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実力行使させていただきます

実力行使させていただきます

「私の世界はこことは違う空間に存在し

私は主であるあなたをお迎えに上がりました」


伏せていた体をいつの間にか持ち上げ(お座り)の姿勢にした獣は

ますます疑問符を持つ返答を私に返した


「違う空間?お迎え?いやいやその前に主になった覚えはありません」


少し口角を上げたように見える獣から、穏やかに言葉が出る


「我々の世界は、主を迎えに行く年齢になるとこの世界への扉が開かれ

ツガイとなる主を迎えに行く風習があります

主となる花嫁は、生まれながらに魂で繋がっているので、扉はその花嫁の前まで連れて行ってくれます」


「それが私を主と呼んだ理由ですか、というか

花嫁…ツガイってどういうことですか」


「ツガイとは、動物の雄と雌が」

「いや、そういう意味ではなくて、私のは人間であなたは……何ですか」


改めて見るその大きさは、昔飼ってたラブラドールより1メートルは更に大きく

夜風になびく黒毛は、かすかな月明かりの下で光沢を増していた


知らず知らずのうちに伸びていた右手は、柔らかな獣の首元に触れた


我に返り引き戻した右手には、まだそのしなやかな黒毛の感触が残っている


(もっと触りたい)

顔に出てたのか、グイと頭を突き出す獣が


「どうぞ、いくらでも触れてください

あなたは私の主であり花嫁、この身にに触れて良い唯一の存在です」


そっと伸ばした右手には、もう恐怖なく

ただただ触りたいという欲求しかなかった


頬に触れ、やがて高級な毛布のように暖かな左耳へと到達すると


(ケモ耳ぃー)と思うのと比例して

きっとだらしのない顔になっているだろうと想像はできた


「ふわふわぁー」


空気とも呼べる気の抜けた覇気のない感想


右手でひたすらにケモ耳を撫でていると


「あ、主、撫でるのも触れるのも構いませぬが

そろそろ私の世界へと共に行ってはくれませんか」


はっと現実に引き戻された

そういえば、花嫁とかなんとか言ってたと思い出し


「あの、私人間ですが」

全くひねりのないことを言うものだと少し反省し

ツヤツヤなケモ耳から手を離した


「それが何か問題でも」


「へ、人間と獣でも結婚できるんですか」

自分を(獣)と言われたことに多少の違和感があるのか、頭を上げた口元がヒクらと動いた


「確かに今はこの姿ですが、我々の世界では

人型本来の姿に戻れますのでツガイになる上でも問題ないと思いますが」


へー、人型になれるのか…というか、ご丁寧にツガイになると時の疑問まで聞いてもいないのに

解決させられた


「と言われてましても、明日も会社はありますし

このあと家に帰って冷えたビールでひとりでくつろぐつもりなのでお断りします」


色気はない、別にひとりが寂しいわけでもないが

だからといって現実逃避的に

はいそうですかと、名前も知らない喋る獣の言う通りにしようとは思えなかった


まさか断られるとは考えてすらいなかったのか

立ち上がり、体についた砂埃を払っている私の進路を塞ぐように獣がむくりと4本足で立ち上がった


「主、もしも本当に断ると仰るなら

こちらも実力行使させて頂くことになります」


実力行使…穏やかではないその発言に

もう私の顔は引きつっている


「な、何をするつもりですか!まさか咬み殺すとか…」


私の言葉が悲鳴に変わりそうになったのが先か

獣が動いたのが先か

それからは記憶もほぼ曖昧だった


獣の頭が私の足の下を通ったかと思うと

ふわふわな毛皮の背中に乗せられ

踵を返した先に、黒く渦巻く霧が見えたと思うと同時に、ヒヤリと冷たい外気が全身を包んだ


覚えているとすればそこまでだった


目を覚まして一番最初に目に映ったのは、白く高い天井に描かれた何かの紋章だった

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