錬金術師さんと行商人
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──錬金術師さんと行商人
ついにヴァルトハウゼン村にも春が訪れた。
いつもなら雪解け水でぐずぐずになる道も今年はちゃんとしている。
そう、街道が完成しているのだ!
長らく待ちわびた街道がレーズィさんのゴーレムのおかげでようやく完成し、雪解け水でもびくともしない頑丈な街道になった。
この街道のおかげで今年はよりヴァルトハウゼン村が発展しそうだ!
「エステル師匠、エステル師匠。行商人の人とか来てくれますかね?」
「さあね。何か用事があればくるんじゃないかい。まあ、この村で売るものと言えばあたしたちの作るポーションか、農作物ぐらいだがね。そういうものを商う連中はこの村に来るんじゃないかね」
行商人の人が来たら、ボクたちのポーションを買ってくれるかな。行商人の人たちは珍しい品を扱っているかな。今からワクワクしてきて、楽しみでならないよ!
「リーゼ君。どうしたんだい?」
「ヒビキさん! 今年は街道が完成しているから、行商人の人が来てくれるかもって話をしていたんですよ!」
「行商人か。どのようなものなのだろうか」
ヒビキさんが玄関に出てきて尋ねるのに、ボクがそう告げて返した。
「ヒビキさんの世界には行商人の人はいなかったんですか?」
「ああ。買い物はもっぱらインターネット通販だった。普通の小売店もほとんど絶滅危惧種になっていたぐらいだ」
ボクの問いに、ヒビキさんがそう返す。
「インターネット通販? それってどんなものなんですか?」
「まずインターネット端末という遠くの人や組織とも簡単かつ迅速にコミュニケーションが取れる道具があって、それを使ってインターネット上に店舗を出している店から商品を注文して取り寄せるんだ。インターネットというのは説明が難しいが、もうひとつ世界が存在していると思ってもらっていいかもしれない」
「へー……」
なんだか壮大すぎて想像がつかないや。
「そのインターネットってお買い物だけに使うんですか?」
「いや。手紙のやり取りをしたり、会話をしたり、ゲームをしたり、映画を見たりといろいろとできることがある。むしろ今のインターネットでできないことの方が少ないな」
そんなに便利なのかインターネット。ボクも欲しくなってきたよ。
「インターネットってこの村にも作れます?」
「それは無理だろうな。この村だけでインターネットを作ってもあまり価値はないし、この世界の技術ではインターネットを構築するだけのことはできない」
「そうなんですか……。残念です……」
「何、地球ではインターネットに夢中になりすぎて中毒になる人々もいた。そういうことがないだけ、この世界は健全だ」
「とは言っても、ボクたちもインターネットが欲しいですよ」
羨ましいな、ヒビキさんの世界。
やっぱりそれだけ便利な世界だったからヒビキさんも帰りたいのかな? この世界はヒビキさんからすると酷く遅れているように見えているはずだ。そうなるとヒビキさんが元の世界に帰りたくなる理由も分かる。
でも、ヒビキさんはこの世界に留まれない理由に不便さを上げなかった。ただ軍人としての義務と祖国への忠誠を果たすために元の世界に帰らなくちゃいけないそうだ。
軍人ってつまりは騎士のような人たちのことだろうし、ヒビキさんも忠誠を誓った主君の下に帰らなくちゃいけないという気持ちがあるんだろう。騎士の人は忠誠心が第一だって言われているからね。
けど、ヒビキさんには帰って欲しくないよ……。ヒビキさんが来てくれて、毎日が楽しくなってきたのに。この村だってヒビキさんのおかげで発展したっていうのに。
「馬車の音がするな。早速お客さんが来たのかもしれないぞ」
「本当ですか! エステル師匠、ボク見てきます!」
ヒビキさんが告げるのに、ボクは駆けだした。
ボクが村の入り口に走っていくと、向こうから荷馬車がガタゴトとやってきていた。本当に行商人の人が来たみたい! やったね!
「こんにちは! ようこそ、ヴァルトハウゼン村へ!」
「やあ。こんにちは、お嬢さん。ここが噂のヴァルトハウゼン村かい。噂通り賑やかそうな村だねえ」
ボクが挨拶するのに荷馬車に乗っている行商人と思しき人が手を振って返した。
「ええ。ヴァルトハウゼン村はとっても賑やかな場所ですよ。あなたは行商人の人、ですか?」
「そうだよ。この村でポーション生産が盛んだと聞いてやってきたんだ。トールベルクの街には質のいいポーションをこの村から仕入れていると聞いたからね。錬金術師さんはこの村にいるのだろうか?」
「いますよ! ボクのうちがそうです!」
やったね! 最初の行商人の人はうちのポーションが目当てだ!
「それは、それは。ここで会ったのも何かの縁だろう。案内してもらっていいかい?」
「はい! こっちです!」
行商人の人が告げるのに、ボクが行商人の人を案内する。
荷馬車にはいろんな積み荷が乗っていて、ワクワクさせられる。ボクたちが上手い具合にポーションを売れたら、エステル師匠に頼んで何か買ってもらえるかな。
「エステル師匠ー! 行商人の人が来ましたよー!」
「うちに用かい?」
「ええ、ええ。ポーションを買い求めに来られたそうです」
ボクが告げるのにエステル師匠が煙管を吹かす。
「こんにちは、錬金術師の方。この村で良質のポーションが生産されていると聞いてやってきたのですが、どのようなポーションを扱っておられるでしょうか?」
「村に出回っているのは低級、中級ポーションだよ。体力回復、疲労回復、魔獣除けといろいろさ。どんなポーションが入用なんだい?」
行商人の人が馬車を下りて尋ねるのに、エステル師匠がそう返す。
「上級ポーションは扱っておられないんですか?」
「扱っているけど高いよ。行商人が手を出せる価格じゃないと思うが」
エステル師匠ってば商売する気あるのかな。
「そうですな。上級ポーションは値段の割に持て余しがちです。ですが、上級魔獣除けポーションは需要が高い。それは扱っていますか?」
「扱っているよ。まだ在庫があるはずだ。見てきな、馬鹿弟子」
エステル師匠がそう告げるのにボクは保存庫に駆けていく。
上級魔獣除けポーション、在庫あり!
「エステル師匠ー。まだ在庫ありますよー」
「ふむ。なら、他に欲しいものは?」
ボクが告げるのに、エステル師匠が行商人の人に尋ねる。
「体力回復ポーションと疲労回復ポーションをお願いしたい。低級、中級ともに。それからここには調味料になるポーションを扱ってると聞きましたが」
「ああ。あるよ。生鮮食品に保存を効かせるためのポーションだ」
おっ? ボクの発案したポーションも売れるのかな?
「では、それも。数はそれぞれ10個ずつで。いくらになります」
「そうだね。わざわざこの辺境まで来てくれたことを差し引いても、30万マルクかね」
「もう少し値引きできませんか? 25万マルク」
「いや。30万マルクだ」
そして始まる価格交渉。エステル師匠は言い値で売れるかな。
「この東方の珍しい蒸留酒をただでお譲りしますから20万マルク」
「ふうむ。なら、20万マルクでもいいよ。東方の酒ってのには興味があったんだ。どんな酒だい?」
「穀物を使ったとても度数の高い酒ですよ。火が付くとすら言われています」
「そいつはいいね。実に気に入った。これで決まりだ。馬鹿弟子、ポーションを持ってきな」
エステル師匠ってばまたお酒につられてるんだから―。
ボクはよいしょよいしょとポーションを箱に詰めると行商人の人に手渡した。
「ほう。綺麗に透き通った色をしている。これはいいポーションですね。わざわざ来た甲斐がありました。これからもどうぞよろしく」
「ああ。よろしくね。また酒を持ってきてくれ」
商談が成立して、行商人の人はポーションを荷馬車に載せて去っていった。
「ぶー。エステル師匠だけお酒買ってずるいですよ。ボクもいろいろ見たかったのに」
「どうせガラクタしか扱ってないさ」
エステル師匠はお酒買ったじゃん!
「リーゼ君。悲観することはないぞ。まだ馬車の音がする。行商人かは分からないが、お客は途絶えていないようだ」
「本当ですか!?」
ヒビキさんが言ったように、それから行商人の人が次々にヴァルトハウゼン村を訪れた。行商人の人はボクたちからポーションを仕入れてたり、農作物を仕入れたりして、村に新鮮な風を吹かせていった。
またボクたちも行商人の人から東方の珍しい食べ物や飲み物、そして本などを購入して、珍しいもので満たされた。幸せいっぱいである。
「また来てくださいねっ!」
「ああ。ここもいつの間にか立派な街道ができたことだし、寄らせてもらうよ」
行商人の人たちが来てくれたのもレーズィさんのおかげだね。感謝感謝。
「ところでレーズィさんは?」
「まだ倉庫でゴーレムを試験しているようだ」
肝心のレーズィさんはこの場に姿を見せていない。どうしたんだろ。
ちょっと様子を見てこようかな? レーズィさんも買い物したいかもしれないし!
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