まずは湯浴みから
部屋の扉をくぐると、左隣の部屋へ繋がるもう一つの扉をコク自ら開けて立ち止まる
「ちょっと、さっき言ってた夜のお勤めって何よ!!」
誰も居なくなったことを確認してから叫ぶ
場所を選んだのはなかなかの大人の対応だったと思えた
「まずはこれから始めましょうか」
そう言いながらゆっくりと地に足が着いて見渡すと黒の大理石でできた円形のプールのようなものがあり、その中央には噴水が備え付けられていた
よく見ると、バラの花びらが浮かび
部屋中に良い香りを広めてくれている
張られているのは水ではなく紛れもなくお湯だ
「お風呂」
膝丈くらいのふちに腰掛けてを入れると、日本人大好きな まさにお風呂そのもの
同じように隣で湯に触れるコクが
「湯浴みから始めましょうか我が最愛の花嫁」
肩の紐は細く、リボン結びで止まっていたはずなのに簡単にほどかれる
片方外されたところでもう片方は死守しようとコクのてを勢いよく払いのけた
「な、何言ってるの湯浴みからって、当たり前みたいにほどかないでよ」
「何か問題でもありましたか」
払いのけられた手が何かいけないことでもしたのかと、眉間にシワを寄せている
「当たり前でしょ、今まで彼氏が居たこともないのにお風呂一緒に入るってこと?むり無理ムリー」
「しかしもう名の契りを終えたので、私達は夫婦と認められたので問題ないかと」
いまだに眉間のシワは取れないまま
「それにその服は、脱がせやすく白い肌に合うものとメイドに言いつけて私が選びましたから」
外された肩紐を結び直しながら(脱がせやすく)というところに反応してしまった
「脱がせやすくなくていいから、たとえ夫婦になっても、心の中準備も何もなくどんどん推し進めるのはどうかと思いますけどねぇ、旦那様!!」
恥ずかしさと強引さへの限界から敬語で怒りを表す女性の凄みは、大の大人の男性も圧倒される。それは彼も例外ではなかったようだ
「わ、わかりました、これ以上嫌われるのも怒られるのも耐えられないので、今日のところはお一人で湯浴みを楽しんでください」
両手を前に出してお手上げのポーズで諦めたのか
渋々部屋から出て行くコクの背中は
さっきの大広間での凛々しさが嘘のように哀愁漂っている
ひとりになった静けさが部屋を支配する
白いシルクのワンピースと下着を脱ぎお風呂に続く三段ほどの階段を上がり湯船に足を浸していく
そういえば若返った自分の姿を思い出し、水面に映る顔と腕や脚に触れる
水を弾く肌質からして10代のものだと推測
(ピッチピチー)
脳内発言は若くない
バラの香りに包まれて、のんびりお風呂を堪能しているとドアをノックする音が聞こえた
またコクが来たのかと慌てて何かで隠そうにも脱ぎ捨てた服しかない、そういえばタオル一枚置いてない
「王妃様、タオルをお持ちしました」
とナイスタイミングの女性の声が聞こえた。おそらくメイドだと思い
「はい、お願いします!」
私の返事を待って開かれたドアから、予想通りメイドが2名入ってきた
自分の呼び名が、主やら花嫁やら妃、ついには王妃になって、どれが正しいのかは後回しで2人のメイドが持ってきたシャンプーらしき入れ物にありがたみを感じる
「頭洗いたかったんだよね、それ使っていいんですか」
これは私達の仕事なのでと湯船に浸かったまま頭だけ倒された
美容室とまでは言わなくても、2人がかりのシャンプーは極楽で至福の時を味わってしまった
「あの、2人はおいくつなんですか?できれば名前も教えてください」
頭の左側から
「キューラと申します、17歳になりました」
右側から
「サラフィーと申します、18歳でございます
それと、私達に敬語は不要でございます王妃様」
どこかで聞いたようなセリフだったけど、じぶんも敬語を使われる程偉いわけではない
「キューラちゃんにサラフィーちゃん、私も敬語は慣れないから普通に話してよ」
恐れ多いと断る2人に、なら今みたいに3人の時だけでもとゴリ押しで納得させ
「ねぇ、コクってそんなに偉いの?」
なんて聞くんじゃなかったと後で後悔することになる