08 親友との楽しい一時*
書き直し済
王城から街に戻った。
未だに信じられないが、腰の革袋に入った金属板の重みがそれが事実であったことを示している。この金属板は王城に入るために必要なものらしい。大きさはそこまでだが、今の私にとってはズッシリとした重みがある。
日が真上を超えて、お腹も空いているため、適当なお店に入ることにした。
いつもは入らないような王城に近い比較的お高めのお店に入った。今日くらいはいいだろう。そう思いながら席につくと、一気に緊張が解れた感じがした。
「ご注文はお決まりですか?」
その声とともにゴトッという音が机の上から聞こえ、視線を向けると透明なガラスに入ったお水が入っていた。
「あの、まだ頼んでいないと思うんですけど……」
「あ、こちらはサービスというものです。普通のお水ですので安心して飲んでください。おかわりもありますのであちらからどうぞ」
「は、はい」
そう言って笑顔を向ける店員さんの指す方には、大きめのガラスに入ったお水が置いてあった。
「それでは、ご注文はいかがいたしますか?」
「えぇっと……」
私は急いで机に置かれた、お品書きと書かれた紙を見てみるが……色々あるなぁ。
「おすすめ……みたいなのはありますか?」
「はい。こちらのスープが今の時期はおすすめですよ」
「じゃあ、それでお願いします」
「はい。かしこまりました」
そう言うと店員さんは奥へ戻っていった。
机に置かれてあった”さーびす”のお水を一口飲むと、口の中が潤う。当たり前だけど、それだけ緊張していたんだなと思う。何度目かわからないけど……。
ようやく周りを見渡せるくらいの余裕ができた。
私以外にもお客さんはいた。それも殆どが身なりもよく私のような人は居るものの極少数。
しばらくして、注文した料理が来た。すごく美味しかった。塩気も丁度よかったし、お肉も柔らかくて想像以上!
大満足の一時だった。
「時々、こういう贅沢をしても良かったのかなぁ~」
こっちの方には来たことなかったし、もっと色々行ってれば美味しいお店とかあったのかな。
と、呑気な事を考えながら宿に戻った。言われたとおりに荷物等を王城にあるという私の部屋に運ぶためである。
……が。部屋を見渡しても私物というもの自体が殆ど無いということに改めて気がついた。何なら、明日にでも王城の方で働けるまである。
けど、気掛かりもあった。
それは友人のミルのことである。少なくとも私は友人だと思っている。毎日とはいかないまでも、一週間の半分くらいはミルと狩りに赴いている。そんな彼女に、この事は話さなくてはならない。
今までのお礼も込めて、そしていつか会えるその日までの気持ちを込めて話し合いたいと思っている。
翌日。
「と、いうことなの」
「……」
目の前に座るミルは真剣な表情で私の話を聞いてくれた。そして、私が話し終えミルは一口お茶を口にした。
今日は二人で狩りに行く日であったが、私が無理を言ってこうして時間を取ってもらった。
「アレルは、もう決めてるんでしょ?」
「……うん。頑張りたいと思ってる」
多分、ミルが否定したとしても私は行くだろう。だからこれは、ミルが私を後押ししてくれるか。
正直言って只の自己満足だというのは間違いではないかもしれないが、ミルが私のことをどう思ってくれていたのか。それが知りたかったのかもしれない。
「そう」
ミルは短くそう言った。
けど、これは納得の意味を含んでいると、私は知っている。だから次に言ってくれる言葉は――
「頑張ってね、アレル!」
私はその言葉に安心した。
「ありがとう。ミル!」
「ちょっと、泣くようなこと!?」
「ご、ごめんね」
「もう! 友人の、親友の門出なんだから応援するに決まってるじゃん!」
「っ!……ありがとう!!」
そう言われて自然と涙が溢れる。泣かないと思っていたけど、実際に言われるとそんな事はなかった。
「全く……それでいつ、お仕事が始まるの?」
「28日にはもう始まっちゃうらしい」
「なんだ! そんなに時間あるんだったら、残りの時間一杯楽しもうよ!」
「え、でも……」
「ほら! お城でのお仕事だったら外になんて滅多に出られないだろうし、あると便利そうな物とか買っておいたほうがいいでしょ?」
「そうだね、分かった!」
そして、それからは今まで行ったことがなかった場所に行ってみたり。これまで買ったことなかった装飾品を買ったり、今まで食べようか悩んでいた食べ物を食べたりと、残りの時間を目一杯楽しんだ。これが今生の別れだと私達は思っていない。けど、何があるか分からないというのも、また事実であり、考えなくてはいけないことである。
28日になり。そこまで多くない荷物を持って、これからの職場となる王城へと赴いた。