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錬金術師さんと生き残り

…………………


 ──錬金術師さんと生き残り



 上空から降下してきた新生竜。


 ミルコさんたちは険しい表情で盾と剣を構える。ユーリ君とユリアさんも矢を番えて、新生竜に狙いを定めている。


「やめろ、人間。自分は争うつもり、ない」


 すると、新生竜がそう喋った!


「喋れるのか?」


「最近、言葉、覚えた。ある程度ならば喋れる」


 ヒビキさんが問いかけるのに新生竜がそう返した。


「ならば、敵対する意思を問おう」


「ない。自分、人間と争うつもり、ない」


 ヒビキさんの問いに新生竜がそう返す。


「自分、お前、前に見たことある。俺の兄弟、あっさりと屠った」


「あれの生き残りか……」


 新生竜が告げる言葉をヒビキさんが渋い表情で聞く。


「そう、生き残り。だけど、報復のつもり、ない。勝ち目ない戦い、するは愚か」


 グリフォンはそう告げると丸焦げにしたグリフォンに牙を向けて貪った。


「こうして、魔獣、食べた方が安全。人間、襲うは危険。学習した」


「ふむ」


 新生竜は学習して育つって聞いたけど思った以上に賢そうだ。


「お前、兄弟たち殺してくれた。そのおかげ、俺の獲物、たくさん。人間、襲う意味、ない。だから、襲わない」


 新生竜はそう告げて、グリフォン肉を更に貪る。


「恨んではいないということか」


「恨む。それ、無意味。強者、生き残るが世の常。自分、弱者。死にたくない。だから、強者、戦わない。それが賢いこと。それに、人間、食うとこない」


「まさか人間を食ったのか?」


「冗談、理解しろ」


 新生竜はそう告げると笑うように喉をひくつかせて、鳴き声を漏らした。


「むしろ、自分、人間、仲間になりたい。お前、強い。強い奴、味方、助かる。自分、この大きさのグリフォン狩るの、やっと。お前、もっと狩れる。自分より強い。強い奴が仲間、いい。仲間、してくれないか?」


「それは……」


 新生竜の言葉にヒビキさんが困ったような表情を浮かべる。


 新生竜を仲間ってどうやるの? 犬とかみたいに飼うの? 流石のエステル師匠も新生竜なんて連れてきたら激怒すると思うよ?


「君はこれまでひとりで暮らしてきたのではないか?」


「そう。ただ、自分、兄弟たちと違って、別の山、行った。エルンストの山。そこ、とても賢い狼、いる。とても、親切。言葉、教えてくれた。食べ物もくれた。その狼が言う。人間、悪い奴じゃない。襲っても得、ない。むしろ、仲間になるの、いい、と」


「ハティに会っていたのか。どうりで難しい言葉も使えるわけだな」


「あの狼、ハティ。お前、ヒビキか?」


「そうだ。俺はヒビキという。よろしくな。君の名前は?」


「ブラウ。俺の鱗、青い。だから、ハティがブラウ、って」


 新生竜はブラウというらしい。親はレッドドラゴンなのに青って不思議だね。成長したら鱗の色が変わって赤くなるのかな?


 って、そうだよ! 今はそこまで大きくないけど、ブラウは新生竜だからこれから成長してどんどん大きくなるんだよ! あのラインハルトの山のレッドドラゴンみたいに! そうなったら大変だよ!?


「自分、仲間、してくれるか?」


「難しいな。君が人を襲わないと保証しても村の人たちが納得してくれるかどうか」


「だが、ハティ、仲間になった」


「そうなのだが……」


 ハティさんはすっごく賢そうだったから安心できたものの、このブラウはまだまだそこまで賢そうには見えない。多分、片言の言葉のせいだとは思うけど。


「仲間、してくれ。礼はする」


「礼というと何を?」


「お前たち、魔獣、出ると困る。自分、魔獣、狩る。人間たち、安全、なる」


「ふむ。それは確かに」


 けど、君も魔獣だよ、ブラウ?


「俺たちだけでは決められない。一度、村まで下りてきて、責任者と話してみてくれ。君のことは俺から紹介しよう。それで了承が得られれば、君を仲間として迎え入れられるだろう。君は魔獣を狩り、俺たちは君に危害を加えない」


「ヒビキ、お前、いい奴。ハティの話、通り。嬉しい」


 ブラウがそう告げて尻尾をぶんぶんと振る。新生竜なのに可愛いとは。


「では、案内、してくれ。責任者、誰だ?」


「開拓局のオスヴァルト氏だ。俺たちに続いて地上を進んできてくれ。空を飛ぶと魔獣の襲撃と間違われてしまうかもしれない。何かあったとしても、オスヴァルト氏と話すまでは手出しをしないように俺たちが他のものに告げるからな」


「分かった」


 ブラウがコクコクと頷く。


「では、一度村に帰ろう。リーゼ君、採取はできただろうか?」


「あっ。はい、一応できてます」


 ヒビキさんが尋ねるのに、今後はボクがコクコクと頷く。


「フィーネ嬢。こういう事情なので山を下りますが構いませんか?」


「……はい……」


 フィーネさんもコクコクと頷く。


「それでは、山を下りよう。混乱を生じさせないように俺が先頭に立つ。ミルコ君たちは後方とフィーネ嬢を頼む」


「了解です、ヒビキさん」


 そんなこんなでボクたちはブラウを連れてシュトレッケンバッハの山を下りて、村に戻ることになった。


「ありゃなんだ?」


「新生竜だ! だが、大人しく人間に付いて行きよるぞ……」


 村に下りたら草刈りをしている農家の人たちが驚きの視線をボクたちに向けてくる。それはまあ驚くよね。だってブラウは喋るけど新生竜だもん。ボクたちが一緒じゃなかったら、今頃はみんな逃げ出していると思うよ。


「ここ、人里か。人間、たくさん」


「そうだ。ヴァルトハウゼン村という。俺も最近来たばかりだが」


「そうなのか? そう言えば、お前、他の人間と臭い、違う。鉄の臭い?」


「臭いで区別がつくかは知らないが、俺の四肢は義肢だ」


 ブラウは興味深そうにいろいろときょろきょろ見渡している。


 新生竜なのに可愛いな―。


「ここが開拓局だ。流石に君は中に入れないので俺がオスヴァルト氏を呼んでくる」


「分かった」


 ブラウは小さいけど一応は新生竜なので開拓局に入るのは無理。扉が壊れる。


「失礼する」


「こんにちはー」


 ボクとヒビキさんは開拓局の中に。


「やあ、ヒビキさんにリーゼちゃん。どうかしたの?」


「それがですね。シュトレッケンバッハの山で新生竜が出たんです」


「げっ。また? この間7体討伐したばっかじゃんか……」


 ボクが告げるのにハンスさんが露骨に嫌そうな表情を浮かべる。


「それがその新生竜が人間のコミュニティーに加わりたいと申し出ている。知性は確かなようでコミュニケーションにも問題はない。この件についてオスヴァルト氏と話し合いたいのだがどうだろうか?」


「え? どういう……?」


 ヒビキさんの言葉にハンスさんは目を丸くする。


「ヒビキ。まだ?」


「うわっ! 新生竜!?」


 そこでブラウが首だけ伸ばして開拓局の中を覗き込んだ。ハンスさんは椅子から落ちかかってびっくりする。まあ、当然のリアクションだ。


「この新生竜だ。ハティとも以前に接触しているらしく人間の言葉を理解する。オスヴァルト氏とこの件について話し合いたい。彼は今どこに?」


「きょ、局長室だと思いますよ。今呼んできますね」


 ハンスさんは急ぎ足で局長室に向かっていく。


「これでいいんですかね?」


「このブラウは知的生命体だ。それが友好を望んでいるのだから、同じ知的生命体としては一考するべきだろう。あのレッドドラゴンとは違って話ができる竜だ」


「うーん」


 でも、この今は小さなブラウもいずれはあのラインハルトの山のレッドドラゴンみたいに大きくなるよ? その時も友達でいてくれるかな?


「ヒビキ君。新生竜がいると聞いてきたが……」


 暫くしてオスヴァルトさんが奥から出て来た。


「この新生竜だ。名前はブラウという。友好とコミュニティーへの参加を望んでいる。何かできることはないだろうか?」


「ふむ。新生竜が友好を……」


 オスヴァルトさんが開拓局に首だけ突っ込んだブラウを見上げる。


「ブラウ君。君はこれまで人間を襲ったことは?」


「ない。本当だ。自分、人間、食べたりしてない。人間、美味しくない」


「なっ……」


「冗談、冗談。笑ってくれ」


 もー。ブラウは賢いけど人をおちょくることまで覚えちゃってるよ。


「自分、人間と仲良くしたい。ハティ、それがいいって言った。ハティ、人間と仲間」


「確かにハティさんは我々のコミュニティーにいますな。ですが、君はまだ新生竜だ。これから大きくなるでしょう。その点は大丈夫なのですか?」


「頑張る。自分、あのレッドドラゴンの子供。だけど、あいつ、あっさり死んだ。人間、強い。強い奴、敵にしたくない。自分、人間、滅ぼすの無理。人間たち、一度襲えば、ずっと覚えている。いつか、報復、される。それは怖い」


「ふむ……。ブラウ君がこれからずっと友好的ならば考えてもいいでしょう」


 大丈夫かな? これから大きくなるよ?


「シュトレッケンバッハの山、魔獣、たくさん。獲物、困らない。ハティ、エルンストの山で暮らしていける。自分もシュトレッケンバッハの山、暮らしていける」


「分かりました。では、ブラウ君をヴァルトハウゼン村に迎えましょう。我々は君に危害を加えないことを約束します。君は我々に危害を加えない。冒険者ギルドにもそう周知しておきます。今度、集会を開くのでその場で君のことを紹介しましょう」


「助かる。自分、人間、仲間だ。仲間、襲わない」


 オスヴァルトさんの言葉にブラウが嬉しそうに尻尾を振る。


 本当に大丈夫なのかな? こういう前例ってあるんだろうか? この村ではハティさんの例は一応あるけれどさ。世界的に。


「こういうことって他ではあるんですか?」


「話には聞いたことがあるよ。北部の方では竜と暮らす領主の方もいるそうだ。旅芸人に加わる竜もいるとか。まあ、そのような竜はあまり大きくならない竜なのだが」


「……ブラウってあのラインハルトの山のレッドドラゴンの子供ですよ?」


「……だからこそ、今のうちに友好を結んで置くのがいいのではないかな?」


 うーん。確かにここまで会話ができて、向こうから仲良くしたいっていうのを討伐しちゃうのは可哀想。自然界は可哀想じゃ生きていけない場所だけど、ヒビキさんが言うようにボクたちは知的な生命体なわけだから、対話も必要なのかな。


「ちっこい人間、錬金術師か?」


「え? そうだけど……」


「薬草、いっぱいある場所、知ってる。取り尽くさないなら、案内して、いい」


「仲良くしようね、ブラウ君!」


 やっぱり友情は必要だよね!


 そんなわけでブラウ君はヴァルトハウゼン村の一員になりました。


 冒険者ギルドでは冒険者さんたちが驚いていたけれど、クリスタさんの一声でブラウ君は見つけても襲わないことになった。ブラウ君も何かあったら冒険者の人たちを助けてくれるそうだ。仲良し、仲良し。


 そして、ボクも後日、ブラウ君に案内してもらって、薬草採取に向かうことに!


 まだまだ裏庭の畑だけじゃ、不安だしね。冬に備えて採取しておかないと。


「フィーネ嬢。今日は満足していただけましたか?」


「……はい。とても……」


 迎えの飛行船が来てお城に帰ることになったフィーネさんにヒビキさんが尋ね、フィーネさんが頬を赤らめる。なんで?


「……また城に来てください。歓迎します……」


「機会があれば」


 フィーネさんはヒビキさんの手を握りながらそう告げ、ヒビキさんが頷く。


「……約束ですよ……?」


 フィーネさんはそう告げて、ヒビキさんの頬にキスを!?


「……待ってます……」


 はわわわ。フィーネさんを乗せた飛行船は飛び去っていったけれど、ボクは驚きを隠しきれないっ! なんて大胆なんだ、フィーネさん!


「どうかしたのか、リーゼ君?」


「ヒビキさんはどうともないんですかっ!?」


「……あれはこの地方の挨拶のようなものではないのか?」


「ち、違いますよ! 南部の人じゃあるまいし、そんなに気軽にキスしませんって!」


 ヒビキさんが落ち着いていると思ったらこれだよ!


「ふむ。一回り以上は歳が離れていると思うのだが。ただの友好の印ではないか?」


「ヒビキさんってば鈍感ー。あれは間違いなく惚れてますよ。まあ、フィーネさんも子爵家のひとり娘さんですから、ヒビキさんと結婚したいってことはないでしょうけど」


「やはりそういうものだろう」


 まあ、相手は子爵家ご令嬢だしね。貴族の人は貴族の人と結婚するのさ。


「ヒビキさんは結婚とか考えてないんです?」


「そういうものを考える時間がなかった。ほとんどの時間は戦争かそれに準じた行為に費やしてきたからな。特に四肢を失ってからは」


「そうですかー……」


 ヒビキさんがエステル師匠をもらってくれたらいいんだけどなー。エステル師匠も大概行き遅れ……げふんげふん。


「まあ、いずれは考えるだろう。永遠に兵士でいるわけではない」


「考えた方がいいですよ! じゃないとエステル師匠みたいになっちゃいますから!」


「このことは黙っておいた方がいいだろうな」


「はい」


 エステル師匠に聞かれたら怒られるじゃすまない。


「では、我々も帰ろう。エステルも帰りを待っているはずだ」


「そうですね。ブラウ君の話もしないと!」


 今日はいろんなことがあったなー。


 これからも毎日楽しそうだ!


…………………

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