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錬金術師さんとラッシュの恐怖

…………………


 ──錬金術師さんとラッシュの恐怖



 ボクたちはそんなこんなでシュトレッケンバッハの山に。


 ボクはいくつか薬草を採取するだけで終わりだけど、フィーネさんはいろいろと見て回りたいだろうし、ちょっと寄り道しながら進もう。


 ただし、ダンジョンへの道は避けること。ミルコさんたちもまだダンジョンの存在を知らないはずだし、フィーネさんが知ってしまうのも困る。まだダンジョンのことは内緒にしておかないと。街道は後数ヶ月で完成だと聞いているから。


 そう! 街道建設が思いのほか捗って、残り数ヶ月で完成するというのだ!


 本当は1年近くかかると思われていたんだけど、レーズィさんのゴーレムが働き者で、あっという間に街道が延びていくのだ。石切り場から切り出された石材は次々に街道工事に投じられていき、街道が出来上がっていく。


 この調子ならば3~4ヶ月で街道は完成するそうだ。それまではゴーレムは全力で活動しなきゃいけないからエステル師匠がぐちぐち言いながら上級魔力回復ポーションを作っているのだけれど。


 そろそろユウヒノアカリ草もまた採取しておかなきゃな。


 それはそうとボクたちはシュトレッケンバッハの山を進む。


「……それでその犯罪組織の頭領はどうなったのですか……?」


「灰狼騎士団に拘束され、尋問を受けたのちに法によって裁かれるそうです。騎士団のものがいうには死刑になるだろうとのことでした」


 フィーネさんはヒビキさんにべったりでずっとトールベルクの件について聞いている。ボクだってまだそんなに聞いてないのに! おしゃべりしたいなら家ですればよかったじゃん! フィーネさんってば!


「……ヒビキさんは強いのですね……」


「仲間との協力があってこその強さです。単独では魔術によって死んでいたでしょう」


 ヒビキさんはなんでもガルゼッリ・ファミリーの頭領のアジトで魔術師に遭遇したそうだ。レーズィさんが魔術防御の青魔術を使ったから攻撃は避けられたそうだけど、それでも危ないよ。ヒビキさんってば本当に危ないことをするんだから。


「レーズィ君、ユーリ君、ミーナ君のこのパーティーの協力があるからこそ、我々は困難なクエストも達成できるのです。間違っても自分だけの功績だとは驕ってはいけませんし、そうするつもりもありません」


「……ですが、エルンストの山のお化け魔狼を倒した時はお化け魔狼──ハティと1対1だったのでしょう……?」


「あれは向こうが正面から挑んできたからどうにかなったのです。ハティが不意打ちに走っていれば危なかったでしょう。何せ相手の姿は見えないのですから」


 ヒビキさんってば謙遜する性格だよね。これが普通の冒険者ならば活躍5割増しにして吹聴して回るのに。ヒビキさんは聞かれない限り自分の活躍を語ろうとしないし、きっちり正直にあったことを話すのだ。


 でも、そんな性格がみんな珍しいのか、村ではヒビキさんは人気者。小さな子供たちも最近はヒビキさんに懐いてるし、年頃の娘さんたちもヒビキさんに夢中だし、冒険者ギルドでもヒビキさんの活躍を誇らしげに語る冒険者がいる。


 しかし、肝心のヒビキさんがそのことに気付いてないのが玉に瑕。ヒビキさんは未だに村の人たちと距離があると思ってるらしくて、コミュニティーの中に踏み出せずにいるようだ。もう村の一員なんだから、もっとわーっと騒いでいいのにこの間のお祭りでも、準備を黙々と行っていたり、バーベキューパーティーでは控えめにしか食べてない。


 ヒビキさんの育った環境のせいかな?


 ヒビキさんは“にほん”って国で生まれ育ったそうだけど、“にほん”の人はみんな控えめの性格をしているのかもしれない。ボクたちの世界でも北部の人は黙って仕事を済ませる職人気質で、南部の人はわいわい騒ぎながら仕事をする愉快な人たちと地方によって性格が変わったりすることはよくあるしな。


 さて、それはともかく薬草を採取ー。


 今日は中級体力回復ポーションの材料になるギンノスズ草の採取を中心に行っていきたいと思う。中級体力回復ポーションはこの村では低級疲労回復ポーションの次に主力の商品だ。山に入る冒険者の人たちは必ず1つ以上は持って行く。


 これがあればいざという時に傷を負っても、ある程度は癒せる。腹部の傷なども服用することで回復するし、手足の傷も振りかけることによって回復する。


 魔狼に噛まれた! って場合でも水で傷口を洗ってからポーションを使えば概ね助かることになる。この村の冒険者パーティーは白魔術師が少ないので、回復手段はポーション頼りが多いこともあって、中級体力回復ポーションは主力商品の座にある。


 まあ、中級体力回復ポーションはそれなりに高いので、そこまで大量に売れるわけでもないけどね。高いから、ちょっと売れるだけでも儲かるというところだ。


 ちなみに値段は適正価格より抑え目にしてある。普通の市場に出回っている中級体力回復ポーションはもっと高い。5000マルクぐらいする。うちは概ね3000マルク。なんと2000マルクもお得なのだ。


 というのも、ここでは素材の採取がちょっと難しいだけで、ほとんどかかる費用は人件費ぐらいだからだ。中級体力回復ポーションは作るのがちょっと大変なのでその分多めにお代をいただいているけれど、素材そのものはこのヴァルトハウゼン村の自然で採取できるもの。なので、この村から出荷しない限りは値段は抑え目にして大丈夫なのだ。


 これを他の地方に出荷するときにはちゃんと適正価格にするよ。そうしないと他の錬金術師の人たちが困るからね。まあ、これはエステル師匠の受け売りだけど。


 そもそもここからポーションを出荷するとどのみち飛行船の代金などがかかって、高くならざるを得ないのだ。もうちょっとで街道は完成するけど、街道を進む馬車に乗せると時間がかかってまた輸送費が発生するし、安いのは村で流通させる分だけだね。


 さてさて、回り道をしながら来たけど、そろそろギンノスズ草の採取地点だ。


 ギンノスズ草は文字通り、その花弁が銀色で、まるで銀色の鈴がいくつも並んでいるように見えるのでその名が付いた。なのでキラキラ光るギンノスズ草を見つけるのはそう難しいことではない。簡単に見つけられる。


「……少し疲れました……」


 ボクがギンノスズ草を見つけたとき、フィーネさんがそう告げて立ち止まる。


 フィーネさんってば山に入るのに長いスカートのドレス姿なものだから、それは疲れるはずだよ。ボクは動きやすいキュロットスカートにしてるから、ぐいぐい進めるけど、フィーネさんがボクのように動いたらスカートが破けちゃう。


「リーゼ君。そろそろ採取だろうか?」


「ええ。ちょうどいい群生地を見つけましたので、これから採取です。ヒビキさんたちは休んでいてもらっていいですよ」


「いや。俺たちは君の護衛だ。君が採取する間の安全を確保しなければ」


 うーん。今日は上級魔獣除けポーションを使用してるから、魔獣に出くわす可能性は低いから、フィーネさんと一緒に休んでいてもらっていいんだけどなー。


「なら、お願いしますね。ボクはこれからぼちぼちと採取です」


「理解した」


 ボクはギンノスズ草を積んでいって、背負っている籠に放り込んでいく。ギンノスズ草で薬効があるのは茎と葉っぱだから、根っこはどうでもいい。スコップで掘り返したりしないでいいので採取はらくちんだ。全部は採取せず、一定数だけ採取していく。


 よし。これでここでの採取は完了だな。もうちょっと別の場所も探して──。


「リーゼ君。木の上に登ってくれ。魔獣が来る」


「へ?」


 魔獣? どこに?


「ユーリ君、ユリア君、聞こえるか?」


「聞こえるな。凄まじい数だ。これはラッシュだぞ」


 ラッシュ!? あの魔獣が凄い勢いで駆け巡っていく危険な現象!?


 ま、不味いよ! 魔狼の群れに囲まれたら、流石のヒビキさんたちでも危ないよ!


「ヒビキさん! 逃げましょう!」


「生憎だが、逃げられるような状況にはなさそうだ。残り数分で会敵する。リーゼ君とフィーネ嬢は木の上に向かってくれ。こちらは地上で敵を防ぐ」


 そう告げてヒビキさんはナイフを構えた。


「フィーネさん! 木に登ったことありますか?」


「……ないです……」


 だよねー。


「騎士の人! 手を貸してください! フィーネさんを木の上に!」


「畏まりました!」


 騎士の人の手も借りてなんとかフィーネさんを木の上に退避させる。ボクもそれからよじよじと木の上に登る。その頃には魔狼の雄叫びと足音が聞こえるだけになっていた。本当に数分でここまで来そうだ!


「ヒビキさん! 大丈夫ですか!?」


「大丈夫だ。前にも対処したことがある」


 ヒビキさんは落ち着いた様子。でも、余裕はなさそうだ。


「来るぞ──」


 ヒビキさんがそう告げたとき、魔狼の大群が木々の向こうから姿を見せた。数は……60体はいるっ! 凄い数だ!


 ヒビキさんは本当に大丈夫なんだろうか。心配になる。


「レーズィ君。支援を頼む。ミーナ君も火力を敵に叩き込んでくれ」


「任されましたよう! <<速度上昇>>!」


 レーズィさんが青魔術でパーティー全体を支援し、ミーナさんも詠唱を始める。


「<<火流星群>>!」


 ミーナさんがそう詠唱すると、上空から火球が雨のように魔狼の群れに降り注いだ。火球は更に地面で爆ぜ、魔狼を吹き飛ばす。


 だが、それでもなお魔狼の群れは突き進んでくる!


「<<速度低下>>!」


「<<爆裂槍>>!」


 レーズィさんが更に魔狼に向けて青魔術をかけ、ミーナさんが赤魔術を放つ。


「<<爆裂噴火>>>」


 そこに更に“黒狼の遠吠え”のレベッカさんが参戦し、動きが鈍った魔狼たちの足元に魔法陣が浮かぶとそこから炎の柱が噴き上げて魔狼たちを吹き飛ばしていった。


 それでもまだまだ魔狼の群れは突進してくる。数にして30体前後の魔狼が雄たけびを上げながら、ヒビキさんたちに向けて突進してきた。


「やるぞ、ミルコ君」


「やりましょう、ヒビキさん」


 残り僅かで接触というところでヒビキさんたちが前に出る。


「ふん!」


 ヒビキさんは魔狼の群れに向けて跳躍し、怯んだ魔狼に向けてナイフを突き立て、蹴り飛ばし、拳を叩き込み、次々に魔狼を屠っていく。魔狼の方もヒビキさんに果敢に挑んでいくけど、ヒビキさんの動きが常人離れしていて、手も足も出ていない。


「行くぞっ!」


「応よっ!」


 ミルコさんたちも長剣を振るって魔狼を叩き切り、盾で魔狼の突撃を防ぎながら攻撃を加えていく。こちらもレーズィさんの支援が入っているので、並みの冒険者さんたち以上の働きができている。流石はB級冒険者だ。


「やるぞ、ユーリ」


「任せろ、姉ちゃん!」


 ユリアさんとユーリ君も戦闘に加わる。


 ユリアさんはミルコさんたちの脇から抜けて背後のレーズィさんたちに迫る魔狼を的確に射抜いていき、ユーリ君はヒビキさんの死角となる部位の魔狼を射抜いていく。この姉弟さんたちは凄い腕前だ。あんなに動き回る魔狼に矢を当てれるなんて。


 やっぱり山育ちだからなのかな?


 ボクがそんなことを考えている間にも魔狼の群れは次々に突進してくる。


 ヒビキさんはもう血塗れで、無心に魔狼を八つ裂きにしている。魔狼たちはヒビキさんに食らいつくも、義肢に噛みつけただけに終わり、ナイフと拳、そして蹴りによって次々に排除されていく。相変わらずヒビキさんは常識では考えてはいけない動きをしているよ。魔狼を数秒で5、6体屠ってしまうんだもの。


「そろそろ終わりか?」


「まだだ。でかいの来るぞ」


 ミルコさんが息を吐くのに、ユリアさんがそう告げる。


 でかいのって何? 何が来るの?


 ボクがそんなことを考えていると上空から羽音がしてきた。


 グリフォンだ! それも4体!?


「ミーナ君。あれを叩き落せるか?」


「任せるデス! <<火球落下>>!」


 魔狼を屠り切ったヒビキさんが尋ねるのに、ミーナさんがそう詠唱する。


 それと同時に空に魔法陣が浮かび上がり、そこから上空を旋回する4体のグリフォンに向けて火球が放たれた。火球はグリフォンに命中し、炸裂すると、グリフォンを地面に叩き落した。グリフォンが鳴き声を上げながら落下する。


「ナイスだ、ミーナ君」


 ヒビキさんはミーナさんが叩き落したグリフォンに向けて飛躍する。


「キイイィィッ!」


「悪く思うな」


 グリフォンが空中で姿勢を立て直そうとするのに、ヒビキさんが回し蹴りを叩き込んだ。グリフォンの首の骨があらぬ方に向けてへし折れ、グリフォンは無残にも地上にそのまま突っ込む。


「キイイイィィィッ!」


「<<活力低下>>!」


 地上に落ちても血気盛んな3体のグリフォンに向けてレーズィさんが魔術を放つ。


 すると、見るからにグリフォンの勢いがなくなり、及び腰にヒビキさんを取り囲もうとするだけになった。


「まだ逃げないということはそういうことだな」


 ヒビキさんはそう告げると、グリフォンに飛び掛かる。


 グリフォンも巨大な腕を振るってヒビキさんを迎え撃つのだが、ヒビキさんはそのままグリフォンの攻撃を払いのけ、グリフォンの胸元に飛び込むとその心臓にナイフを突き立てた。そして抉るようにナイフが抜かれたとき、大量の血液が噴き出す。


「キイ! キイィッ!」


「まだやるのか」


 グリフォンの1体がヒビキさんに向けて突撃するのにヒビキさんが大きく足を振り上げてグリフォンの頭を蹴り上げる。グリフォンの首が折れる音が鳴り響くと、グリフォンは痙攣しながら地面に崩れ落ちた。


「キイイィィッ!」


 そして、最後の1体はヒビキさんを避け、ミルコさんの方に突撃してきた!


「クソ! やるか!」


 リオさんが盾を構え、ミルコさんが長剣を構えて迎撃の姿勢を取る。


 グリフォンが不意に動きを止めたのは次の瞬間だった。


 グリフォンは上空を見上げると、悲鳴のような鳴き声を上げて飛び立とうとする。


 そこに炎が浴びせかけられた!


 ミーナさんでもレベッカさんでもない。


 炎を浴びせたのは──。


「新生竜っ!?」


 上空から丸焦げにしたグリフォンに向けて降下してきたのは新生竜だった!


…………………

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