錬金術師さんと劇
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──錬金術師さんと劇
夏の日々も終わり、秋の季節が訪れた。
この10月の目玉は何と言っても聖アンデレ祭である!
聖アンデレ祭はジーオ様から最初に青魔術を授かった使徒様を祭るお祭りで、これから寒くなっていく前に元気を付けるために行われるお祭りだ。
そう、聖アンデレ祭が終わるころには気温はどんどん下がっていく。山もお休みになって実りは得られなくなり、薬草採取なども難しくなる。
畑はまだまだ作物を宿すけれど、冬に入る前に支度がもっぱらの作業になる。まだ街道も繋がっていないので、ヴァルトハウゼン村は依然として自給自足体制。秋までに農作物を収穫して、蓄えておかないと冬を越せない。
それはそうと聖アンデレ祭だ。
祭りはやっぱりバーベキューパーティーだ!
……いや、これが帝都とかだと出店がいろいろと並んで楽しいんだけどさ。ほら、ここってド田舎村だからね。お肉焼いて食べるのが唯一の娯楽なわけですよ。
帝都の外れに住んでいたときも、聖アンデレ祭は賑やかだった。見たこともないようなお菓子を出す出店が並んだり、すっぱい果実飲料が振る舞われたり、聖アンデレがジーオ様から青魔術を授かりその力で悪い人をやっつける劇をやったり……。
ん? 出店とかはどうにもならないと思うけれど、劇くらいならうちの村でもできないかな? 催しものがバーベキューだけよりも盛り上がると思うんだけどな?
「どうだろ、どうだろ?」
「どうかしたのかい、リーゼ君」
「あ、ヒビキさん」
ボクが錬金釜を磨きながら劇のことを考えていたら、ヒビキさんが不思議そうな顔をして覗き込んできた。
「ヒビキさんはこれから冒険者ギルドですか?」
「うむ。ここ最近は間が空いたりしてしまったからな。レーズィ君の都合もついたことだし、石切り場の警備か、ラインハルトの山で魔獣の間引きでもしようかと思っている。シュトレッケンバッハの山はブラウ君が積極的に魔獣を狩ってくれるようになったから、かなり安定してきたと聞いているからな」
「へー。ブラウ君がですか」
ブラウ君は集会でヴァルトハウゼン村の村民たちに紹介されて、正式にヴァルトハウゼン村の一員になった。村の人たちは驚いていたけれど、オスヴァルトさんの紹介もあって、なんとか受け入れてくれた。
それからブラウ君は冒険者の人たちを手伝って、シュトレッケンバッハの山を根城に魔獣を狩っているらしい。ブラウ君は報酬の分け前を要求する代わりに魔獣のお肉を食べると聞いた。まだ新生竜だからこれからいっぱい食べて大きくなるんだろうな。
……大きくなってもブラウ君は友達でいてくれるんだろうか? そこはかとなく疑問である。彼自身は仲間って言っているけれど。
さて、それはそうとボクも聖アンデレ祭に備えなければ。
「今年は温かい疲労回復ポーションのワイン割りっと」
いつものようにボクたちはポーションの出店を出す。聖アンデレ祭辺りでは涼しくなってくるので冷たい飲み物ではなく、温かい飲み物を提供する。少しばかり酒精が入ることになるので、ボクは飲めないけどね。
ボクもワインがどんな味なのか気になるけれど、エステル師匠が子供の時からお酒飲むと頭馬鹿になるぞと言って飲ませてくれないのだ。まあ、いつも酒を浴びるように飲んでから、翌日頭痛に悩まされているエステル師匠を見るとそこまで飲みたいとは思えないけどね。なんだって頭が痛くなるようなものを好んで飲むのかな。
それはそうと今回のポーションのレシピ。
まずはホホノナガレ草を煎じて治癒用混合液に浸す。薬効が十二分に染み出したら、目の細かなザルでこしてから、錬金釜に入れる。そして、ここからがちょっと変わっている。ここでお砂糖とすりおろしたショウガを一緒に加えるのだ。
こうすると独特の風味があって美味しいポーションになる。これだけでも美味しいのだけれど、今回はお祭りなので冷ましたものを赤ワインに加える。割合は1対1の比率で。そうすれば疲労回復ポーションの赤ワイン割りの完成である。
これはなかなか評判でよくよく行列ができる。エステル師匠はワインをそのまま飲んだ方がいいって言うけど、こっちの方が美味しいって言ってくれる人も少なくない。まあ、ボクは飲んだことがないので味は分かりませんけどね。
今日はぼちぼちと疲労回復ポーション作りに励み、たっぷりと在庫を確保しておく。お祭りになったらあっという間に放出してしまうから、作りすぎるということはない。お祭りなので利益度外視で、材料費だけの回収を目指すところだ。
ずりずり。ぽとぽと。ぐつぐつ。
煎じて、混ぜて、煮込んで、瓶に注いでいく。
それにしても聖アンデレ祭で劇をやるというアイディアはどうだろうか。帝都ではプロの役者さんがやってたけれど、こんな田舎町に役者さんは来ない。なので、自分たちで演じることになるけれど、それもなかなか面白そうだ。
それに、何も聖アンドレの劇ではなくてもいいのだ。青魔術師のお話ならば、お祭りの趣旨に沿うだろう。幸いなことにこの村には超優秀な青魔術師としてレーズィさんがいる。レーズィさんに演じてもらえば完璧だ。
うん。なんだか行ける気がしてきたよ!
でも、脚本はどうしよっか。流石に脚本を書くのはボクにも無理だ。でも、脚本がないと劇は成り立たないわけで。困ったなあ。
「馬鹿弟子。出店に出す疲労回復ポーション作りは進んでるかい?」
「あっ。エステル師匠。エステル師匠って演劇の脚本書けそうな知り合いいません?」
「なんだい。えらく唐突だね」
ボクが尋ねるのにエステル師匠が怪訝そうな顔をする。
「いやあ。今度の聖アンデレ祭で劇ができないかなって思って」
「聖アンデレ祭なんて肉食って酒飲んで、馬鹿騒ぎして、これから来る冬に備えるだけだろう。劇なんてやったって酔っ払いしか見やしないよ」
「そんなことないですー。帝都にいたときは劇、見てたじゃないですか」
エステル師匠がうんざりした様子で告げるのに、ボクがそう返す。
「ありゃ、酒の肴だ。まじめに見てる奴なんていないよ。酔っ払いがやいのやいのと騒ぐ種になるだけだ。まして、この村には役者なんていないだろう?」
「エステル師匠は世の中をお酒で考えすぎだと思います」
何でもかんでも酒の肴にされたらたまらないよ。
「まあ、脚本と言えば開拓局の女の方の若造がいろいろと書いてたとは聞いたな。夢破れて開拓局に入ることになったらしいが」
「カルラさんが? 意外だ……」
いつも無言でカリカリと仕事してるだけの印象しかなかった。
「どれだけ書けるのかは知らんよ。夢破れてこんな辺境で働いているんだ。稼げるほどの腕はなかったってことだろう」
「それってボクたちにもブーメランになりません?」
「あたしたちは素材の安い土地で暢気に錬金術をやっていくために越してきただけだ。錬金術で食っていけなくて落ちぶれたわけじゃない」
ボクがやや疑問に感じて尋ねるのに、エステル師匠は飄々とそう返す。
「そんなに気になるんだったら本人に尋ねてきな。もう在庫は確保できたようだしね。好きにするといいさ。あたしは酒が飲めればそれでいい」
「はーい」
エステル師匠は本当にお酒が好きだな。
「さて、せっかくの情報なので活かそうっと」
ボクはエプロンを脱いで壁のフックにかけると、トトトと外に出かける。
ついでなので開拓局の人たちにできた疲労回復ポーションを持って行く。ワインで割らなくても十分に美味しいし、疲れもとれるのでお祭り前に頑張っている開拓局の人たちに差し入れである。開拓局はお祭りとかあると忙しいからね。
「こんにちはー!」
「やあ、リーゼちゃん。今日はどしたの?」
ボクが元気よく開拓局の扉を開くのに、ハンスさんが出迎えてくれた。やっぱりお祭り前のせいかちょっと忙しそうだ。書類やらなにやらがテーブルの上に散らばっている。お祭りもお金がかかるから計算とか大変なんだろうな。
「カルラさんは今お暇です?」
「いいえ」
ボクがカルラさんに話しかけるのに、カルラさんはそろばんをぱちぱち弾きながら、書類にカリカリ数字を記しつつ返した。
「そのー……。いつ頃お暇になります?」
「業務終了後です」
開拓局で17時まで仕事だったっけ……。
「リーゼちゃん。カルラさんに何か用事なの?」
「あのですね。今度の聖アンデレ祭で劇をやれないかなって思って。バーベキューだけじゃ寂しいじゃないですか。帝都では聖アンデレ祭のときに劇をやってましたし、この村でもそういうことができないかなって」
「ふうん。でも、この村に役者はいないよ?」
「そこは村の人たちでカバーするのです」
ハンスさんが尋ねてくるのにボクがそう告げて返す。
「でも、脚本は?」
「それがエステル師匠がカルラさんが前に書いてたことがあると」
「え? マジで?」
ハンスさんも知らなかったのか。エステル師匠はどこで知ったんだろう。
「まあ、確かに田舎の祭りだから大したことはできないけれど、バーベキューパーティーだけより何か催しものがあった方がいいね。カルラさんはどう思う?」
ハンスさんはボクの言葉に頷きながら、カルラさんにそう問いかける。
「バーベキューパーティーをやるだけでも予算はギリギリですが」
「そ、そうだね。舞台やらセットするともっとお金がかかるか」
「ですが、全くできないというわけでもないでしょう」
おや? カルラさんの様子が……?
「私の脚本でよければ書きますが、具体的にはどのような物語を望んでいるのです、リーゼさん?」
「ええっとですね。青魔術師の人が活躍する話です」
「もっと具体的に」
「ええーっと。レーズィさんの活躍する話で!」
「ふむ。レーズィさんの話ですか」
カルラさんがそろばんをはじきながら何やら考え込む。
「いいでしょう。少しレーズィさんと話をしてみます」
「助かります、カルラさん!」
やったね! これでバーベキューパーティーだけのお祭りじゃなくなるよ!
「ですが、あなたにも協力してもらいますよ、リーゼさん」
「は、はい」
な、なにをやらされるんだろう……。そこはかとなく心配になって来た……。
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