メンタルを病んだ主人公が、理想の社会について考察をする。
変わり果てた旧友が私の前を歩く。
彼も私のことを追い越そうとするのだ。
負けじと私も頑張る。
それはまるで、神にも見捨てられたレースの
如くだ。
第1章 夏
本当に自分は「今」を生きているのか―。
白の睡眠薬を口に含み、白の夢を見て、白の朝を迎える。
そして白のワイシャツを着て、会社へ向かう。
息がつまる満員電車。
駅を降りると、その会社が見えてきた。
会社は太い通りに面していた。そのまたいではいけないような境界線をなんとかわたり切り、エレベータに乗り込んだ。
五倉公一26歳。この会社に入社して3年が経った。ルーチンワークは一通りマスターはしていた、できた。ただ、自分がこの会社で具体的に何ができるのか、将来何がしたいのか考えたことすらなかった。
つまり―彼は「今」を生きるだけで精一杯だったのだ。「今」を生きているのか、
と自分に問うこと自体失当な問答なのである。
しかし、彼にはかつて、「今」を生きることすら過酷な時があった。今は落ち着いているものの、彼は学生時代に精神的な病気に罹患していたのである。彼は今でも毎日精神安定剤を服用していた。飲まないと情緒が安定しないのである。薬によって制御された彼の行動は、やはりどこかぎこちなかった。