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錬金術師さんと街の危険

…………………


 ──錬金術師さんと街の危険



 エステル師匠が上級ポーションを作ったので、ボクたちはトールベルクの街までそれを売りに行くことになった。ボクとしてはトールベルクで食事をしたり、買い物をしたりと楽しみなことでいっぱいだ!


「今度はガルゼッリなんとかの奴に邪魔されないといいんだがね」


「そうですねー。平和に行きたいところです」


 エステル師匠がため息交じりに告げるのにボクが同意する。


 尾行されたり、殺されそうになったり、ガルゼッリ・ファミリーの人は余計なことしかしない。本当に静かにしておいてもらいたいよ!


「だが、今回も騎士の護衛を受けるのだろう?」


「そうさね。でも、相手は騎士ごと叩き切ろうとする狂犬だ。何をするのか分かったものではない。不必要な事件にはもう巻き込まれたくないものだ」


 そう言っておいて、この間はエステル師匠からトラブルに突っ込んだのに。


「さて、上級ポーションをインゴの店に卸す前に騎士団に会いに行こうか」


「ラジャ!」


 というわけで、ボクたちはゾーニャさんの下へ。


「おお。これはリーゼ殿、エステル殿、レーズィ殿、ヒビキ殿。よくいらっしゃった」


 もう騎士団の人とは顔なじみである。


 ゾーニャさんからの手紙によるとあれから貧民街を捜索して、違法ポーションの拠点を5か所も制圧したそうだ。やはり精製施設は地下にあり、これまで捜査の手を逃れていたものが、ボクたち──というかエステル師匠とヒビキさんの活躍で明らかになった情報から摘発できたと感謝する旨が記されていた。


 まあ、ボクは何の役にも立ってませんでしたけどね!


 それはともあれ、これで治安もちょっとは回復したのかな?


「リーゼ! 待っていたぞ!」


「お久しぶりです、ゾーニャさん」


 何の役にも立たなかったボクですが、ゾーニャさんからの好感度は何故か上がっている。なんでもあの時ポーションで助けたことがプラスになっているらしい。それになんだかんだで最初にゾーニャさんとの縁を作ったのはボクである。


「今日もポーションを卸しに来たのだな。だが、気を付けてくれ。この街は些か物騒になってきている。特に外から来た人間は危ない」


「え? 取り締まりで治安回復したんじゃないんですか?」


「そうであることを願いたかったが、残念なことに治安は悪化した。これまでネッビアの製造に関わっていった錬金術師たちが行方をくらまし、この街のどこかに隠れたようなのだ。そして、次は突き止められまいと外から来た人間や騎士団の団員などを見張っているのだ」


「それは……」


 違法ポーションの製造拠点を押さえたからよかったのかと思ったら、そうではなかったらしい。悪い人たちはどこかに行方をくらませて、騎士団に捜査されることや、外から来た人が組織に紛れ込むことに警戒して、街中に潜んでいるそうである。


 そのせいで外から来た観光客が件のガルゼッリ・ファミリーに脅されてついでに金品を巻き上げられたり、疑われて殺傷されたりしているのだとか。


 思いっ切り外から来たボクたちはとても危ない!


 まあ、ゾーニャさんが護衛についてくれるし、こっちには無敵のヒビキさんもいるから大丈夫だとは思うけど。


「では気を付けないといけないですね」


「うむ。奴らは通り魔的犯行に及ぶこともあると聞いている。ヒビキとエステル、レーズィも注意してくれ」


 というわけで、ボクたちはゾーニャさんの護衛を受けて、インゴさんの店へ。


 街中をよくよく観察しながら道を進むと、確かにちょっと街の人たちの視線が険しくなっているような気がする。それがガルゼッリ・ファミリーの人たちのせいなのかは分からないけれど。けど、これは心が荒むってものだよ。


「インゴ。エステル様が来てやったぞ」


「おいおい。今度はどうした? この間の騒ぎの続きじゃないだろうな?」


「違うよ。ポーションだ。さあ、茶と茶菓子を出しな」


 エステル師匠はいつもの調子でインゴさんにお茶を要求する。


「ったく。今回も上級ポーションか?」


「そうさね。活きのいいヒュドラが討伐されたもんで、その素材を使った上級ポーションだ。毒袋も毒抜きして、極上の体力回復ポーションになってるよ。ささ、さっさと商談に入ろうじゃないか、ええ?」


「活きのいいヒュドラって……。あの村は魔窟か何かか」


「さてね。まあ、なんにせよヒュドラはくたばった。これからは商売の話だ。急いで茶を淹れて、茶菓子を準備しな」


 まあ、レッドドラゴンに加えて新生竜が7体も出現して、挙句ヒュドラまで出没するようになったら、平和が取り柄のヴァルトハウゼン村の平和って言葉に疑問符が付くよね。なんでこうも魔獣が集まってくるんだろう?


「分かった、分かった。ヨハン、店番を頼むぞ」


「はい、店長」


 いつものようにインゴさんはカウンターから離れ、ヨハン君がカウンターで店番をする。ヨハン君はいつものように落ち着いた様子でカウンターに着いて、黙々と仕事を行う。ヨハン君はどんなの子なのかいまいち分からない。


「ヨハン君。好きな食べ物とかある?」


「好きな食べ物ですか? 自分はシュークリームが好きですね」


「そうなんだ! ボクもシュークリームは大好物だよ! トールベルクの街に来たら必ず買って帰るんだ。ヴァルトハウゼン村にはシュークリームはないからね……」


「それは不便ですね……。しかし、街道の工事が進んでいて、もうすぐ街と繋がると聞いています。シュークリームは難しいかもしれませんが、他のお菓子なら手に入るようになるのではないでしょうか?」


 そうなのか。仮に街道が完成しても、シュークリームのように日持ちしないお菓子は、街道で暢気に運んでいたら腐ってしまう。


 街道は大量輸送には向いているけれど、いかんせん輸送速度は飛行船に劣る。


 まあ、村が大きくなったらお菓子職人の人たちも越してくるかもしれないし、村で出来立てのお菓子を食べるのも夢じゃないかもしれない。


「それでね、ヨハン君。この間ヒュドラが出没したけれど、ヒビキさんたちがあっという間に討伐しちゃったんだよ。もちろんレーズィさんやユーリ君も手伝ったけど、やっぱりヒビキさんの活躍はすさまじいというか──」


「いつまで喋ってるんだい、馬鹿弟子。さっさとこっちに来な」


「ラ、ラジャ!」


 今回もボクが一方的に話しているような気がするけど、ヨハン君は心なしか興味を示しかけてきた。だが、今回もエステル師匠の一言で、会話は終わってしまった。


「それでいくらで買い取る?」


「ふうむ。この毒袋は上手く処理されている。これだけならば30万マルクは出していいだろう。それで、どうだ?」


「ふざけんな。ヒュドラの毒袋を処理するのは命がけだよ。全部で120万マルク」


「冗談じゃない。うちの店にそんな大金があるはずないだろう。ここは──」


 こうしてエステル師匠とインゴさんの値段交渉が始まった。


 エステル師匠は今回のヒュドラがどれだけ希少な素材を用いたものであるか、そして処理が大変だったことを主張する。一方のインゴさんは店の事情を考えてくれと主張して値引きを交渉する。お互いにビシビシやり合っている。


「じゃあ、75万マルクだ」


「ちっ。それでいいよ」


 今回は素材代をヒビキさんのパーティーに支払わなければならないので、代金は多めに貰っておきたい。けど、ヒュドラの素材なんて滅多なことじゃ市場に出回ることはないし、価格をどう設定していいものか分からない。


「それから聞いておきたいんだけど、あんたの店は嫌がらせやらは受けてないかい?」


「大丈夫だ。俺もお前がガルゼッリ・ファミリーの連中とやり合ったと聞いて、一時はこの店にも連中が押し入ってくるんじゃないかと思ったが、連中はここまでマークしてないか、それか俺のようなほぼ無関係な奴に人間を割く余裕はないらしい」


「ふむ。なら、いいけどね」


 エステル師匠、インゴさんのことも心配してたんだ。


 確かにインゴさんはボクたちと取引してるし、ボクたちはガルゼッリ・ファミリーの人たちと揉め事──というか戦闘を起こした。その報復にインゴさんが狙われる可能性はあっただろう。インゴさんはボクたちと違ってトールベルクに住んでいるわけだし。


「だが、用心された方がいい、インゴ店長。ガルゼッリ・ファミリーは最近は見境がなくなっている。不安ならば警護のものを夜間だけでも配置しますが」


「いや、それこそ大ごとになりそうなんでね。こっちは無関係って面を決め込むとするよ。だが、何かあったら泣きつかせてもらってもいいかね?」


「もちろんです。我々は帝国臣民の安全を守るためにいるのですから」


 ゾーニャさんは立派な人だ。騎士の中でも貧乏騎士なんかは庶民から金をゆするような悪い人もいるのに。


「そっちこそ用心しろよ、エステル。お前はガルゼッリ・ファミリーを襲撃してるんだからな。この街にいるときは重々用心した方がいいぞ。ここ最近だけでもガルゼッリ・ファミリー絡みで5人は死んでる」


「あいよ。こっちにゃ騎士殿もいるし、ヒビキもいる。そう簡単にゃやられんよ」


「そうだといいがな。俺も腕のいい錬金術師との取引を止めたくはない」


 ボクたちも何気に危ないんだよなー。あの禿げ頭の人──ヘニングって人はエステル師匠のこと知ってるみたいだったし、ヒビキさんとボク、レーズィさんも姿を見られているし、街中で襲われたりしたら大変だよ。


「まあ、気を付けておくよ。あんたも気を付けな」


「あいよ。じゃあ、また上級ポーションが手に入ったら頼むぞ。お前さんのポーションはここを拠点にしてるA級冒険者に人気だ」


「なら、もうちっと金を出してくれてもいいんじゃないかい」


 エステル師匠とインゴさんはそう言葉を交わして別れた。


「さて、何か美味いものでも食うか。それはそうとして、ヒビキ、これはあんたたちのパーティーの取り分だ」


「む? ほとんど全てではないか。こんなには貰えないぞ」


 エステル師匠はインゴさんから渡された代金から10万マルク程度抜くと、残りを全部ヒビキさんに渡しちゃった。


「いいんだよ。レーズィもまだまだ金がいるみたいだし、ユーリって小僧はまだまだ装備が不十分なんだろう。これを渡してやりな。もちろん、あんたの取り分も忘れるな。あんたは広告を出すと言ってただろう。仲間を探すために」


「ふむ。確かにそうだが、いいのか?」


「いいのさ。ヒュドラを仕留めるのは苦労しただろう。働いたら対価が貰えるものさ」


 わお。エステル師匠が太っ腹だ。


 まあ、今のところうちの財政は困ってないから、ヒビキさんに儲けをあげても問題はないのだ。それより日ごろからお世話になっているヒビキさんに渡して、恩返しをするのはいいことだと思うよ!


「すまない。では、ありがたくいただく。それで広告の件なのだが」


「その前に食事だ。今日はがっつりとしたものが食べたい気分──」


「エステル、伏せろ!」


 ヒビキさんが突然そう告げると、エステル師匠を押し倒した!


 そして、すぐにカンッと地面に何かが弾ける音がした。矢だ!


「3時の方向! クロスボウを持った男が屋根にいる! ゾーニャ君、警戒しろ!」


「分かりました!」


 あわわわ! トールベルクの街の中で戦闘が始まってしまった!


…………………

新連載など始めております。

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よろしければ覗いてみてください。

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