軍人さんと活躍の話
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──軍人さんと活躍の話
「どこからお話ししましょうか?」
「君たちがガルゼッリ・ファミリーと関わることになったきっかけから頼もうか」
「それは最初にトールベルクを訪れたときに──」
俺は素直に、脚色も欺瞞も含めずガルゼッリ・ファミリーとの関係について話した。最初に尾行していたゾーニャ君がガルゼッリ・ファミリーの人間に襲われ、そこから繋がりができたということを。
その話をファルケンハウゼン子爵は相槌を打ちながら穏やかに聞き、フィーネ嬢は興味深そうに前のめりになりながら聞いていた。
「それで、違法ポーション──ネッビアというポーションの摘発はどのように行われたのかね?」
「まずはエステルが囮となり──」
俺はあの時の状況を話す。
まずエステルが囮になるのに俺は完全に人込みに紛れて、その様子を窺っていた。怪し気な男たちがエステルを観察していることに気付き、エステルではなくその男たちの方をマークして尾行した。
男たちは俺の尾行には気付かず、そのまま彼女を拠点に案内した。
俺は拠点の内部に聞き耳を立てるべく、付近の建物の屋上を辿って、目的の建物の屋上に忍び込み、屋上から内部に侵入した。
この手の隠密行動は日本情報軍特殊作戦部隊で叩き込まれている。俺は物音ひとつ立てることなく拠点の内部に侵入し、エステルが拠点内部に案内されていることを確認し、そのことを周辺から包囲を固めている騎士団に窓から合図した。
そこでエステルが戦端を開いたため、俺は急遽騎士団に緊急事態を知らせ2階から1階にかけての部屋に駐留していたガルゼッリ・ファミリーの人間たちを制圧し、エステルのいる地下に向けて突入するために床を蹴り破って地下室に押し入った。
あの貧民街の建物はお世辞にも立派な作りとは言えず、俺の体重を乗せた拳を受けて呆気なく床は崩壊した。
それからはエステルと合流し、あの奇妙な少女と戦ったのだ。
「なるほど。君は本当に優れた冒険者のようだな。レッドドラゴンを蹴り殺したと聞いたときは耳を疑ったが、それだけの離れ業がやれるのであれば驚くことではないな。帝国の治安を改善させることに協力してくれたことについて、帝国貴族として礼を言おう」
「いえ。こちらも帝国で暮らすものとして当然のことをしたまでです」
実際のところ、帝国については俺は特に何の感情も抱いていない。
俺が忠誠を誓ったのは日本国だ。帝国ではない。俺はその生き残るための戦略として、現地住民との友好的関係維持に努めているが、帝国については深く関わるつもりはないのだ。ゾーニャ君に協力したのも、ひとえに彼女が既に友好的なエステル君たちに関係のある友好的な現地住民だからに過ぎない。
俺は自分のことを帝国臣民だと名乗るつもりもなければ、帝国に忠誠を誓うつもりもない。俺はあくまで日本国に帰還するまで、この場所に滞在するだけだ。
「しかし、そのガルゼッリ・ファミリーというのは面倒な存在だな。トールベルクの拠点を叩かれたことで分散したりなどしなければいいのだが……」
ファルケンハウゼン子爵は本当にそれを心配していると俺の観察では判断できた。やはり、ファルケンハウゼン子爵がガルゼッリ・ファミリーに繋がっているという考えは俺のパラノイア染みた情報軍での悪い癖らしい。
「……怖いです……」
「大丈夫だ、フィーネ。いざという場合は、ヴァルトハウゼン村の冒険者ギルドに依頼を出そう。違法ポーションを生産している悪い人たちをやっつけてくださいとな」
そう告げて、ファルケンハウゼン子爵は俺に笑いかけた。
まあ、冒険者ギルドにそのような依頼が来たら、俺たちが受けることになるだろう。ミルコ君たちでもいいのかもしれないが、クリスタが言うには冒険者と傭兵の違いは対人戦と対魔獣戦の比率だという。
冒険者たちは基本的に対人戦を行わない。当然ながらいくつもの例外もあるが、基本的に対人戦──戦争に駆り出されるのは傭兵たちだ。そして、傭兵たちはそのことで人を殺しなれているが、冒険者はそうでもない。ミルコ君も人を殺したことはないだろう。
その分、冒険者は対魔獣戦の経験が豊富だ。少ないパーティーメンバーで、山や森に潜む魔獣を相手するのは傭兵などより、冒険者の方が優れている。
よって、冒険者ギルドに対人戦であるガルゼッリ・ファミリーの討伐依頼が来た場合は、対人戦が豊富である俺が引き受けることになるだろう。果たしてユーリ君は人を相手にして弓を引くことができるだろうか?
「フィーネ嬢。心配なさらず。トールベルクの拠点はまだ全て潰せたわけではありません。灰狼騎士団の調査ではトールベルクの街にはまだまだネッビアの製造拠点が残っているそうです。犯罪組織もそう簡単には拠点を変えないでしょう」
「……そうであることを望みます……」
俺たちが潰した製造拠点は1か所だけだ。トールベルクには少なくとも10ヵ所以上のネッビアの製造拠点があると灰狼騎士団は睨んでいる。俺たちが潰したのはほんの氷山の一角にすぎないのだ。
「あの、子爵閣下。よろしければこれをどうぞ」
ここでリーゼ君がおずおずとポーションを差し出した。
「これはエステル殿が?」
「はい。これから夏風邪やらが流行ってくることでしょうし、それを治療するためのポーションです。フィーネさんは体が弱いようなので受け取ってください」
「すまない。実に助かる。エステル殿が作ったポーションは中央の宮廷錬金術師が作ったものに匹敵する。この子も病気がちだから、ありがたく使わせてもらうよ」
「はいっ! 今後ともご贔屓に!」
上級ポーションは風邪薬か。上級ポーションのとんでもない性能──肝臓を刺された患者の傷を瞬く間に癒してしまうなどの性能を現実のものとして見れば、この風邪薬も効果抜群であろうことは想像に難くない。
「それではヒビキ君。これまでの活躍をフィーネに聞かせてやってくれるだろうか?」
「この間の話を似たようなものになりますが……」
「構わない。この子もそれを聞きたがっているんだ」
仕方なく、俺はレッドドラゴンと交戦したことや、コカトリスやグリフォンを相手にしたこと。そして、新生竜7体を相手にしたこと、この間の石切り場で複数のコカトリスを相手にしたことを語って聞かせた。
「……凄いです……」
フィーネ嬢はワクワクした様子で俺の話を聞いている。血生臭い話だというのに。
「それとミノタウロスの相手もしましたよ。ミノタウロスの数は3体。いつものようにレーズィ君が魔術をかけて、そこを拳と足で片づけました。ひやりとさせられる部分はなく、仲間の援護のおかげで穏便に事を済ませられました」
「……ミノタウロス3体……」
フィーネ嬢の目がキラキラと輝く。
よほど娯楽に飢えているのだろう。このような前とほとんど同じ話でここまで興味を示してもらえるとは。
「……あなたは凄いです……」
「これは仲間たちとの連携があったからこその勝利です。自分だけでは勝利できなかったでしょう。あのような怪物を3体も相手にしては」
これは俺だけの勝利ではないと強調しておく。
これはクエストに参加し、ミノタウロス3体を仕留めるに至った過程で重要な役割を果たしたレーズィ君たちが正当に評価されることを願ってのことだ。
レーズィ君もユーリ君も本来ならばここにいて、称賛を受けるべきなのだ。
「ふむ。ヒビキ殿は迷い人だと聞いているが、前の世界では何をしていたのかね?」
「軍にいました」
そして、薄汚れた仕事を行ってきました。
「ヒビキ君の腕前ならば、兵士たちの訓練を頼みたいくらいだ」
「申し訳ありません。生憎、自分はヴァルトハウゼン村を拠点にしているので」
「分かっているよ。無理は言わない」
兵士を訓練しようにも俺は槍や弓で戦う軍隊と接したことはない。基本的な戦術などについては教えられるだろうが、細かな武器の取り扱いについてはさっぱりだ。詳しいことは教えられそうにないだろう。
「……騎士にはなってくれませんか……?」
「生憎、騎士としての素養がありませんし、自分はヴァルトハウゼン村を拠点に冒険者をして過ごしていくと決めているので」
フィーネ嬢はやはり俺に騎士になってもらいたいらしい。
だが、俺は騎士に必要とされる素養を有さないし、ヴァルトハウゼン村から離れるわけにはいかない。俺はフィーネ嬢の騎士にはなれない。
「……そうですか……」
フィーネ嬢が見るからにがっくりとする。
「さて、お茶でも飲みながらヴァルトハウゼン村の近状について聞かせてもらおう。なんでも街道の工事が本格化したとか。レーズィという女性が作ったゴーレムが恐ろしいほどの労働力を示しているそうだね」
「ええ。彼女のゴーレムは驚異的です。200日以内には街道が完成するでしょう」
ファルケンハウゼン子爵はレーズィ君のゴーレムへの出資者だ。少しでも彼女のゴーレムが役立つことをアピールしておこう。
「ふむ。200日以内でか。それにしてはかかる費用も少ない。ゴーレムというのは本当に優れた労働力となりそうだな……」
ファルケンハウゼン子爵がそう告げて顎をさする。
何か考えているらしい。恐らく、リーゼ君と同じようにゴーレムが普及することで既存の職に就いているものが影響を受けるのではないかと考えているのだろう。
「ゴーレムはまだまだ肉体労働程度で高度な人間の判断が必要とすることは行えません。直ちに深刻な影響がでることはないでしょう」
「だといいのだが。施政者としては住民が職を失ってしまうことは困る」
すぐには人間の労働はなくならないだろう。徐々に置き換えられていくだけだ。
最初は簡単な作業から。そして、徐々に学習して難しいことが行えるようになる。それはリーゼ君の代だけで起きるような進歩ではないはずだ。
「……アンネリーゼさん──錬金術師さんの方はヴァルトハウゼン村でヒビキさんと一緒に過ごしているのですよね……?」
「そうですよ! ヒビキさんはとっても親切だから助かってます!」
フィーネ嬢がぼそぼそと尋ねるのに、リーゼ君が朗らかな笑顔で告げる。
「……やはり、一緒に素材を集めに行ったりするのですか……?」
「そうですね。山にしかない素材はヒビキさんの護衛で採取しています。ラインハルトの山もシュトレッケンバッハの山も魔獣が物騒ですからね」
何やらフィーネ嬢の視線に嫉妬の色が窺える。
「……私は魔狼の群れから助けてもらいました……」
「あっ! ボクもですよ! ヒビキさんがあっという間に倒してしまったんで凄かったです! それにオークの群れも簡単にやっつけちゃいますし。それもひとりで!」
「……ひとりでオークの群れを……」
リーゼ君が自慢げに語るのに、フィーネ嬢が驚いたような表情を浮かべる。
「……私もヒビキさんの護衛を受けたいです……。……今度、一緒に私も素材集めにいってもいいですか……?」
「そ、それはファルケンハウゼン子爵閣下が許さないのでは……?」
フィーネ君の言葉にリーゼ君が困ったような視線で俺を見る。
確かに大事な娘を魔獣で溢れる山に送るような親はいないだろう。ファルケンハウゼン子爵も否定するはずだ。
「フィーネ。わがままを言ってはいけないよ。ヒビキ殿とアンネリーゼ殿の仕事は命の危険と隣り合わせなのだ。それに簡単に加わろうとするのは、ヒビキさんたちの足を引っ張る行為だと認識しなさい。それに私は許すつもりはない」
「……そうですか……」
ファルケンハウゼン子爵のもっともな意見にフィーネ君が見るからに意気消沈する。だが、実際に守らなければならない対象が増えた状況で任務を行うのは難しい。まして、今の俺たちのパーティーには3名しかいないのだから。
「では、次はリーゼ君の話を聞かせて貰おうか」
「そうですね。では、ボクはヒビキさんと出会ったときから!」
そう告げてリーゼ君はいろいろと豊富な俺との付き合いを喋っていた。
時折、錬金術師としてのリーゼ君の活躍も挟まれる。
「こんなところです。楽しんでもらえましたか?」
「……とても……」
リーゼ君が尋ねるのに、フィーネ嬢が頷いて見せる。
「では、今日はここまで来てくれてありがとう。お土産にこれを持って行ってくれ。エステル殿が好きそうな蒸留酒だ。君も飲むのだろう、ヒビキ殿?」
「俺は酒はあまり。付き合いで飲む程度です」
「ふむ。下戸なのかね?」
「そんなところです」
実際はいくら飲んでも酔うことはないが、ナノマシンに負荷がかかる。
「では、今日はこの辺りで。失礼します」
「ああ。また来ておくれ」
騎士の話題を振ってくるのはフィーネ嬢だけでファルケンハウゼン子爵は否定している。無理やり騎士にされることはないだろう。
「お菓子美味しかったですね、ヒビキさん!」
「ああ。いい紅茶だった」
俺たちはそれぞれの感想を告げると、また飛行船でヴァルトハウゼン村に帰還した。
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