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錬金術師さんと戦闘ゴーレム

…………………


 ──錬金術師さんと戦闘ゴーレム



「レーズィさん、レーズィさん。行商人の人がひっきりなしに来てますよ。一緒に覗いてみませんか?」


 ボクが倉庫を覗き込むとレーズィさんがゴーレムを前に立っていた。


「レーズィさん?」


「ふふふ、ふふふ。ついに完成ですよう。これぞレーズィ式魔道ゴーレム3号!」


 レーズィさんに話しかけるのだが、レーズィさんはまるで聞いておらず、何やら嬉しそうに片手を抱えて飛び跳ねていた。


「レーズィさん?」


「あ。失礼しましたよう。あまりの喜びに我を忘れていましたから」


 ようやく気付いてくれた。


「レーズィさん。レーズィ式魔道ゴーレム3号って?」


「これですよう! コアの周囲に緩衝材を詰め込んで、転倒したり、激しい衝撃を受けてもコアが壊れなくなったものです! これならば戦闘に使うこともできるようになりますよう! まさに大発明です!」


 ボクが尋ねるのにレーズィさんがガッツポーズしてそう告げた。


「ゴーレムを戦闘に使うんですか?」


「そうですよう。今のところ複雑な行動はできませんけど、魔獣を認識して攻撃するぐらいのことはできますよう。これで冒険者の仕事もはかどるに違いありません!」


「うーん……」


 レーズィさんはそう語るのだが、ボクには腑に落ちない点がいくつか。


「レーズィさん。このゴーレムって1体いくらぐらいです?」


「そうですねえ。緩衝材なども使いましたので、1体40万マルク程度でしょうか」


 レーズィさんは首を傾げるとそう告げる、


「レーズィさん。そんなに高いもの冒険者の人は買えないですよ。40万マルクもするゴーレムを魔狼の攻撃なんかで失った日には破産です」


「そ、それはそうですけれど、冒険が便利になると考えれば……」


「それも2日動かすのに上級魔力回復ポーションが必要なんですよね。そうとうクエスト報酬がいいものでない限り、赤字になりますよ」


「しょぼん……」


 ボクが指摘するのにレーズィさんがしょんぼりしてしまった。


「今まで通り、工事用のゴーレムを作りましょう? レーズィさんのゴーレムは戦闘に使うのにはお高いですよ」


「うう。汚い、危険、きついの三重苦である冒険者稼業をゴーレムに任せることができれば、また一歩労働のない世界に向かうはずだったのですがあ……」


 いやいや。冒険者の人も今仕事がなくなったら困ると思うよ。


「レーズィ君、リーゼ君。どうかしたのか?」


「いえ。レーズィさんが戦闘用ゴーレムを作ったとかで眺めていたところなんですよ」


 そんなことをしていたらヒビキさんがボクたちの様子を見にやってきた。


「戦闘用ゴーレム? 些か物騒だな」


「そんなことないですよう。魔獣だけを的確に排除してくれるんですから」


 ヒビキさんが顎を抑えて告げるのに、レーズィが必死にそう返す。


「魔獣だけを確実に識別できるのか? 間違って人間を攻撃するようなことは?」


「確実に識別できますよう。人間を攻撃することなんてないですから」


 うーむ。そもそもゴーレムはどのようにして魔獣とそうでないものを識別しているのだろうか。謎だ。


「しかし、このゴーレムは非常に高価だったのでは?」


「そうなんです……。1体40万マルクで、冒険者の方のお供にするのは難しいだろうとリーゼさんに指摘されてしまってえ……」


「40万マルクか……。確かに人間の代わりにするには些か高いな」


 ヒビキさんもレーズィさんから話を聞いて、呻きながら頷く。


「だが、レーズィ君がせっかく作ったゴーレムだ。一度、実戦デビューさせてみてはどうだろうか? これから冒険者ギルドで依頼を受けるつもりだ。その際にゴーレムを随伴させてみてはどうだろう? 実際に使えるかどうか確かめるにはそれがいいだろう」


「そうですねえ! 試してみましょう!」


 そういうわけで、レーズィさんたちは戦闘用ゴーレムを実戦で運用してみることに。


 ボクもちょっと興味があるから同行させてもらおうかな?


…………………


…………………


 というわけで、ヒビキさんたちは冒険者ギルドで依頼を受けた。


 依頼の内容は山菜取りの代行。


 この春の温かくなってきた季節では美味しい山菜が採取できるのだ。冬が終わって、冬の間に眠っていた山菜が土の中から芽を出し、春の光を浴びて育って、美味しさを全身に蓄えているのである。


 もっともこの冬が終わった春は、越冬中に飢えた魔獣が外に出てきて、人間を襲うことがあるのでなかなか危険なのだ。だからクエスト内容も山菜採取の護衛ではなく、山菜採取の代行になっていた。


「おい。あれ見ろよ」


「あれって街道を作ってたゴーレムだろう? なんだってギルドに?」


 レーズィのゴーレムは冒険者ギルドで注目の的だった。良くも悪くもレーズィさんのゴーレムは目立つのだ。このヴァルトハウゼン村にごっついフルプレートアーマーを纏った人なんて滅多にいないからね。


「レーズィの嬢ちゃん。そのゴーレムは何に使うんだ?」


「戦闘ですよう。これからゴーレムの実戦テストを行うんです」


「ゴーレムが戦闘を? おいおい。古代のゴーレムならともかくレーズィの嬢ちゃんのゴーレムじゃあ戦闘は無理だろう」


 まあ、冒険者の人たちはレーズィさんの言うことをまともには受け取らなかった。レーズィさんのゴーレムじゃあ、道路の工事はできても、戦闘には使えないって思っているみたい。確かにボクとしても不安を感じるけどね。


「できますよう! 内部のコアは緩衝材でしっかり保護しましたし、完璧に稼働するはずなんですから!」


「そうかい、そうかい。実際に魔狼の1匹でも仕留められたら酒でも奢るよ」


 レーズィさんが告げるのに、冒険者の人たちはそう告げて笑った。


「もうっ! 行きましょう、ヒビキさん、ユーリさん、ミーナさん! レーズィ式魔道ゴーレム3号の活躍をご覧に入れて差し上げますよ!」


「うむ。行くとしよう」


 そんなわけでボクたちは山菜採取に出発!


「リーゼ君。生憎、俺たちはこの山のどのあたりに山菜があるのか分からない。案内してもらってもいいだろうか?」


「任せてください! ボクならちょちょいのちょいと見つけて採取してあげますよ!」


 ヒビキさんがそう告げるのに、ボクは自信満々にそう返した。


「まずはエルンストの山から始めましょう。というか、運がよければエルンストで全部採取できるはずですよ。もしなかったら、ラインハルトの山にまで行かなければいけなくなるかもしれないですけど」


 採取する山菜は4種類。どれもポピュラーなもので、群生地も把握できているものばかりだ。これはそこまで大変な作業にはならないだろう。


「では、出発ー!」


 ボクたちは意気揚々とエルンストの山に挑む。


 すっかり雪も解けてなくなり、小川には綺麗な雪解け水が流れている。太陽も暖かく、本当に春がやってきたんだなと実感させられる限りだ。


 これからはまた山の恵みにあずかって秋まで過ごすことになるだろう。いつまでも山の恵みに恵まれるといいけどな。ある地方では、伐採やら山火事やらで山が丸裸になってしまったということもあるから注意して欲しいよ。


「あっ。ここ、観光用の山道が出来上がってますね」


 エルンストの山を進むこと30分。ボクたちはエルンストの山にある屋上の展望台まで通じる観光用の山道を発見した。山道も位置が工夫されており、流れる小川や雄大なエルンストの山の森林を眺めて進めるようになっている。


「エルンストの山の観光はいつから始めるのだろうか?」


「春が来たから早速じゃないですか? エルンストの山の魔獣も山道の付近はほとんどいなくなりましたし」


「ふむ。そういえば山道に沿ってハティのフンを埋めていたな。あれは魔獣除けの効果があるのだろうか」


 そんなことしてたのか。ボクはてっきりエルンストの山に入って観光する人たちは、うちの店で魔獣除けポーションを買ってくれるのではないかとばかり。


 でも、みんな危ないのは嫌だろうし、一応魔獣除けポーションを買ってくれるよね。そうじゃないとせっかく観光地ができたのに、地元の経済が回らないなら意味がないよ!


「山の麓では山が見上げられる場所に新たに食堂を作るそうだ。この山菜取りのクエストもそのための準備かもしれないな」


「へー。そんなことが……」


 観光に来た人たちがヴァルトハウゼン村の美味しい作物と山菜でできた食事をしていってくれるなら、地元の経済も活性化するしいいこと尽くめだね。


「リーゼ君。ところで山菜は見つかっただろうか?」


「うーん。いくつかの群生地は回ってみたんですけど、まだですね。山の裏側まで回ってみましょうか。そこにならあるかもしれないです」


「シュトレッケンバッハの山に面した方か。行ってみよう」


 ボクたちはなかなか山菜が見つからなかったので山の裏側まで回ることに。


 山道がある山の村に面した方向と違って、シュトレッケンバッハの山に面した山の裏側は未だに魔獣の襲撃を受ける危険性がある場所だ。むしろ、山の表から追い払われた魔獣たちが屯して、人間を襲ってやろうと考えているのかもしれない。


 ボクたちはレーズィさんの戦闘用ゴーレムの実力を試してみたいということもあって、そのような危険地帯に魔獣除けポーションを使わずに踏み込んでいる。これでいつ襲われたっておかしくはないぞ……。


「あっ。あった、あった。ありましたよ、山菜。早速採取しますね」


「うむ。俺たちも手伝おう」


 そして、山の裏側に回ったところ早速山菜を発見した。


 ボクたちは山菜をせっせと採取する。これが美味しい料理になって村の食堂に並ぶ日が待ち遠しいよ。きっと外から来た人たちにも人気のメニューになるね。


「リーゼ君。そのままそこにいてくれ」


「え? まさか……」


「そのまさかだ。魔獣が近づいて来ている。魔狼らしい足音が複数だ」


 あわわ。案の定、魔獣に遭遇してしまった。


「ご安心を! ここはレーズィ式魔道ゴーレム3号がお相手しますよ!」


 レーズィさんはやる気満々にそう宣言し、戦闘用ゴーレムが長剣を構えてゆっくりと動く。その姿だけは頼り甲斐がありそうなのだが、実際のところはどうなのだろうか。


「レーズィ君。頼む」


「了解! <<速度上昇>>! <<速度低下>>!」


 ヒビキさんが告げるのにレーズィさんが青魔術で支援を。


「ミーナ君。次は君だ」


「お任せデス! <<氷柱雨>>!」


 そして、いつものようにミーナさんが赤魔術を叩き込む。


「オオオォォォッ!」


 そして、それらの攻撃を掻い潜って、魔狼がヒビキさんたちに迫る!


 レーズィさんの戦闘用ゴーレムは──。


「攻撃ですよう!」


 レーズィさんの命令で剣を振り上げ──。


 スカッと攻撃を外した。


 それからレーズィさんのゴーレムは魔狼に群がられ、手足を噛まれる。もちろんフルプレートアーマーであるレーズィさんのゴーレムにはひっかき傷ができるくらいだが、レーズィさんのゴーレムの攻撃はまるで当たらない……。


「レーズィの姉ちゃん。あれ、俺がやっちまっていい?」


「……お願いします」


 結局のところレーズィさんのゴーレムは1体の魔狼も倒すことなく、そのまま戦闘を終えた。レーズィさんの戦闘用ゴーレムは魔狼の噛み傷やひっかき傷だらけになって、未だに剣を構えているが、もう魔狼は存在しない。


「はああ……。いけると思ったのですが、現実は厳しいですよう」


 レーズィさんはがっくりと肩を下ろして、ボロボロになったゴーレムを眺める。


「でも、あれだけの攻撃に耐えたデス。あれなら遺跡探索の際の荷物を運んでもらうのに非常に役にたつデスよ。是非とも遺跡探索のときには、あのゴーレムを同行させてほしいところデス」


「そうですかっ!?」


 そんなレーズィさんをミーナさんがフォローするようにそう告げる。


 そうか。レーズィさんのゴーレムは攻撃は当たらないけれど頑丈なんだよね。それなら危険な魔獣が蠢くダンジョンで荷物持ちが任せられるし、10階層以上と言われているシュトレッケンバッハの山のダンジョンでも食料切れなどで地上に戻らなければならないということは避けられるかもしれない。


 けど、戦闘用ゴーレムを荷物運びに使うのはいいんだろうか……?


「レーズィ君の戦闘用ゴーレムの問題は反応速度だな。ゴーレムが組織的に行動できる場合、集団戦闘ならば使い道があるかもしれない。一斉に弓矢を放つことや、槍を構えて前進させるなどすれば、画期的な働きになるのではないか」


「うーん。あまり戦争の道具にはしたくないんですけどねえ。魔獣退治に使うならばいいんですけど、私のゴーレムが人を殺すというのは……。そのもそものゴーレム開発の経緯が人間を幸せにするためですからねえ」


「ふむ。そのような考えならばレーズィ君の考えを尊重しよう。科学者は時として戦争への橋梁を拒む権利がある」


 レーズィさんは本当に人間の幸せにことを考えているんだなー。


「レーズィさん、レーズィさん。それなら無理に戦闘用ゴーレムなんて作らなくていいじゃないですか。冒険者の人たちを助けるゴーレムを作った方がいいですよ。戦闘用ゴーレムなんて作ったらどうせ戦争に使われちゃいますよ」


「そうですねえ。ですが、それでは冒険者という人たちを労働から解放することが……。うーん。困りましたよう」


 レーズィさんは考え込んでしまった。


 しかし、戦争すらも全てゴーレムが行うようになったら、それはそれで平和なのではないかとも思える。ゴーレムは略奪したりしないしね。


 まあ、今のところ魔狼にも勝てないレーズィさんの戦闘ゴーレムなので、戦争で使うにはまだまだ改良が必要かな。魔狼ぐらいに余裕に勝てるようになって、初めて戦争に使えるんじゃないかな。魔狼に勝てなきゃ、ゴブリンにだって負けるだろうし。


 まあ、とりあえずのところ今日はレーズィさんのゴーレムの実戦試験は終わった。結果は依然として改良の余地あり。


 レーズィさんは戦闘用ゴーレムの開発は一時的に凍結し、これからダンジョン探索に向けて大量の荷物が運べるゴーレムの開発を行うそうだ。ミーナさんはダンジョンに潜り放題になると喜んでいた。


 でも、本当にこの世界から労働がなくなる日なんて来るのだろうか?


…………………

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