表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

8/103

錬金術師さんと第一回素材集め

本日8回目の更新です。

…………………


 ──錬金術師さんと第一回素材集め



 ボクらが予想したようにレッドドラゴンの存在が消えて、魔狼などの低級モンスターが姿を見せ始めた。魔狼は既に家畜を襲い、討伐依頼がでている。


 それと同時にポーションの需要も高まった!


 冒険者の人たちのための体力回復ポーションや、農作業をする人たちのための魔獣除けポーション。そういうものの需要が高まり、注文が殺到し始めている。これは忙しい季節になりそうだ! 嬉しい悲鳴が出て来るよ!


「というわけで、素材の採取を手伝ってもらえますか、ヒビキさん?」


「ああ。構わない」


 ヒビキさんは行く当てがないので、ボクたちの店舗兼家に泊まっている。この村にある僅かな宿は冒険者でいっぱいだし、ヒビキさんにはレッドドラゴンから助けてもらったお礼をしなくちゃいけないからね!


「では、荷物を揃えたら出発しましょう!」


 とは言っても、荷物を揃える必要があるのはボクだけだ。ヒビキさんは前のまだら模様の服を洗濯して干していて、今は村で唯一の雑貨屋で買ったちょっとサイズがあってないシャツとズボンを身に着けている。


 まあ、ヒビキさんほどの体格なら何着ても似合うから羨ましいよね。ボクってばチビで幼児体形だから、エステル師匠のお古を貰ってもちっとも似合わないだもん。今は動きやすいキュロットスカートとブラウスだけど、これもボクがお裁縫して何とかサイズをボクに合わせたものなんだ。


 全く、チビなのも苦労するよ!


「じゃあ、今日はのシュトレッケンバッハ山に行きましょう。あそこでは魔獣除けポーションの材料にあるオニノスズの実が採れるんです」


「ふむ。それはラインハルトの山ではダメなのか?」


「ううーん。今、ラインハルトの山は魔獣がいろいろでますから」


 ラインハルトの山は山の主であったレッドドラゴンを失って混乱状態だ。下手をするとレッドドラゴンに出くわした時より面倒なことになるかもしれない。


「それは俺があの爬虫類を殺したためだろうか?」


「ええっと。理由としてはそれも確かにあります。あのレッドドラゴンは長らく山に君臨してましたから」


「そうか……。どうやらいたずらに自然の生態系を乱してしまったようだな」


 ボクが告げるのに、ヒビキさんがどんよりする。


 い、いつもは逞しい男性なんだけど、意外にナイーブ?


「大丈夫ですよ、気にしないでください。あのレッドドラゴンがいたとしてもいなかったとしても魔獣の被害はあったんですから。むしろ、ボクたち錬金術師や冒険者たちで対応できるようになっただけよかったと思わないと!」


「そういうものなのか」


「そういうものなのです」


 レッドドラゴンだって、いずれは死んでいた。それが老衰にせよ、ドラゴン同士の縄張りを巡る争いにせよ、ときたま訪れた凄腕の冒険者の手にせよ。


 ヒビキさんは偶然にボクのピンチに訪れて、レッドドラゴンを討伐してくれたのだ。感謝しさえすれど、文句を言う気にはならない。


「というわけで、前向きにいきましょう! 後ろ向きに考えたっていいことはひとつとしてありません! 前向きに今を生きるのです!」


「前向きに今を生きる、か」


 ボクが威勢良く告げたのに、ヒビキさんが笑った。


 ひどいや! 励まそうと思ったのに!


「失礼ですよ、ヒビキさん! ボクは君のためを思って──」


「いや。安心したんだ。今、こうしていていいという確約がもらえてな」


 うん? どうやらヒビキさんの笑いはボクを馬鹿にしたものではないようだ。それならいいか! 前向きに生きるって言ったばかりだしね!


「それじゃシュトレッケンバッハの山に向かいましょう! ボクたちのポーションを待っている人たちが大勢いますからね!」


「ああ。向かうとしよう」


 というわけで、ボクたちはラインハルトの山の隣に聳えるシュトレッケンバッハの山を目指した。日帰りで帰れると思うけれど、何かあっては困るのでエステル師匠に行き先を告げておく。


「好きにしておいで。こっちはそっちが持ち込んだ馬鹿みたいな量のレッドドラゴンの素材をどうにかしておくから」」


「お願いします!」


 エステル師匠も家の中がレッドドラゴンの素材だらけになったことにはうんざりしているようで、処理を買って出てくれた。エステル師匠が調合してくれるならきっといい薬ができるねっ!


「言っておくけど、ポーションに調合するのはお前だぞ、馬鹿弟子。こんなに素材を貯め込みおってからに……」


「申し訳ございません……」


 やっぱりエステル師匠はそんなに甘い人じゃなかったや。とほほ。


…………………


…………………


 というわけで、シュトレッケンバッハの山の山にボクとヒビキさんはやってきた。


「リーゼ君。ひとつ聞きたいのだが、冒険者ギルドを介さなくても冒険者というのは仕事をしていいものなのだろうか?」


「まあ、ある程度は。内職してる冒険者の人、見たことないですか?」


「……生憎、こっちにきて日が浅いからな……」


 不味い。ヒビキさんが内職をしなければならないのだろうかという顔をしている。


「ヒ、ヒビキさん? 別に冒険者の人がみんながみんな内職しているわけではないですからね?」


「それは分かっている。だが、稼がなくてはならないだろう?」


「こうしてお手伝いしてもらってるだけで、お金は発生しますから!」


 冒険者ギルドを介した仕事ではないけれど、ヒビキさんには標準的な素材集めの際の報酬を支払う予定だ。シュトレッケンバッハの山なら、多分3000マルク程度かな。魔獣除けポーションはとにかく原価を抑えることが必要なのだが、素材が採取で手に入るだけあって、原価はただみたいなもんだ。


 となると、まあ発生するのは人件費。ラインハルトの山ならレッドドラゴンの隙を狙って採取したりしていたが、シュトレッケンバッハの山なら魔狼やゴブリンが発生するので、冒険者の人たちを雇っていたので大して人件費にも変化なし。


 まあ、ヒビキさんを雇っても問題はないということです。


「君たちからお金を貰うのは些か……」


「いえいえ。これもお仕事ですから!」


 ヒビキさんはまだボクたちの店舗兼家に泊めてもらっていることをレッドドラゴン退治の報酬とは考えてくれないらしい。


 本当なら報酬は70万マルクだよ? ボクたちのボロ家──慎ましい家になら数十年は住める話だ。それに命を救ってもらったボクとしては自分の命に値段などつけようもない。ただ、言えるのはこの件でヒビキさんが恩を感じてるのはおかしいってことだ!


 うちのボロ家──慎ましい家で、適当な食事──清貧な食事をしているだけで、命を救ってくれて、レッドドラゴンまで討伐してくれるなら、誰彼構わず泊めてやるやい!


 あのレッドドラゴンの素材、エステル師匠はうんざりしてたけど、街に持ち込めばそれなりのお金になるしなあ。まあ、そのためには街に行かなければならないという手間がかかるのだけれど……。


 飛行船に乗せてもらうというのも手だろうけど、飛行船の移動って結構お金がかかるからな。早く、村まで繋がる街道が整備されれば行商人とかに売りつけられるのにー。


「しかし、このシュトレッケンバッハの山はまた奥地にあるんだな」


「ああ。ここら辺の地理を説明していませんでしたね。ヴァルトハウゼン村は3つの山に囲まれているんです。まずあのラインハルトの山があって、その横にエルンストの山があって、そのふたつの山の奥にシュトレッケンバッハの山があるんです」


「ふむ。となると、エルンストの山にもレッドドラゴンに準じた魔獣とやらがいると見たが、間違いないだろうか?」


「ええ。あそこにはとてつもなく大きな魔狼が潜んでいるって噂です」


 ボクたちのヴァルトハウゼン村は3つの山に隣接している。レッドドラゴンが縄張りとしてたラインハルトの山、ボクたちが今いるシュトレッケンバッハの山、そして謎の魔狼が潜むと噂のエルンストの山だ。


 全く、山ばっかりだからいつまで経っても街道ができないんだよ!


「噂? 見たものはいないのか?」


「今のところは噂だけです。遠吠えを聞いたとか、影を見たとかいう話はありますけれど誰も姿は目撃してないんですよ。もっとも、確かにエルンストの山にはゴブリンとかの低位の魔獣が出没しないから、誰かが狩ってるんでしょうけどね」


「ふうむ。謎の怪物、か」


 エルンストの山のお化け魔狼騒ぎは以前からあって、冒険者ギルドに捜索依頼も出されたんだけれど、誰も見つけることはできなかった。


 ただ、噂では通常の魔狼の10倍以上はある足跡を見つけたとか、住処らしき場所に大量のゴブリンの骨があったとか言われている。


 なんにせよ触らぬ神に祟りなしである。下手につついて本当にお化け魔狼がでてきたら村は大混乱になってしまう。


 今は頑張って村のイメージを上げようとしているところなのだ。それなのにお化け魔狼で治安が乱れることがあれば、村のイメージが下がってしまう!


 そうなると行商人の人も寄り付かないし、街道の建設も遅れる。悪いことばかりでちっともいいことはない!


 それにエルンストの山は見晴らしもいいので、観光地にしようって計画が開拓局で進んでいるのだ。それが台無しになるなんてことがあったら、この村は永遠に過疎地で開拓中の村のままである。


 せっかく空気も綺麗で、水も綺麗で、静かでいい場所なのに人知れず寂れていくなんてあんまりだ。いや、人が少ないからこそ静かなんだと思うけど。


 でも、いずれは観光客が訪れる立派な場所にしたいよね!


「さて、魔獣除けポーションを振りかけましょう。これで大抵の魔獣は寄ってくることはないはずですよ」


「なるほど。こうすればいいのか?」


「そうです、そうです。そんな感じで」


 ボクが魔獣除けポーションを衣類に振りかけるのに、ヒビキさんもボクに倣って同じように魔獣除けポーションを振りかけていく。これで低位の魔獣なんかは近づかないだろう。作業が捗るねっ!


「それで、採取するものは?」


「それはボクが判断するので安心していいですよ。オニノスズの実は似たような木の実があって、それは毒になるっていう素人では分かりにくい形状をしてますから。それにある程度は次の世代のためにとっておかないとですね」


「次の世代のため、か」


 ボクが告げるのにヒビキさんはちょっと視線を俯かせた。


「まあ、いい。君の身の安全は俺が守ろう。安心して作業してくれ」


「はい!」


 レッドドラゴンですら屠るヒビキさんに敵はないよ!


 ボクは心の底から安心しつつ、オニノスズの実の採取を行う。籠がいっぱいになればそれで十分だ。足りなかったらまた採取にくることにしよう。


「……リーゼ君。足音が近づいて来ている。かなりの巨体だ。人間はないと思うが、どう対処するべきだ?」


 えっ? ボクには何も聞こえなかったけれど……。


「一応魔獣除けポーションを使っているので、低位の魔獣は寄り付かないはずなんだけどな……。ま、まさかオーク!?」


 オーク! ゴブリンよりも頭が悪くて、その肉は食用にもされるという魔獣。ボクは人間にた姿のオークを食べようとは思わないけれど、一部の好事家たちは欲している危険な魔獣兼高級食材!


「オ、オークにボクの魔獣除けポーションは効かないですから、ここは早く逃げましょう!」


「だが、今日の作業は終わっていないのだろう?」


「そ、そうですけど、オークは危ないですよ!」


 オークたちはゴブリンたちより頭が悪いのに狼のように群れで狩りをする。囲まれたりしたら、ボクたちはオークたちの餌食になってしまうだろう……。


 それは怖い! エステル師匠ー! 助けに来てー!


「オークか。弱点などはあるか?」


「えっと。普通の人間と変わりないものだと思いますよ。喉や心臓ですね」


「理解した。狩ってくる」


「ヒビキさんー!?」


 この人は本当に無鉄砲な気がする! いや、考えてはいるんだろうけど、もうちょっと慎重に動いた方がよくはないだろうか。


 だが、ヒビキさんが出ていって聞こえてくるのはオークの豚のような悲鳴。それが何度も続き、足音が遠ざかろうとしたのを最後にオークたちの声はしなくなった。


 ……まさか、全滅?


「オークとやらは討伐した。証拠は必要か?」


「いえいえ! 後で素材回収をしたいなと思ってるぐらいですから!」


 本当に全滅させてきちゃったよー!?


 オークの集団を壊滅させるってどれだけなの。普通、冒険者が4ダース揃って、初めてオークの群れが壊滅させられる程度なのに! ヒビキさんっては常識外にもほどあるよ! まあ、このことで助かったのは事実だけれど!


「オークも採取するべきところがあるのか? 見たところ、不衛生だったが……」


「あるんですよ、ヒビキさん! オークの内臓の中にはいくつもの薬効があるものがあるんです! もちろん、そのままでは使えませんよ。見ての通り、不衛生ですからね。よく洗って、干して、加熱して、初めてポーションの材料になるんです!」


 オークを使ったポーションで名高いのは上級魔獣除けポーションだ、オークの汗腺を利用して作るポーションで、魔狼はおろか新生竜ですら寄り付かない効果を発揮するのである。もっとも原材料が危険なオークの汗腺なだけあって、値段は高いけれど。


 それでも、冒険者さんたちには売れ筋の一品だ。このシュトレッケンバッハの山は何が出るのか分からないから、このポーションを利用して山に潜るのだ。ボクたちはそんな高級品は使えない──使うと採算が取れないし、そもそも今は店の在庫にない──ので、使ってないけれど、これでオークの汗腺をゲット出来たら次からは使えるようにとっておこうっ!


「ふふふ。誰もがラインハルトの山の魔獣討伐を考える中、ラインハルトの山が静まった後のことまで考えてるボクはとっても知的です!」


「そ、そうだな」


 ボクの意見にヒビキさんが遠慮がちに頷いてくれた。ヒビキさんは分かってる人だ。


「それはともかくオニノスズの実は大体取れたので、オークの素材の回収に行きましょう。どこら辺で倒しました、ヒビキさん?」


「ああ。こっちだ、リーゼ君」


 ボクが尋ねるのにヒビキさんが問題のオーク全滅の場まで案内する。


 た、確かにものの見事に30体近いオークが殺戮されている。ヒビキさんが行ってくるって言ってからほんの2分程度の間だったのに……。


 うんうん。ヒビキさんをボクたちの常識で考えちゃダメだ。ヒビキさんはボクたちの常識から外れた人なのだ。オークだろうと、レッドドラゴンを蹴りで屠ったヒビキさんにとってはまな板の上のコイも同然だろう。


「特に加工はしてないが、それで構わないのか?」


「ええ、ええ。オークがこれだけ揃っているだけで十分ですとも!」


 目の前にはお宝の山! これは錬金術師にとってはたまらなく上物ですよ!


「剥ぎ、剥ぎ! オークの内臓も役に立つんですよ! とっても強い疲労回復ポーションになるんです!」


「だが、疲労回復ポーションはこの間のドラゴンの鱗で補えるのではないか? それにこれ以上内臓を増やすとなると、エステルがいい顔をしないと思うが……」


「ま、まあ、エステル師匠は確かに納得してくれそうにないですね……」


 今、ボクたちの店舗兼家はレッドドラゴンの内臓の油漬けで溢れている。これ以上、加工できない素材を増やすとなると、エステル師匠がうんざりとした顔をしそうである。家の中が内臓だらけってのも確かにいい気分はしない……。


「すぐに使えそうな分だけとって、残りは自然に任せましょう。山の生き物が獲物の臭いを嗅ぎつけて、きっと平らげてくれるはずです。残りは自然が元の自然に戻してくれるでしょう。やりすぎは何事もよくないですからね」


 ボクはオークの内臓の中から上級の疲労回復ポーションが作れる部位と、低級の体力回復ポーションが作れる部位をある程度採取すると、残りは残しておいた。


「またしても俺が自然を乱してしまったわけか」


「いえいえ。自然で大事なのは生き残ることです。そのためには他者に手をかけることもあるかと思いますよ!」


 そうそう。自然は生き残ってこそだ。ボクたちがオークの集団に殺されて自然の秩序が保たれてもしょうがない。生き残ってその恵みを享受してこその自然である。


 だから、あまりヒビキさんにはナイーブにならないで欲しい。


「理解した。この世界の自然とはそういうものなのだな」


「そういうものなのです」


 ヒビキさんも納得してくれたことだし、家に帰ろう!


…………………

本日の更新はこれで終了です。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ