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-俺の日常は、コイツによって終わった-

「さて、補習も終わったし帰るか」


 5月の連休に友達とサイクリングに行った一樹は、山を降る途中藪から飛び出してきた狸?に驚きバランスを崩し転倒!


 腰、右大腿部を骨折し、1ヶ月の入院を余儀なくされた為、授業の遅れた分を放課後補習に当てる事になった。


「······。」


「終わったのか?」と未だ問題と格闘してる悪友とも言える純平に声を掛けた。


「なんとか、かな?」


 同じサイクリング部に所属し、その日純平も一緒だったが、純平は坂を降り始めたばかりで、怪我はしてはいなかったが、先だって行われた期末考査で見事に赤点を出し強制補習!


「駄目だな。お前、何度同じとこ間違えてんの?」


 純平が渡したプリントを担任である後手瓦がチラッと見て、突き返すのを見て、一樹は挨拶だけして教室を出た。


 グラウンドでは、サッカー部を始めとし、陸上、野球部が大きな声を張り上げて、来月行われる高校生球技大会の予選に向けて頑張っているのが窓から見えた。



『残念ですが、一樹くんはもうスポーツは愚か普通に走る事もできません』


 医師の冷たい宣告から僅か2週間。


 怪我が治ればまたサイクリングコースに出れると思っていた一樹は、その宣告を受け泣いた。


 冷たい診察室の中で···


 声を張り上げ泣いた。


 両親や姉は、気遣いスポーツ以外の趣味を勧めてはくれたが、小学生の頃初めてサイクリングコースを走る学生に憧れ、勉強を頑張って入ったこの高校。やれなきゃ、ここにいる意味がないと思っていたが···


 1日1日と無駄に過ごすよりは···と、同じ委員会仲間である智之と一緒にカメラ片手に街へ出たり、クラスのうるさい女の子共と一緒にカラオケに行ったりする内に、小さな事で悩んでた自分がバカバカしく思えてきた。



「おーーいっ! いっぺぇーーーっ!」


「一樹だ、ばーか!」


 最近、クラスに入ってきたアメリカにある姉妹校からの交換留学生·テミスが、校舎から出てきた一樹を見、大きな声で叫んだ。


「頑張れよぉ!」


 一樹も大きく叫び、校門を出た。


「っと、忘れるとこだった。今日、あの本が発売される日だった」


 一樹は、思い出したように呟くと踵を返し西坂駅方面へと向かった。


 思えばこれが、一樹とある男の出会うきっかけだったのだろうか?この時の一樹も、まあ高いビルの上からボォッと街並みを眺めている男も知る由は無かった。



「講○社、講○社···と」


 駅前のビルの中にある1フロア全体が本屋になっている芹沢亭。なぜ亭なのかって?ここは···



「お待たせ致しました。ロイヤルココアでございます」


 買った本を飲みながら、ここで飲食が出来るんだ。もちろん、飲食は無料だし、この芹沢亭に入るのもパスポートがなければ入れない。



「俺たちの修学旅行は···と。あった、あった」


 俺が最近ハマったライトノベルの1冊。俺たちの修学旅行〜異世界から高校生がやってきた!〜は、まだ1巻が出始めたばっかなのに、早くも重版の話がTwitteruに流れ始めた。


 もともと小説投稿サイトで、新着として出てから読み始めた俺は、直ぐに俺は逢坂千紘のファンになった。


 今回は、その2作目の話。


「はい、680円とスプラッシュ下さい。トールで!」


「かしこまりました。では、あちらの青いライトの下でお待ち下さい」と店員の可愛い顔にクワッときながらも俺は包装してもらった本を胸にカウンターへと急ぐ。


 ガッガッガァァーーーッと氷を砕く音を聞きながら、いつもの席を探す。が、やはり窓際は人気なのか、いつも埋まっている事が多い。


「35番、スプラッシュお待たせ致しました」


 出来上がった飲み物を片手に、運良く空いた窓際へと急ぎ着席し、スプラッシュを飲んで一息ついた。


「落ち着くーっ」


 喉に染み渡る炭酸の弾ける感じもレモンの味もお気に入りで、ここに来ると必ずと言っていいほど頼む。


 1ページめくると紙に染み込んでるインクの匂いが鼻をつく。



『お前さえ良ければ、文芸部こないか?』と昼休みに生徒会長候補の荒木が言っていたのをどこかに置いといて、読み始める。


 今回の話は、ファッションビルでのかくれんぼらしく、ページを捲る度に笑いがこみ上げてくる。


「ほんと、面白い」


 本に集中してても、目の前が暗くなるのがわかり、顔をあげると、佐々木がムスッとした顔で立っていた。


「一樹、お前花蓮どう思う?」


「花蓮? 別に」


 本を読むのをやめ、栞を挟んでから鞄にしまった。


「なんで? そんなに心配なら告れば?」


 新聞部に所属してる佐々木は、時々ヘルプでやってくるカメラ部1年の大川花蓮に片想いをしている。


「それが出来りゃ、こんな苦労しねーよ」


 ここでは大きな音も声も出せない暗黙のルールがある。だから、声も出来るだけトーンを落として喋るのだが···


「なんで、そんな自信ねーの? だって、お前別に貞○じゃねーんだし」


 俺と佐々木は、同中だったから佐々木の女遊びの事は何度か耳にしてはいたが。


「従姉妹らしい。朋美と花蓮は」


「······。」


 なるほど、ね。そりゃぁ、告白するのも躊躇する訳だ。朋美も同中だから。


「ま、あれだけ可愛いんだし、彼氏位いたりして」


「うん」


 佐々木の顔が、ある一定の場所で固まった。その視線の先には、見知らぬ制服を着た男と一緒にカメラを覗いてる花蓮がいた。


 告白する前に、振られたか。可哀相に。


 結局、帰るつもりが佐々木のヤケカラに付き合う事になった。


「おい、元気出せって。じゃぁな!」


「うん。ありがとな」


 しょげる佐々木を駅の改札口まで見送り、俺はせかせかとした足取りで家へと向かった。



「─筈だったんだよな?」


「え、まぁ。そうですね!」


 何故、俺はこんな所にいるんだろう?目の前のこのおっ○いデカデカ女は誰?


 そんな事を考えたりもしたが···。


「もう1回聞く」


「はい···。どうぞ」


 真っ白な壁?に囲まれ、大きな椅子に座った金髪のおっ○い女。


「俺は、死んだのか?」


「はい。本来ならば、あなたは94歳でお亡くなりになるなるご予定でした」


 は?94まで?


 俺が座ってるこのソファも、かなりな高級品なんだろうか?身体が、沈みそうだ。


「なんで死んだの? 怪我もなんもないけど」


 服もきれいだし、顔に傷もなかった。


「あぁ、それはですね。洗浄センターを通ってきたからです。そこに行くと服や身体もお亡くなりになる前の状態になりますから」


「だから、なんで死んだの? だって、俺が歩いてたのは、確か···」


 そうだ。俺は、確か佐々木と別れて夜のおやつを買いにいつものコンビニでお菓子を買って、さぁこのまま真っ直ぐ帰れ···


 ったのかな?はて?


 なんか、そのあとの記憶が一樹にはなく、目が覚めたらこうして目の前に金髪おっ○い女がいた。


 コホンッ···


「いいますけどもっ!」


「はい」


「わ、私。そんな、む、胸は大きくなんかありませんっ!」


 は?いや、十分すぎるほどたわわに揺れてますけど?え、なんでわかった?


 戸惑う一樹に、女は続けてこう言った。


「ご挨拶が遅れました」


「はい?」


 一樹は、姿勢を正して金髪おっ○い女を見た。


「私、このフロンターレ国を護る女神のソルティアと言います」


「女神? あんたが?」


「ええ、そうですが。なにか?」


 ソルティアと名乗った女神は、小さくため息をつくと足を脚を組み返した。


「ぷっ。うっそだー。だって、女神ってのは白いふわふわしたドレスを着て、大きな本を持っているんだろ?」


「······。」


「女神っていうならさ、なんであんたはビキニ着てんの? おかしくね?」


 一樹の目の前で椅子に座ってるソルティアは、白いドレスではなく、本当にビキニを着ているのだ。


「あぁ、もぉ、やだぁ! せっかく、1日お休み貰ってヴァカンスしてたのにぃ! だいなしぃ!」


「······。」


 女神らしかぬ発言に、一樹は笑う。いつぶりだろうか、こうして声を出して笑ったのは。



「─で、だいたいの事はわかったけど」


「そうなんですよねぇ。ほんと、どこに行っちゃったのかしら?」


 一樹が、死ぬ原因を作った当の本人が、いまだ見つからない。いや、女神達は合っているのだが···。


「おかしいですわね? そろそろきてもいい頃具合ですのに」


 ソルティアは、頬杖をついて呟いたが、まてどくらせどいまだ来ぬ。


「ほぉーーーいっ。お待たせーーーっ」となにやら上の方からのんびりとした声がし、一樹とソルティアが上を向く。


「まぁっ!」と微笑むソルティアに対し、一樹はというと、


「てっんめっ! 早く降りてこーいっ! こんの豚やろーーーっ!!」と罵声を浴びせたのだった。


「えぇっ?! やだぁ! だって、あなた怒ってるしぃ」


 空に浮かんでる豚のように丸っこい魚は、のんびりとした口調で言いながら泳いでいた。


 が!!


「····え?」


「はーやーく、降りろって言ってんだろぉぉぉぉぉっ!!!」と一樹は、自分が座っていたソファを掴むと、その豚のような探すに向かってぶん投げたのだ!


 よって···



「す、すんませんでしたぁっ!!」


「「······。」」


 床の上でビチビチしてるブタのように丸いイルカ?のような生き物。


「いや、んな格好で謝られてもな。つか、なんでこいつこれ?」


 一樹がソルティアに問うもソルティアもよくわからないらしく、首を傾げる。



 豚のようなイルカのような魚。名前もあるらしいが···。


「岩田景吾、ね? いいじゃん、豚! で。よしっ! 決まり! 今日からお前の名前は、豚! だ! いいよな? 文句ねーよな? あ? 俺を死なせたんだ·か·らっ!」


 一樹は、いまだ床でビチビチやってる豚イルカ(岩田景吾)に笑いながら言った。


「···。は、はひ」


 身体流れから油のような汗?を出し、一樹を見上げる豚イルカと、うっすら笑いながらも毛のついた扇子で顔を仰ぐソルティア。


「やれやれ···。さ、終わったことだし、ヴァカンスの続きしっちゃおうっ!! あ、きみたちはそこにある荷物持って、国歌ら立ち去ってねぇ! じゃっあっねぇぇっ!」


「「······。」」


 一樹が、何かを言う前にソルティアは、楽しそうに部屋を出ていった。


「あ、おっ···いーーーっ?! なんだ、ここっ!」


 たった数秒前まで、大きな部屋(城?)だったと思うのに、ソルティアがいなくなった瞬間、まっさらな草原になり、一樹と地面でビチビチしてる豚イルカだけになった。


「荷物って、これか?」


 大きな麻袋の中には、衣類や食べ物がいくつか入っていた。一樹が、読んでいた小説も···。


「ま、とりあえず歩くか! おい、豚! お前空跳べるんだろ? 起きろ」


 少しキツめの口調で言うと、景吾はやれやれと言った表情で浮かびあがった。



 この破天荒な出会いが、ふたりの面白い旅の始まりになった。


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