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第88話 恋愛バカ


「大丈夫かな~エレナ~」


 カナンが心配そうな声を上げた。

 彼に取ったらエレナの母はある意味カナンの育ての母と取れなくもない存在だ。

 カナンの実の母親は彼を産んだ後、程なくして産後の肥立ちが悪かった所為かその命を落とすと言う不幸に見舞われる。

 残された赤子に対しカナンの父テオドールは乳母と言う役割をエレナの母に与えたと言う。

 エレナ自身も母を手伝いカナンの面倒を看ていたようだ。

 二人は身分違いではあるもののまるで姉弟の様に仲が良かったらしい。

 しかし、運命の悪戯かある日突然二人は引き裂かれる。

 カナンの物心がつく前にエレナの母は病に罹り乳母の役を解雇され屋敷を去る事になった為だ。

 それ以降はこの屋敷で再会するまで面識が無かったようで、カナンもテオドールの手紙によってその存在を知ったとの事だった。

 だが、優しいカナンは記憶には無いもののエレナの事を気に掛けているようで、最近ではこのお茶会でも会話を交わしているのを見かける時が有る。

 カナンちゃんが盗られる! と止めたい気持ちも有るものの、ローズはグッと堪える事にしていた。

 それは最近の彼女の態度に関係している。


「そうねぇ、なにも無ければいいのだけど……」


 ローズはカナンの心配する言葉に自身も同じ思いを続けた。

 本来は敵であるものの一時は仲良くなり掛けたエレナ。

 しかしシャルロッテの屋敷へお呼ばれしたあの日から、なぜか再び態度を硬化する様になってしまった事が最近ローズにとって悩みの種であった。


 皆が幸せになれるバッドエンドを目指して、それ以降も日々懐柔作戦を敢行しているのだがその度に更に悪化している気がしなくもない。

 やはりここは一度転生者同士腹を割って話すべきなのでは? と最近は少し思うようになっている。

 ただ、それは現在恵まれている立場に居る自分の驕りなのかとも思い、戸惑っているところだった。

 そしてそれは間違っていなかった事を昨日の件で知る事となる。


 以前彼女が自分に語った過去の過酷で辛い思い出。

 あの時は作り話だと思っていたが、昨日自身がこの世に誕生した時から伯爵令嬢であり、そして英雄と聖女の二人の娘と言うこの王国でも類稀無い恵まれた存在だった記憶を思い出した事によって、あの時のエレナが吐き出した憎しみと苦悩と悲しみの慟哭は紛れもない事実だったのだと確信するに至った。

 不幸な事にエレナは恐らく自分より早く前世の記憶を取り戻していたのだろう。

 もしかすると物心が付いた頃には既に思い出していたのかもしれない。

 過去を思い出し二つのローズの人格を統合したローズだからこそ分かるのだが、あの日のエレナの目に宿る暗い輝きは記憶の中の過去を語っているのではなく、連続した意識の繋がりを元に今の人格が形成された……そう感じられたからだ。

 乙女ゲームの主人公と言う華々しく幸せな未来が待っているエレナ。

 そのエレナに転生した事に気付いた彼女の魂は、どれ程喜んだ事だろう。

 しかし、目の前には過酷な運命が待ち受けていた。

 その事を想うとローズは心が痛む。

 過去を思い出した今だからこそ余計に胸を苦しめるのだ。


 『彼女は今、辛いだけだった今までの人生を清算し、未来のハッピーエンドを掴むべく決死の覚悟で私と戦っているのだわ。可哀そうだからと言って、ただ単に恵まれている立場の私が上から手を差し伸べるだけでは彼女の心を本当に救う事は出来ないと思う。ならば私も全力を以って彼女と戦う。だって真剣勝負の決闘をした二人には最後に友情が芽生えるものだしね!』


 そう心の中でガッツポーズを取るローズなのだが、明らかに友情と言う物に対しての方向性を間違っている事に気付いていない。

 それは高校生の頃、皆に慕われる生徒会長と言う輝かしい肩書きの裏で、大好きだった先輩と困った同級生の三人チームで不良共をボコボコに……いや真人間への更生を促す地域活動を行うと言う少々ステゴロ上等な青春を送っていた所為で、友情の結び方を少しばかり勘違いしていた為である。

 だが根拠無くそう思っている訳でもなく、なにしろゲーム終盤への転換イベントである『王城からの召喚状』を乗り越えたものの、本来の開始トリガーであったバルモアはいまだ健在だ。

 やがて訪れるであろうバルモア死亡イベントを回避出来なかった場合、第二第三の破滅への落とし穴が待ち受けているであろう事が予測されるのである。

 今回乗り切ったからとは言え、ゲームの主人公であるエレナと雌雄を決する必要が有り、そして勝利しなければシュタインベルク家の未来は無いとローズは思っていた。


 『その為にはまず何が何でもイケメン達との恋愛フラグを折りまくる事が必要不可欠よね。だけど今の彼女には癒しが必要なのも確かだわ。まだ未来が明るく輝いて見えていた幸せだった頃の記憶。そうカナンちゃんとのふれあいだけは見逃してあげないとね』


 態度を硬化させたエレナが唯一笑顔を取り戻すのはカナンと会話している時だった。

 それを強引に奪うと、もう二度とエレナと和解出来ないだろう。

 それこそ河川敷で殴り合いをしようと、戦い疲れ夕日の中その場で二人寝転がろうと、彼女と友情は結べなくなる。

 例えはとても変であるが、ローズは真剣にそう思っていた。

 しかしながらローズはカナンを諦めた訳ではない。

 カナンとの結婚ENDへと続く時限イベントは未発生のまま数週間が過ぎた。

 隠しルートは条件が異なる可能性も有るが、元がゲーム開始一週間『中庭の手入れ』を仕事に選択すると言うこのゲームにおいて無駄なだけの奇行であるのだ。

 少なくともそれと同レベルの奇行をしない限り発生しないだろうとローズは考えている。

 カナンとの通常ENDはカナンのメイドとして仕える事。

 即ちカナンの正妻の座は空いたままなのだ。


 今の所カナンに対する感情は、姉を差し置いて早々に結婚しやがった生意気な弟が、まだ『おっきくなったらお姉ちゃんと結婚する~』とカワイイ事を言っていた幼い頃の面影を重ねているだけに過ぎないので、特別な恋愛感情は抱いていない。

 しかしながら、成長し他のイケメン達に匹敵する程の美青年に成長したらその限りではないだろう。

 それを裏付けする様に覚醒イベント後のカナンの凛々しい態度はその片鱗が伺えるからだ。

 ローズはその『いつか』の日の為のキープが可能であるカナンとの通常ENDに対しては妥協の末になしよりの有りと思っている。

 それに留まらずあえて二人を後押しする事によって、副次効果として他のイケメンとのルートを潰す事さえ出来るのでは? と密かに計画を練っていた。


 野江 水流としての生来の優しさや思いやりは聖女アンネリーゼに匹敵すると周囲に思われているものの、こと恋愛に関してはこれまでの悲しい経験によって飢えた野獣そのものと言えるだろう。

 多少ゲスい計画ではあるが、これも野江 水流としての魂が持つ本質と言えるかもしれない。



「ねぇ、ローズ? 今この場には怖い怖いフレデリカも居ないよね。腹を割って話さないかい?」


 頭の中で更なるカナン通常END計画を練っていたローズに対して、不意にホランツがそう提案して来た。

 ローズはその言葉の意味が分からず首を傾げる。

 腹を割ってと言うのもよく分からないが、フレデリカが怖い? 何故ホランツはそんな事を言うのだろうか?

 彼女の真の姿を知らないローズには何の事か分からなかった。


 『そう言えばさっきもホランツ様はそんな事を言っていたわね? フレデリカが怖いなんて、ゲーム内にはそんな展開は無かったと思うんだけど……。いや、確かにフレデリカの『三分間愚痴絶叫イベント』は鬼気迫る物が有ったんだけど……とは言え、あれはエレナに対して言ったのであってホランツ様は知らない筈よねぇ? もしかしてエレナに愚痴る前にホランツ様にも愚痴った事が有るのかしら?』


 ローズとしての過去を思い出したからと言って、フレデリカは有能なお助けキャラと言う認識のままである。

 それは仕方が無い事であり、傾国の元凶などと言う過去を知っている者はこの国でも一部の者だけであるのだから。

 この屋敷でもバルモアと執事長のみであり、他の使用人達は少々性格に問題が有るが故に、知識豊富で有能であるにも拘らず悪女のメイドに宛がわれていたと言う認識だった。


 ローズはホランツにフレデリカが怖い理由を聞いてみたい気持ちは有るものの、想像通り『三分間愚痴絶叫イベント』だった場合、ゲーム時はエレナ視点だから笑えたがローズとなった今、過去に語った愚痴とは言え落ち込みそうだと言う思いから聞くのを止めた。

 だからホランツに尋ねるのはもう一つの疑問である。


「腹を割ってと言うのはなんだか穏やかじゃありませんこと? 一体なんでしょうか?」


「う~んとね、簡単な事さ。ねぇローズ、今からでも以前のキミに戻る気無い?」


 一瞬ホランツが何を言っているのか分からなかった。

 『以前のキミに戻る気無い?』

 その以前と言うのは、何を指しているのだろう?

 ローズは首を捻る。


「あの……以前の私……ですか?」


「そう、良い子ちゃんのローズもとーーっても素敵なんだけど、悪い子のキミは今よりもっとセクシーで大好きだったんだよ。そのローズに戻らないかって事さ」


「え? えぇぇーーー!」


 ローズは思ってもみなかったホランツの言葉に驚きの声を上げた。

 だがそう言えばと、ローズは今までのホランツの言葉を思い出す。

 前世の記憶に目覚めてから、褒められはすれど以前の方が良かったなど言われた事が無い。

 そう、ホランツ以外には。

 彼は記憶に目覚めたその日から、遠回しでは有るものの悪役令嬢であるローズの方が良かったと言っていた。

 悠々自適の三男坊と言う立場からの無責任な冗談かと思っていたが、今彼が自身に向けている眼差しは少しばかり真剣な物であるようだ。

 ただの自分の趣味を押し付けようとしているには何処か違和感が有る。

 そう言えば、昨日の陛下もまるで悪役令嬢のままでいて欲しかったとも取れる尋問をして来たではないのか? とローズは思い出した。

 陛下とホランツが同じ理由で聞いて来たのかは伺い知れないが、自分の知らない()()の事情が関係しているのか? それともシナリオの強制力によるものか?

 ローズは背筋に冷たいものが走るのを感じた。


「いや、意地悪になれって話じゃないんだ。ほら、こうもっと目付きを悪くしてニヤッとして高飛車な感じで。ローズはそう言うのが似合うと思うんだ」


 ホランツはローズの考えを察したのか、急に笑顔になったかと思うとまるで演技指導でもするかのようにそう言った。

 その目からもいつもの色男の物に戻っていた。

 そのいつもと同じ態度に、やはりさっきの言葉は自分の好みを押し付けようとしてただけなのだろうか? と、ローズは少しだけ安堵した。


「あ、あのホランツ様。私は以前の私に戻る気は有りませんの」


 ローズは国王やオーディックの前で誓った言葉を口にした。

 これからは今の自分がローズなのだ。

 だから悪役令嬢に戻るつもりは……。


 え?


 ローズは再度心の中で決意を新たにしようとしたが、ホランツの顔を見て唖然として言葉を失う。

 それはほんの一瞬だったが、ローズの目はその表情を逃さずに捉えた。

 ローズが『戻る気は有りません』と言ったその瞬間、彼は怒りとも哀しみとも取れる苦悩の表情を浮かべたのだ。

 最初に浮かんだのは『そこまで悪女フェチだったの?』と言う言葉だったが、そんな浅い考えでは浮かばない様なとても重い心の奥から放たれた真意の発露の様に感じた。

 いや、そこまでの重度のフェチなら言葉も無いが……。

 ローズはゴクリと唾を飲む。


「アハハハハ。ごめんごめん。いやいや最近目立ってるだろ? 巷でも皆今のローズの事を大好き大好きと言ってるからさ。その気持ちは分かるけど現金だと思わない? 結局ローズと言うキミ自身を見ていなかったって事だよ。四英雄と聖女の娘と言う自分達の理想をキミに重ねているだけなのさ」


 またもやローズの表情を察したのかホランツがそう言って来た。

 ローズはその言葉に共感を覚えた。

 確かにそうかもしれない。

 ゲームを通してローズと言う分かりやすい悪役キャラを客観的に見て来た自分だから分かるのかもしれないが、やる事成す事気持ち良いくらいにプラスに向いているのではないか?

 不良が一つ良い事をすると、普通の人の何倍も良い事したように取られる場合が有る。

 所謂ギャップ萌えと言う奴だ。

 だが、そんな簡単な言葉で説明出来る状況なのか? とも思う。

 実はゲーム内のローズもたまに気紛れで良い事をする場面が有ったのだが、それが悉く悪い結果となっていた。

 ギャグ調のグラフィックで面白おかしいざまぁ描写となっていたが、少なくともローズとなった現在はその様なざまぁイベントが発生した覚えが無い。

 何故か皆が皆良い方向に解釈してくれている。

 それはまるでゲームの中の……。



「あのさ、ローズ……。僕はね、そんな見てくれじゃなく、ずっとローズ自身だけを見ていたんだよ」


 不意にホランツがいつものふざけた口調を止め、真面目な声でそう呟いた。

 その声に驚いたローズは頭の中に浮かんでいた全てがぶっ飛んでしまう。

 真面目でありながらとても色気が有る声。

 そのセリフも野江 水流が妄想ノート(日記)に書き連ねていた『いつか彼氏に言われてみたいセリフ☆ベスト50』の第6位に輝く『ずっとキミだけを見て来た』そのままだったからだ。


「えぇ! ぇぇぇぇ、そ、そ、そんな、ずっと見て来ただなんて……」


 ローズは顔を真っ赤にして慌てふためいた。

 頭の中の脳内ローズ達が急なイケフェス準備で大わらわ。

 現在脳内野江 水流との人口比は完全に逆転しており、会場はほぼ金色で埋め尽くされていた。

 中には『こんな突発で会場設営依頼出されても、こちとらすぐに対応なんて出来るかってんだ!』と文句を言う職人気質なローズの姿もちらほら見受けられる。


 『これは告白? 告白なのね? まぁまぁまぁ! もしかしていつの間にか色男ホランツ様とのルート確立しちゃったの? きゃーー』


 夢に見たセリフに思考回路がマヒしたローズ。

 目をキラキラと輝かせてホランツの続く言葉を待つ。


「フフフ。……ローズ。僕だけのキミに戻っておくれ……」


 ホランツが更に色気を込めた声でそう囁く。

 今のセリフにローズは有頂天。


 『キャーーー!! 第3位頂きましたーーーー!!』


 どうやら今のセリフも言われてみたいセリフだったらしい。

 正確には『僕だけのキミになって欲しい』なのだが、今の彼女にとってその違いは誤差の様である。


「は……」


 恋愛モードになったローズは初めて直接的に好意を向けられた事が無い事も有り、その経験の無さから正常な思考など既に銀河の彼方に投げ捨てていた。

 要するに恋愛バカ状態なのである。

 様々な決意を元にこれから歩む姿を語った想いなどその脳内に微塵も残っておらず、目をハートにしたままホランツの言う『悪のローズ』に戻る事を了承する言葉を言おうとした。


 バンッ!!


「ちょーーーーと待ったぁぁーーーー!!」


「……い? いぃぃ?」


 『はい』と言おうとした瞬間、勢いよくラウンジの扉が開かれたかと思うと誰かが大声を出しながら乱入して来た所為で語尾が驚きの言葉に変った。

 慌てて扉の方に目を向けると、そこにはオーディックとシュナイザー、それにディノの姿があった。

 よく見ると後ろにフレデリカの姿も見える。

 皆顔を真っ赤にして肩で息を切らしていた。

 目付きからするとどうやら怒っているようである。


「ど、どうしたんですか皆さん?」


 その異様な迫力に押されてローズは理由を聞いた。

 いち早く呼吸を整えたオーディックが腕を組みホランツを睨みながら口を開く。


「おいおい、ホランツ! なに抜け駆けしようとしてんだ!! それに悪女に戻れだ? 冗談もほどほどにしやがれ!!」


「おやおや。誰も居ないと思ってたら聞き耳立ててたお邪魔虫がいたようだね。さすがフレデリカ抜け目がないや。いや~悪い悪い。抜け駆けするつもりじゃなかったんだけど、ローズの反応があまりにも可愛くてね。フフフちょっと調子乗っちゃったよ」


 オーッディックの怒声にホランツがいつもの口調で肩を竦める。

 そのやり取りでローズの思考が正常に戻りつつあった。


 『え? 今の冗談だったの? え? え? 乙女の純情を弄んだって事? ……いやちょっと待って? 抜け駆けするつもりじゃないって言う事は一応そう言う気は有るって事よね? それに可愛いですって? それにこのシチュエーションってば、まさしく少女漫画のヒロインを巡る対決っぽくない? きゃーーー!』


 あくまで戻りつつなので、まだまだ恋愛バカ状態から回復し切ってはいないようだ。

 だが、安易に悪のローズに戻ろうとした事だけは反省している。

 次同じ事を言われたら、今度は『今の私を好きになって下さい』と言おうと誓った。

 ちなみにこれは『いつか彼氏に言いたいセリフ☆ベスト50』の第7位だ。


「お前の言いたい事も分かるがよ。目立ったっていいじゃねぇか。俺達が守ってやればよ」


 続けてオーディックがホランツに向けて言う。

 ローズは『あら結構前から聞いていたのね。またダニアン達が見守ってくれてたのかしら?』と思いながら『俺達が守る』と言う言葉にキュンキュンしていた。

 その言葉に一瞬ホランツが身体を震わせた様に見えたが、顔はオーディック達に向けていた為、ローズからは伺い知る事は出来ない。

 だが、次の瞬間ホランツは「はぁ~」と大きい溜息を吐いた。


「はははは。そうだね。キミ達の言う通りだよ。……おっ? もうこんな時間か。そう言えば僕ってば午後から用事が有ったんだ」


 オーディックは壁に掛けられている時計を見ながらそう言った。

 そして立ち上がりローズにいつもの笑顔を向ける。


「ごめんよローズ。今日はこれで帰るね。あぁあと、さっきの事は気にしないで」


 ペコリとローズに頭を下げたホランツは、控えている使用人に手で合図すると差し出された上着を手に取り、そのまま入り口に向かって歩き出した。

 急な展開にいまだ思考が完全復帰していないローズは唖然とした表情でその後姿を見送った。


 入り口で立っていたオーディック達は歩いて来るホランツに道を譲る為に左右に分かれた。

 そして、その目で監視する様にホランツを追う。

 すれ違う間際ホランツはオーディック達だけに聞こえる小さい呟きを残しそのまま去って行った。


 「……お前達のその無責任な騎士道精神には虫唾が走る……」


 この言葉をオーディック達は無言で受け取る。

 勿論ローズに気付かれない様に表情一つ変えずに……。


書き上がり次第投稿します。


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