花嫁としての夜のお勤めとは
ロウ……もうコクと宣言している彼が国王やら獣王と言ったことは、もうすでにスルーしている自分がいるのには
空腹が限界になったのが原因だった
めまいがしそうになる程の空腹なんて今まで感じたこともなかった
へたり込みそうになる私の手を引いて、またお姫様抱っこすると
コクが階段を下り、食べ物が並んだテーブルまで連れて行ってくれた
途中すれ違った人々が
「おめでとうございます」
「更なる繁栄を、お妃様」
「獣王の花嫁に祝福を」
などのお祝いの言葉をかけてくれたが、私の目はもう料理しか見ていない
「我が花嫁は空腹を我慢して名の契りをしてくれていたんでしたね、たくさん食べてください
足りなければ後で部屋にも持ってこさせますので」
私をそっと降ろすと、耳元まで口を寄せて囁かれる
「食べて良いの、この料理!!」
こちらに来て一番のテンションで料理を見渡した
明らかに高そうなお肉が並ぶテーブルや
新鮮な野菜は、サラダや焼いたもの煮込んだもの
もあり、香りだけでも美味しい
もちろんデザートもたくさんあったが、やはりお肉をお皿に盛りフルーツソースをかけて口に運ぶ
とろけるように広がる肉汁が口の中に広がると
思わず幸せでにやけてしまうのは仕方がない
一口目を飲み込んで二口目を食べようとすると
周りの視線を一身に浴びていた
ビュッフェ形式のテーブルで、今料理を堪能しているのが自分だけだと隣に立つコクを見るが
ただ笑っているだけで何も言わない
「ねぇコク、コクも食べようよ。ひとりは恥ずかしいし他の人たちも一緒に、ね?」
特に甘えた声で言ったわけではないし、そんな女性のテクニックは持ち合わせていないが
コクにしてみればそれでも十分だと言わんばかりに笑顔が溢れる
「わかりました、花嫁からのお願いとなれば聞かない訳にはいきませんね、ぜひ皆と料理を堪能しましょう」
二人の会話を聞いていた人たちが料理を皿に取る姿があちこちで見えたので私も遠慮なくお肉やお野菜にスープ、もちろん別腹デザートも食べ終わる頃には、お酒で頬を赤らめる姿もちらほら見られた
料理を食べている私の横には常にコクがいたので
お祝いの言葉だけではなく
彼目当ての女性も近寄ってきては、恐れ多いと
声もかけずに離れて行くのも何度か見かけた
「コクってモテるんだね」
食欲を満たして膨らんだお腹が重くなると
壁際に設置してあるベルベット生地のソファーに座ろうと、一歩前へ踏み出した私を
当然運ぶのは自分の役目とばかりに抱き上げたコクはソファーとは違う自分の玉座へと戻った
コクの膝の上から部屋を見渡せば、ダンスをする人
お酒を飲む人、料理やお喋りを楽しむ人々がよく見える
玉座に戻った主人にすかさず近寄り、メイド姿の17歳くらいの少女が新しいワインのグラスを渡す
少し頰を赤らめて下がる姿がまさに恋する女の子だ
「先ほども言いましたが、私にはあなただけですよ」
赤ワインを右手に持ち、左手は座った時から私の腰に巻きついてる
「他の女性が私をどう思おうと関係ありません
それより、そろそろ部屋へ戻りましょうか」
ワインを一口飲み腰に巻きつた左手にキュッと力を込めたのを感じると、コクがさっきとは違う甘い表情をしている
確かに満たされたお腹が眠気を誘っているのは事実
「戻っても平気、こんなに人が居るのに」
既に出口まで運ばれながら聞くのも何だが念のため
「もちろんですよ、この後は花嫁としての夜のお勤めが待っているんですから」
部屋の中の人たちも、扉を開けてくれた二人も
深々と礼をしながら私たちを見送るのとは別で
さっきまでの眠気が吹き飛ぶ発言が耳に届いて
動揺する私を無視して、部屋までの道を颯爽と歩くコクの腕の中
(夜のお勤めってなんですか―)と叫びたくなる衝動を必死に押さえ込んでいた