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錬金術師さんとゴーレムの街道作り

…………………


 ──錬金術師さんとゴーレムの街道作り



 3体のゴーレムが新たに完成し、レーズィさんが街道を作り始めることになった。


「必要な資材はこちらで揃えますから、何か足りなければ何なりと言ってください」


「はい! お願いしますよう!」


 ハンスさんが鼻の下を伸ばしながらレーズィさんにそう告げる。全く、ハンスさんってばレーズィさんを見るとデレデレしちゃうんだから!


「ところで街道工事ってどんな風にやるんです?」


「それについてはちょっと知識がありますよう!」


 ボクは街道を見たことはあるけど、街道の作り方は知らないや。


「実践しながらお見せしますねえ。まずは材料の確認から……」


 レーズィさんはそう告げながら、開拓局の大きな倉庫に向かう。


「砂利はありますけど、ちょっと量が不安ですねえ。石材も数がちょっと……」


 開拓局の倉庫には大きさ様々の砂利と切り出された石材が置かれていた。だけど、レーズィさんが心配するようにちょびっとだ。これじゃあ、どう見ても村から今ある街道までの道のりは作れそうにないよ。


「材料が足りないならハンスさんが調達してくれるって言ってましたよ」


「そうですねえ。とりあえずあるだけの材料で作ってみましょうか」


 レーズィさんはそう告げると、ゴーレムに樽に納められた砂利と石材を運ばせて、村の入り口に向かう。


「ここがスタート地点ですね」


「ええ。ここから始めますよう!」


 いつ見ても村の入り口から伸びる道路は酷いものだ。この間の雨で道路はぐずぐずになり、轍の後に水が溜まっている。こんなぬかるんだ道じゃ、馬を走らせるだけでも一苦労だ。ちょっと間違えば車輪がぬめり込んで馬車は動かなくなってしまうだろう。


「道路の図面はもう引いておいたので実行するのみです! さあ、レーズィ式魔道ゴーレム2号、作業開始ですよう!」


 レーズィさんちょくちょく出かけてると思ったら図面を引いてたのか。レーズィさんってば労働をなくそうって言っている割にかなりの働き者だよね。


「まずは穴を掘って……」


 レーズィさんのゴーレムたちがスコップを手にすると黙々と穴を掘り始めた。ゴーレムだからか凄い速さで穴が掘られていく。みるみる間にぬかるんだ道路の表面は消え去り、2メートルほどの穴が開け地盤が剥き出しになった。


 深さ2メートルの穴が長さ10メートル。


 それが完成するのをボクたちはお弁当を食べながら眺めていた。


「ええっと。次は地盤を固めて……」


 ゴーレムたちがそれぞれの道具を使って地面を均していく。ドッスンドッスンと大きな木槌を使って道路の基盤になる地面をしっかりと固める。ゴーレムたちはこの暑さの中でも文句を言うことなく、作業に当たっていた。


「さて、土を固めたらそこにまずは大きめの砂利を敷き詰めて……」


 レーズィさんの命令でゴーレムたちは掘った穴に砂利を注ぐ。


 まず注がれたのはサイズの大きな砂利。手の平ほどの砂利でほとんど石と呼んでいい感じのものがざらららっとゴーレムたちが掘った穴に注がれていく。ボクたちは見ているだけで、特に何もしない。3体のゴーレムが手際よく作業を行うのを眺めるのみだ。


「そして、次はもうちょっと細かな砂利を注いで……」


 ここら辺の砂利は湖から流れる川から採取される。湖から流れる川は村の端を通り、別の川と合流して海へと流れていく。この川は川幅が狭いので運河として利用することは難しいそうだ。この川が川幅があってトールベルクまで繋がってたら、言うことなしだったんだけどね。


「これらの上に粘土質の土を被せていって……」


 砂利の上にゴーレムが粘土を流し込んでいく。この粘土はどこから採取してきたものなのだろうか? ボクには分からないや。多分、村の傍で採取できると思うんだけど。


「最後に岩を被せたら完成です!」


 ここで石材が重しのように投入される。


 ゴーレムは長方形に切り出された岩をぴったりと嵌まるように当てはめていき、いよいよ光景が街道らしくなってきた。


 岩には微妙に傾斜がつけられ、雨水が街道の脇に逸れるようになっている。流石はレーズィさん。ちゃんと計算してるんだね。


「けど、材料は使い切っちゃいましたね」


「そうですねえ。たったの10メートルしかできませんでしたよう」


 10メートル。村の玄関口が整備されたと思う程度である。ここから既存の街道までは数キロの距離があるので気長な作業になるだろう。


「もう日も暮れますし、一度家に帰りませんか? 明日、様子を見に来ましょう」


「そうしましょう。ゴーレムたちは作業が終われば跡片付けをしてくれますし」


 ボクが提案するのにレーズィさんが頷き、この日はこれでお終いとなった。


 明日には10メートル完成した街道を見にオスヴァルトさんたちもやってくるだろう。1日で10メートルだから完成するまでには何日かかるのかな? 始まったばかりのことながらちょっとばかり気が遠くなりそうだよ……。


…………………


…………………


 翌朝。


 ボクたちは開拓局に行って作業状況を申告してきた。


「もう10メートルも完成したと?」


「はい。その代わり倉庫の中の材料はほとんど使い果たしてしまいましたが……」


 オスヴァルトさんが驚くのに、レーズィさんがそう告げる。


「まあ、凄いですから出来栄えを見てくださいよ」


「ふむ。では見させてもらおう」


 こうしてボクたちとオスヴァルトさんは村の入り口に。


「ほう。確かに街道が。それもここまで立派なものとは……」


 オスヴァルトさんがレーズィさんのゴーレムが作った街道に感嘆の息を漏らす。


「これを1日で?」


「はい。1日で完成しましたよう」


「確かにゴーレムというのは素晴らしい労働力のようですな……」


 ゴーレムってばザックザック穴掘って、パパッと街道に変えちゃうんだもんね。これは驚くというものだよ。驚かない方がどうかしている。


「では、これからゴーレムを増産すればもっと開発速度を上げることは可能ですか? 例えば1日に50メートルなど。もっと長い距離の街道を作るということは可能ですかな?」


「ええ。理論上は可能ですよう。ただ、ゴーレムを増産するにしても鍛冶職人さんに頑張ってもらわないといけないですし、街道建築に必要な建築資材の方も調達数を増やさなければなりませんが……」


「ふうむ。どれも人手と時間が必要ですな……」


 鍛冶職人さんがゴーレムを追加で作るのにも時間がかかるし、建築資材を集めるにも人手と時間が必要になる。困ったものだ。


「ですが、全く希望がない状況から希望の持てる状況になったのですから、喜ぶべきでしょう。建築資材についてはこの近くに岩場がありますし、ゴーレムの外装についてはトールベルクの方にも発注しましょう。他に必要なものは?」


「ゴーレムの中に詰める土嚢が地味に足りてないですねえ。この間、ニシノアサ草農家さんのところに行ったら、もう収穫は終わって在庫がないとのことでしたから」


「では、それもトールベルクに発注しましょう。あそこなら年中、季節を問わずにニシノアサ草を取り扱っていますからな」


 おお。トールベルクから取り寄せるのか。馬車が依然として使えない状況では飛行船しか輸送手段がないし、飛行船の運賃とか凄いことになりそうだけど大丈夫なのかな?


「とにかく、必要なものはこれからはこちらが用意させていただきましょう。それからこのゴーレム3体をまず開拓局で買い取らせていただきたい。値段はそうですね。150万マルクでどうでしょうか?」


「1、150万マルク……」


 いけない! レーズィさんが卒倒しそうだ!


「それで融資を返済し、これからの作業においては遂次そちらの製造したゴーレムを買い取らせていただき、最大で15体までは増産したいと思います。ですので、そちらには更に600万マルクをお支払いすることになります。ただ、ゴーレムの原材料費などは差し引かせていただきますが」


「6、600万マルク……」


 レ、レーズィさんが卒倒しそうだ!


「構いませんか?」


「え、ええ。でも、大丈夫なんですか? そんな大金……」


「ゴーレムが実用にたるものだと立証できましたので、ファルケンハウゼン子爵閣下からも出資していただけますし、中央からの出資も見込めますからね。もちろん、ゴーレムに関する知的財産権はレーズィさんに帰属しますよ」


 おお。ファルケンハウゼン子爵閣下や中央が出資してくれるのかー。レーズィさんもこれからはお金に困らなそうだ!


「それに可能な限り迅速に街道を整備したい状況になっていましてな」


「というと?」


「ダンジョンです」


 そうだ。シュトレッケンバッハの山のダンジョンはまだ放置状態じゃないか!


「ダンジョンの存在を発表すれば冒険者たちがやってくるでしょう。ですが、この村は可能な限り自給自足ができるようにはなっているものの、あまりに増えすぎた人口は補えません。ですので、食料輸入も見越して、街道を整備する必要があるのですよ」


「なるほど」


 確かにこのヴァルトハウゼン村で食べ物に困ったことはないけれど、それは人口がそこまでの規模ではないからだ。これからダンジョンで一攫千金を求めて、冒険者の人たちが集まってきたら、今の食料生産量じゃちょっと不安かも?


「食糧難で治安が悪化してはせっかくのダンジョンも意味がない。ダンジョンという村の目玉を手に入れたのですから、それを活用するために動いていかなくては。ですので、頼めますか、レーズィさん?」


「お任せください! なんとしても街道を完成させて見せますよう!」


 レーズィさんが凄くやる気を出している。


 街道が完成すれば村も活性化するだろうし、ダンジョンから湧き出てくる魔獣もどうにかなるだろうし、いいこと尽くめだ。


「それでは開拓局で正式な契約を結びましょうか」


「はい!」


 こうしてレーズィさんはようやく融資という借金から解放された。


 これからは稼いだお金は全てゴーレムの新規開発に投入するとレーズィさんはやる気満々になっていた。なので、冒険者稼業も継続するそうだ。


 ヒビキさんはレーズィさんが多額のお金を手に入れたから冒険者を辞めるのではないだろうかと心配していたようだけど、その心配はなくなった。


「では、新たな門出に乾杯!」


 この日の夕ご飯はレーズィさんのゴーレム納品を受けてお祝いの場になった。


 エステル師匠もここぞとばかりにレーズィさんと一緒にまた蒸留酒で酔っぱらって、ヒビキさんとボクで跡片付けをすることになった。


「レーズィ君は夢が叶いそうでよかったな」


「でも、本当に労働がなくなる社会なんて実現できるんでしょうか?」


「分からない。俺の世界でも様々なものが機械の手に置き替えられたが、要所要所では人間の手は常に必要だった。だが、ここは異世界だろう。俺の世界とは違う。どういう発展をするのか楽しみじゃないか」


「そうは言いますけど、ボクの仕事がゴーレムに取られたら食べていけませんよ?」


 そうなのだ。ゴーレムに仕事を取られると、既存の職の人たちが食べるのに苦労するんじゃないだろうか。ボクのような錬金術師もゴーレムに仕事を取られちゃうかも!


「まだそんな心配はしなくていいと思うが、俺たちの世界では労働を機械で補っていく過程で専門職の人間の手は必要とされていた。ゴーレムにリーゼ君たち錬金術師のようにポーションを作らせるとしたら、ゴーレムにその知識を教えなければいけないだろう? そういう風に既存の職の人間も無人化に参加していったわけだ」


「ああ。なるほど……。でも、ゴーレムが学習し終えたらどうするんです?」


「今度はブランド作りだ。手製ということに価値を付ける。ゴーレムも最初は完璧なポーションは作れはしないだろう。そこで手製のポーションは品質の高く、高価値のものだというブランドイメージを宣伝する。そうすることでゴーレムによる生産に加えて、人間による生産を付け加えるんだ。まあ、確かにいずれはゴーレムが学習しきって錬金術師は不要となるかもしれないが、過渡期はそれでしのげるだろう」


「むう。やっぱりゴーレムは危険ですね……」


 白魔術師に加えてゴーレムが商売敵になった。ぐるる。


「遠い未来の話だよ、リーゼ君」


「分からないですよ。レーズィさんってばすっごく働き者ですから」


 ボクたちはそんな話をしながら、食器を片付けて酔っ払い2名をベッドに押し込んだ。


 きっと、エステル師匠はまた頭痛止めの丸薬が必要になるぞ。


…………………

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