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お義母は誰よりも最強?

三階の部屋から一階の庭を一望できる部屋まで移動し


「遅くなりました父上、母上」


指定席になりつつある腕の中から歩みを止めて会釈する夫であるコクとその相手を交互に見ると、なんだかこの姿が恥ずかしくなり、ジタバタしてなんとか下ろしてもらった。


「おぉ、おぉ、待っていたぞ我が息子とそなたが息子のお相手か」


ふぉっふぉっふぉと豪快に笑いながら、少しメタボ気味のお腹とひときわ大きな体格、コクと同じ黒い毛は少しうねうねしていて、肩下まで伸びている

頭上に輝く王冠と、絵本で見たようないかにも王様なマントには色とりどりの宝石と紋章、つる草が上品とは言えない形で散りばめられている


「作用でございます、先王様」

二人の間に入り、私の紹介をしてくれるのはコウモリのドゥリーだが、目を疑ったのはその姿だった


さっきまでのコウモリ特有の翼も耳も目もなく、身長こそ158センチの私より少し高いくらいだが、人間の姿に変化し、七三分けの濃い茶色の髪は整髪料できちんとセットされている

口を開けてあからさまなあんぐり顔の私を「コホン」なんてわざとらしい咳でたしなめて、先王に向き直る


(確かにみんな人の姿でドゥリーだけ違ったのには、聞いてはいけない事情があるのだろうと察していた私の気遣い返してよ!)


「新国王コク様のお妃様、桜様にございます」


…………せっかく胸を張って先王に向きかけた体をまたドゥリーに向けたのは、誰にも言ったはずのない自分の名前をたった今聞いたからだ


「なんで名前……」

知っているのと続ける前に横から別の声が遮る

「だがら言っただろうお前しか居ないと」


振り向いて微笑するのは昨夜名の契りにより自分の夫になった相手

「オレ達は魂で繋がっている、お前があちらの世界に生を受け、オレが迎えに行くまでのことは何でも知っている」


そう言って更に口元を緩める彼を微笑ましく見ていた女性が声をかける

「桜さんはじめまして、ロウ、いいぇコクの母親の水音みずねです」


ふわふわした腰まである栗色の髪に小花が髪飾りのようにあしらわれ、華奢な体は私より少し低く、まだ少女といっても過言ではなあと思うのは、歩くときですら弾むように軽やかで、淡い水色のドレスは肩にドレープが入り、足首からチラリとのぞかせる白いヒールには青い蝶のモチーフが縫い付けられ、ウエストに巻かれた腰紐は横で花の形に結ばれている

「まさかあなたがあんな風に笑うなんて思わなかったわ、よっぽど桜さんのことが好きなのね」


開け放たれたバルコニーから少し暖かな風邪か吹き、木の葉が擦れる音が耳をくすぐる


金色猫足が付いた楕円のテーブルは彼女のイメージにぴったりなファンシーさがある


両手を胸の前で合わせ、息子の成長を見守る母親と言うよりは尊いものでも見るかのようにこちらを見ている


大きなダイニングには、花の香りの紅茶と

手作りらしいクッキーが並べられ、4人が自然とティータイムへと誘われる


「やめてください母上、どんな表情かは知りませんが妻に向けるのと普段と同じな訳がないでしょう」


紅茶に口をつけ、眉間のシワを更に深くして母親の言葉を忘れたそうにしている


「だって常に無表情の黒の獣王の笑う姿なんて滅多に見られないじゃない」


からかうように笑う母親には勝てそうもない


「あの、無表情って誰がです?」

素直な疑問だった、もしそれがコクのことならば私が見ていたのは幻か、昨夜から何度笑いかけられたか数えられない

まぁ、上品な指先を口元に指先を添えて笑われてしまったのでやはり彼のことなのかと紅茶を持ち上げひとくち口に含み横のコクを横目で伺う


「確かに息子があんなにも柔らかな表情で笑えるとは、ワシも思わなかったわぃ、お前達もそう思うだろう」

先王の豪快な大声に答えるように後ろに立つドゥリー、サラフィー、キューラが無言で頷いている


「いつも無表情で無言で淡々と執務をこなす息子なんて面白みもないわ」

クッキーに手を伸ばしながら少しむくれた表情のお義母様はやはり少女のようにしか見えない


コクの年齢から有に千歳は貸していることを考えると、驚愕である


私の視線を感じで

「よろしければどうぞ、私が焼いたのよ」

と差し出されたクッキーは懐かしい香りがした


「桜の花のクッキーよ、作り方はこちらに来て教わったわ、私の時代にはないお菓子だったから。お名前を知ってからいつかお会いする日に焼きたいと思っていたの」


私の時代?一枚受け取り桜の花なんてなぜ知っているのかと聞く前に


「私もあちらから来たから、その時ちょうど実家にと買った鉢植えの桜を持っていて、それもいっしょにまだ来てしまったか、王宮の庭に植えたのよ、今ではとても見事な桜の花を咲かせてくれるから、来年は一緒に見ましょうね」

とにこやかにクッキーを口に運んでいる


そうか、そうして二人は結ばれたのかと感慨深く懐かしい味のクッキーを食べ美味しいとお義母様に尊敬の眼差しを向けた私に


「ところで新婚旅行の希望はあるかしら?」

と急な話題に部屋中の視線を集めても、一切気に止めずに微笑むこのお方には、きっとどんな王様でも勝てないのではないだろうかと苦笑するしかなかった

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