベルファイアを護り続けたことにより、絶大な権力を手中に納めているからである。

 もしナンバーズに逆らうようなことがあれば、自分達を護ってもらえなくなるからだ。


 この物語はクアトロ家の前当主の子供であるリクトが、15歳の時から始まる。



「ではこれから成績表を渡す」


 ここは15歳以下の子供が通う学園。

 教師の言葉によって、楽しみにしている者や成績が悪いのがわかっているため露骨に嫌な顔をするなど様々だ。


「リクト」

「はい」


 大きすぎず小さすぎず目立たない声で返事をし、成績表をもらう。


()()()()()()()()()()


 教師から一言言葉をかけられ、席に着いて成績表を開いてみると、A~Eの5段階評価で全ての項目にCが付けられていた。


「おい! 成績表を俺にも見せろ!」


 そう言って、少し太った体型で目付きと性格が悪いダンドが、俺の成績表を奪う。


 俺がいいと言う前からもう見ているじゃないか。


「またこんな特徴のない評価か。お前はクワトロ家の一員として恥ずかしくないのか⁉️ だから水の加護も貰えなかったんだよ」


 加護は少年時代に女神から与えられる物で、1部の人間にしか授かることができない。遺伝的な要素が大きく、クワトロ家は代々水の加護を受けることが多い。


「お前の加護はなんだっけ?」

「⋯⋯空気」

「あっ⁉️ 聞こえねえな」


 本当は聞こえているくせにダンドは敢えてもう一度聞いてくる。


「空気」


 俺は先程より少し大きな声で答えるとダンドは大声で笑い始める。


「ハッハッハッ! 空気だってよ! 能力も存在もいてもいなくても変わらないお前にピッタリだな!」


 そしてクラスメート達もあざ笑いを始める。


「空気だって」

「確かにリクトくんに合ってるよね」

「髪が長くて目が隠れているから何を考えているかわからないし」

「ダンドくんが言うとおり、確かに空気みたいな存在だな」


 ダンドの声に同調する声が多く上がり、俺は教室の居心地が悪くなる。


「けどリクトくんって昔は学力も実技も成績良かったよね?」

「そうだね。性格も明るくて女子達にも人気があったよ」

「あれだ⋯⋯2年前にほら、クワトロ家の当主と奥さんが亡くなった事件があっただろ? そこからおかしくなったんじゃないか」

「そういえばあったね。そんなことが⋯⋯」


 周りから好き勝手な言葉が聞こえてくる。


「ダンドくんは現当主の子供だから前当主の息子のリクトのことを疎ましく思っているんだろ」

「そうなんだ⋯⋯何で空気みたいなリクトくんに突っかかるのか不思議に思っていたけどそういうことなんだ」


 空気か⋯⋯間違ってはいないな。

 クラスメートとの付き合いはないし、学力も実技も平均値。この俺を空気と言うのは仕方ないと思う。


 俺は成績表をダンドから取り返し、教室を後にする。


「お前はクワトロ家の恥なんだよ! 父上に言ってお前を必ず家から追い出してやるからな」


 背後からダンドの声が聞こえてきたが、俺は空気のように受け流して、家に帰るため学園の外へと向かった。



 校門に着くと何やらざわめいている様子が見られる。


「おい! あれって」

「まさかこんな所にいらっしゃるとは」

「いつ見てもお綺麗だわ」


 壁に寄りかかる、黄色に白みがかった長い髪の美少女が夕陽をバックに佇んでいた。


 絵になるとはこういうことを言うのだなと一瞬だけ頭の中に過ったが、その考えは美少女が言葉を発したことで、脆くも崩れ去る。


「おとうとく~ん!」


 先程までの澄ました美少女は、満面の笑みを浮かべて手を振り、こちらに向かって駆け寄ってきた。


 知らない振りをしたかったが、そんなことをしたら後で泣かれることは間違いないので、控えめに軽く手をふる。


 今こちらに向かっている、さっきまで美少女だった女の子は、俺の母の妹の娘であり、ナンバーズのシエテ家の血筋を持つシャルロッテ・シエテだ。


「一緒に帰ろ」

「シャルロッテさん学園が違うでしょ」


 シャルロッテさんは俺の1つ年が上で、魔法士の学園に通う学園生だ。

 しかも⋯⋯。


「何でこんな所にシャルロッテさんが⁉️」

「学園生でありながらランキング三桁の⁉️」

「強くて綺麗なんて反則だわ」


 今、周囲の人達が言っていたランキングは文字通りその人の強さを表すものであり、倒した魔物の強さ、数、その内容によって位置付けられる。

 このランキングの順位は権力その物であり、現在の10傑は全てナンバーズの家で占められている。

 学生が魔物と戦うことすら普通ならありえないことで、しかも三桁のランキングを持つのはシエテ家の娘といえど前代未聞だ。


「シャルロッテさんって何でそんな風に呼ぶの? いつもみたいにシャル姉って呼んでよ⋯⋯でないと⋯⋯」


 シャル姉は涙を目に浮かべる。


「わかった! わかったから! シャル姉! これでいいでしょ」


 目立たぬよう過ごして来たけど、シャルロッテという光輝く明かりの前で俺は空気になることはできなかった。

読んで頂きありがとうございます。

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