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気まま天使と仲間~ズ  作者: 日高見竜一
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続・二次会編

「気まま天使 続・二次会編」


 大島さんは、すっかりシゲさんを気に入ったようだ。

 それから「二次会に行くぞ」と盛り上がった。地下鉄に乗り、私のお気に入りで行きつけの店でアパートの近所である「ドンファン」に歩いて向う。大島さんとシゲさんは、笑いながら肩を組んで歩いている。どうやら大島さんは、シゲさんをお気に入りに追加したようだ。

 私は、「ドンファン」のママの事で100%頭がいっぱいになっていた。

大島さんには申し訳ないが、シゲさんの接待どころではない。ママは、私より七、八歳年上だ。しかし、年齢の割には若く見える。そして、第一に何ともかわいい。「愛は、盲目」というが国語が成績が悪かった私でも「愛は理性を失う」と納得することわざである。この、ことわざを考えた人は、多分、私と同じ境遇でこのことわざを生み出したに違いない。

この店は非常に安かった。今風にいえば、「リーズナブルな店やね、リュウさん」とオシャレに言うだろうが、大阪に住み慣れてきた私には「めっちゃ!安い店やね」となる。

他の客は、万券を出しているのを良く見かけた。私なんぞの支払いは、ラーメンの出前を頼んでもニ、三千円で済んだ。摩訶不思議な事であった。

この安さは、どこから来るのか?一「私が二十二歳と若く貧乏」、ニ「ママに甘えていた」、三「六口だったからか(六つ口があり良くしゃべる自分なりの比喩)」全部当てはまる、結論は「よう、わからん」ということになった。

当然の如くママに逢いたくてこの店を訪れたのだ。

実は、私はこのママに恋心をいだいており「いつかはママさんと・・」と夢に見ていたのである。

その頃は、カッコをつけてか甘林檎の香りがするコロンを愛用していた。白い容器にシルバーの菱形の枠、そして爽やかなコマーシャルが自分に受けた。

汗臭い体を爽やかなコロンの香りに包んで、ママにアピールする必需品である。店のドアを引き開けると、ママが笑顔で私達を迎えた。

「リュウ君、いらっしゃい」

私の顔を見てにこやかに迎える。「自分だけに与えられた笑顔だ」と勝手にそう思い込み、ニヤケテしまう。

『なんやねんこのカワイらしさは、やっぱりええなあ』

「ママ、今日は先輩と南上市から来た先輩を連れてきたんやけどカウンターに座ってええの?」

そういいながら勝手に空いているカウンターに私、シゲさん、大島さんの順で座った。カウンターに座れば、ずうっとママの顔を見てられるから一番の特等席となる。

「ママ、俺のボトル合ったやん。まだ、残ってるんか?」

ボトルは、ヨントリーウイスキーの「トライ」のキープだ。この頃は、ヨントリーの「トライ」か「ブラック」がマイブーム?であった。いや、ただの貧乏だから、それ以上のボトルキープは出来なかったと、言った方が正しいのかもしれない。

「リュウ君のボトルはあるよ。まだ、残ってたと思うんやけど」

ママは、後ろを振り返りボトル棚を物色する。その、ママの後姿もボーッとして見つめる。

『ええなあ、後姿もカワイイ。あの、セミロングの髪の毛。そして、「ハイ、リュウ君ボトル・・チュ」なんてキスしたり・・なんて・・ある訳ない?またまた一人で妄想にとらわれニヤケてしまう。ハッキリ言って『アホ』や。

「ハイ、リュウ君のボトルあったわよ。みんな、ウイスキーでええの?」

ママが首を七十五度に傾げてニコッと笑う。その笑顔を見たらもう、うなずくしかないだろ。

「大島さん、シゲさんウイスキーでええの?シゲさんもええやろ?」

カウンター越しに大島さんに確認し、隣の席のシゲさんの顔を見て確認する。

「ええよ」

大島さんが答える。シゲさんもうなずいた。

「皆、水割りでええの?」

ママが微笑み皆を見渡す。そして、生徒の様に同時に三人共うなずいた。

 ママは、大島さんとシゲさんのうなずいたのを確認しグラスに氷を入れて、ウイスキーをワンフィンガー注ぎ込む。マドラーでグラスの中のウイスキーと氷をゆっくり回す。この混ぜた時の氷がグラスにぶつかる音が心地よい。本当は、ウイスキーは、ストレートで飲むのが好きだ。グラスの中の香り、一口飲んだ時の喉を通る暖かさ、口の中に停泊している香りが鼻から抜け香りが漂っている。

しかし、ストレートで飲んだらすぐに消費してしまうことから辛抱我慢である。

「ママも飲んでええよ」とママを見て頷く。

ママも「シゲさんウエルカム」に参加だ。

「シゲさん、お疲れ様でした~」グラスを軽くぶつけ合い四人で乾杯し、同時に軽く一口飲む。

「シゲさん、俺も南上市出身で南上工場から出向で大阪に来てるんやけど、及川さん元気でやっとんの?」

「ありゃ、おめ南上工場がらきたのが?大阪弁でいっこど(ぜんぜん)わがらねがたじぇ(分からなかった)。大阪の人だと思って気を使っていたじゃ」

シゲさんは、驚いたように私の顔を見る。私も、シゲさんの言葉に驚いた。

『はあ、気を使う?シゲさん気を使ってたの今まで?・・全くそんな感じは受け取れない?それに、大阪人だから気を使うって何のことだ?』

シゲさんの態度は、私の知る範囲で、気を使っている態度にはどう見ても見えなかった。

「俺の大阪弁ニセモノやから。シゲさんと同じやって」

水割りを一口飲む。

「ふーん。んで、おめ、南城市のどごさ(どこに)住んでるのや?会社の近くか?」

シゲさんも水割りを飲みながら小さな目を開き、私に質問する。

「俺は、川の近くにお寺あるやんか、そこの近く。分かるか?そんな、話しなんかええやん。シゲさんカラオケあるけど歌う?」

この最後の「カラオケ・・」の一言が余計であった。

「カラオケが歌うが・・」

シゲさんはパラパラとカラオケの本をめくる。大島さんは、マイペースで水割りを飲んでいる。

「大島さん、何か歌ったらええんとちゃいますか?」

大島さんの顔を覗き込みリクエストする。

「リュウ君こそ、『ダンス・ダンス』歌ったらええやん。それとも『寂しい虹やねん』がええんとちゃうか」

髪の毛を右手で撫で付けながら、私の顔を覗き込む。大島さんは、私の得意曲を良く知っている。

「俺は、後でええから、大島さん、『ハニーへの伝言』、『街角のエリー』を聞きたいんやけど」

やはりここは、先輩から歌わなければならないと固定観念があった。そう、新渡戸稲造の【武士道】を見習うのだ。

「せやな、ほなママ『ハニーへの伝言』と『街角のエリー』入れてえな」

ママの方を向きながら、本のページの番号を指差しリクエストしていた。

「ハイ、『ハニーへの伝言』と『街角のエリー』ね、だけどこちらのお客さんが5曲くらい入れたから、その後でええでしょ」

ママは、エレベータガールの様にしなやかに右手を動かし、手のひらを上にしてシゲさんに向けた。

 なんと、シゲさんは大島さんと私が話しをしている間に続けて5曲も入れたのだ。なんという素早さ。『駅ホーム』のタイトルがテレビの画面に映し出された。シゲさんの顔が真っ直ぐに画面を注目している。

「汽車を~待つ間に、涙をぬぐい・・・・」

シゲさんの声が、響き渡る・・響き渡る。エコーの効き過ぎか・・しかし、上手い上手すぎる!声を震わせて歌う。もう、シゲさんは、酒にも酔っているが自分の歌にも酔っている感じだ。目を細め、首を少し傾けマイクをギッチリと握り締め歌い続けた。

一曲目終了。一瞬、間が空き、また、カラオケの画面が変わる。次も、シゲさんの番・・また、シゲさん、そして、また、またシゲさん。まさにシゲさんオンステージと化している。

『ようやく、終わったよ・・・シゲさん、めちゃくちゃ歌上手いし、カラオケ好きなんやなあ』と、変なところで感心してしまう。しかし、この感心も後で後悔することになるとは・・・。

今度は、大島さんの番だ。あの得意曲の「ハニーへの伝言」だ。

「ハニーが来たなら教えてよー四時間待あてたとー」

シゲさんが、大島さんと一緒に歌いだす。

 これは、カラオケのルールに反する、人の歌っている曲に口を出すものではない。シゲさんに注意した。

「シゲさん、大島さん歌っとるんやから、一緒に歌うの止めた方がええって」

この注意にてシゲさんが歌うのを止める。その十五秒後・・・再び合唱。

シゲさんはマイクをぎっちりと握り締め、気持ちよく歌い『絶対マイクは離さへんでー』と意気込みがヒシヒシと体に伝わって来る。もう、どうにもとまらない状態となっていた。

大島さんは、つぶらな瞳がやや斜めになっている。幾分ムッとしている空気が伝わってくる。この目が斜めは、やばい。この状況からもう一つランクが上がれば、「シゲさん、ええ加減にしいや。人が歌っとる時、横から入って歌うもんちゃうやろ。そやろ、リュウ君。なんとか、シゲさんにゆうた(言った)りいや」この言葉が、いつ出てくるかその前にシゲさんを抑え込まないとあかん。でも、シゲさんも大声で歌って、つけ入る隙間がない。

重苦しい空気が漂う。シゲさんには、この空気が読めない。さすが、大島さんは大人であって口では文句を言わない。一歩手前で留まっている・・・目が怖い・・目で訴えている。この沈黙。これが、大島さんの怒りの合図である事を私は知っている。

 大島さんのカラオケも二曲目の『ハニーへの伝言』に入る。相変わらずシゲさんも歌っている。マイク無しでもいいと思うくらいの大音量。無事?大島さんのカラオケも終わった。

「シゲさん、ホンマに歌うまいんやなあ」大島さんがシゲさんを見て笑っている。

その顔は完全にシゲさんに脱帽し諦めている感じが伺えた。怒らなかった大島さんに大人の姿を感じた。

さて、私もリクエストしようと思い本をパラパラめくる。

実は歌う曲が『寂しい虹やねん』と決まっていた。しかも、キッチリとその『さ行』の『寂しい虹やねん』のページに人差し指を挟んでいた。さも、他の曲も歌えるんだよとの見栄、そしてなぜかしら本能的にページをめくって見てしまうのである。

 すると曲が流れ始めた・・はっとして、思わずシゲさんを見る。私が、思ったとおり、マイクを握っていたのは、シゲさんだった。今度も五曲投入での一人舞台になる。大島さんと私は、休憩時間に歌う付録?見たいな物だ。

「はあ・・・あんあんーーー」

声を震わせる。シゲさん絶好調、ようやく五曲を完唱した。シゲさんは、つかざず本をめくり始める。よし、シゲさんが歌う前に・・・。

「シゲさん。歌うまいな。ずーとマイク持ってたやんか。ママ、『くだらない』を歌ってよ。ママの歌う曲好きやから」

当然の如くママの顔を見ての笑顔は絶やさない私だ。

「リュウ君に頼まれたんやから歌おうかな?『くだらない』でええの」ママは、首をチョット横にし笑顔で私に問いかける。

「ええって、ママの『くだらない』聞いたら誰もこの曲を歌われへんて」

更に、ママの顔を見つめ目を大きくして頷く。

「なにや、『くだらねえ』?歌うのが・・」

シゲさんが俺も歌うぜ勢いで参加しようとする。私は、それを阻止するかの如く・・。

「ダメだってシゲさん、ママが歌うんやから静かにしとってや」

「そや、ママが歌うんやからシゲさんだまっといた方がええんちゃうか」

大島さんもシゲさんに『人の歌を歌うなよ。ママが歌うんやから、特別なんやわかっとるんかい?』シゲさんは、大島さんの気迫を感じたのか、うなずいた。どうやら解ったらしい?少しだけホッとした。このホットも数十秒であることが、この後知らされる。

 ママは、カラオケに局番を入れ右手でマイクを持った。マイクを持つ姿もカワイイと思う。カラオケが始まった。

「くだらなーい。くだらな~い・・・・」

『くだらない』を歌うママ・・・ママを見つめる私。その、見とれてボーットしていたのに水を刺される。シゲさんが途中から一緒に歌いだす。夢の気分がぶち壊された。どうやら、シゲさんは、もう我慢が出来なかったらしい。さっきの注意での頷きはなんだったんや。

『なんや、さっきシゲさんにゆうたばっかしやんか。何で歌とんのや?約束がちゃうやんか?何考えとんねんシゲさん。止めえって』心の中で思う。つかさず、私はシゲさんを睨み付ける。

「シゲさん、止めえって。ママ歌っとるから、黙って聞いててくれへんか」

私と、大島さんの説得にようやくシゲさんはしぶしぶ了解し、マイクを握ったまま本をめくり始めた。人の歌なんぞ関係ない!自分が歌えばそれでいいと思っているシゲさんであることが分かった。

「やっぱりママの『くだらない』ええなあ。いつ聞いてもええやん」

私は、思いっきり褒めた。もう、ママが歌うんやったら何でも上手に聞こえる。

 更にシゲさんは、選曲し歌い始める・・シゲさんオンステージ再開である。

ここで「カラオケシゲさんエンドレス」の名言が誕生した。

 この初めての大阪での出会いで分かったことは、

(一)シゲさんはカラオケ大好きな男。

(二)酔っ払うと分けがわからなくなる男。

(三)決してマイクを持たせてはいけない男。

(四)好き勝手な気ままな男。

この四つが私の脳裏に植えつけられた。

 数日後、ママに逢いたくて店を訪れた。ママは、相変わらず今日もカワイイ。

「リュウ君、この前連れてきた人、同じ町の出身なん?凄かったやん。カラオケ!ずーとマイク握って離さへんかってん。でも、すごい歌上手かったやんか。リュウ君の周りにも、あんな人いっぱいおるの?」

大きな目を開け綺麗な口元をほころばせながら私の顔を見た。その口元、顔を見て『ドキッツ』と、心臓音が聞こえるようだ。

「ママ、あの人は特別やって。あんなん、ずーとマイク持って離さへんやつなんておるわけないやろ。せやけど、シゲさんて言うんやけど、歌上手かったやんか?また、来たらおもろいな」

 笑いながらママの顔を伺う。

「そうやね。でも、また来て欲しいわ」

顔をチョット傾げ私に相槌を打つ。この仕草。女性がチョット顔を傾げ、髪の毛がフワットした瞬間は、女性である特権のカワイさを感じる。この仕草には、男たちは、もう堪らない状態になってくることに間違いない。

 どうやら、シゲさんの歌は、ママの脳裏にインプットされた。大阪にまで知名度が広がった。超・有名人となったシゲさんだ。

 この出合がキッカケで、シゲさんと飲む場合は「カラオケ厳禁・マイクを渡すな」が教訓になった。しかし、マイクなしでもシゲさんのカラオケ伝説が続くことを、この時は知らなかった。


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