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錬金術師さんと冒険者ギルド

本日5回目の更新です。

…………………


 ──錬金術師さんと冒険者ギルド



 無事、開拓局によるヒビキさんの身分証明書の発行が終わり、ボクたちは早速冒険者ギルドに向かった。


 まあ、冒険者ギルドといっても都市にあるような立派なものではなく、小ぢんまりとした建物に収まるものだ。それでもこの村を拠点にする冒険者は少なくなく、常時10名程度の冒険者たちが依頼を待っている。


 さて、かくいうボクも依頼を出さなければならないのだ。


 その前に──。


「ヒビキさん。今は働く当てがないんですよね?」


「ない。力仕事ならある程度自信があるのだが」


 ヒビキさんは迷い人としてこの世界に来たけど、働く当てはなし。


 ならば!


「ヒビキさん。冒険者登録しておいてみたらどうですか? この村だとそんなに大きな仕事はないですけど、生活していくだけのお金は稼げると思いますよ!」


「ふむ。冒険者の話を聞く限り、肉体労働専門の職業安定所のようなものだろうか。それならば、確かに登録しておいて損はない。だが、登録の際には100マルクが必要ではなかっただろうか? 生憎、持ち合わせがない」


「それならボクが払っておきますよ! 遠慮しないでください! レッドドラゴンから助けてもらったんですからっ!」


「すまない。迷惑をかける」


 ヒビキさんは義理堅い人みたい。100マルク程度のことなら、ちょっと貸してくれって頼んでくれても全然かまわなかったのに。


「では、冒険者ギルドへ!」


 バンッとボクが扉を開いて、冒険者ギルドに足を踏み入れた!


「リーゼ。その扉はいつも扱いの雑な冒険者たちのせいで壊れやすくなっているのですから丁寧に扱ってください」


「ごめんなさい……」


 ボクは冒険者ギルドに入ってそうそうに怒られていた。


 ボクを叱るのはこの北部冒険者連盟ヴァルトハウゼン村支部の支部長であるクリスタ・カリエールさん。エステル師匠と同じようにキリッとした大人の女性で、背丈は小柄なものの、いつも荒くれ者の冒険者たちを相手にしているだけあって気迫がある。


 年齢は秘密らしい。何歳なんだろう?


 ちなみにボクは今年で12歳!


「それで、何の用事ですかリーゼ。昨日はエステルが慌ててやってきて捜索の依頼を出そうとしていましたが、それと関係する話ですか?」


「はい。実はレッドドラゴンが討伐されて……」


「レッドドラゴンが? ラインハルトの山の?」


「ええ。あのレッドドラゴンです」


 ボクの告げる言葉にクリスタさんが目を丸くする。


 しかし、エステル師匠ってば冒険者ギルドに捜索願を本当に出そうとしてたんだ。心配かけちゃったな。申し訳ないです。


「驚きましたね。どこのパーティーが?」


「いえ。冒険者ギルドのパーティーとかではなく、ここにいるヒビキさんがなんとひとりで討伐したのです!」


 じゃじゃーんというようにボクはヒビキさんを紹介する。


「まさかおひとりで、あのレッドドラゴンを?」


「そのようだ。そこまで大層な仕事だとは思わなかったのだが……」


 クリスタさんが念入りに尋ねるのに、ヒビキさんは困ったようにそう返す。


 困ることなんてないのに! ヒビキさんが挙げた功績なんだから、もっともっーっと誇ってもいいのにさ! ヒビキさんってば謙虚な人なんだから!


「驚きました。確かなのですね、リーゼ?」


「確かだよ、クリスタさん。これからそのレッドドラゴンの素材回収の依頼を出すところだったんだ。それでお願いがあるんですけど」


「何ですか?」


「ヒビキさんを冒険者に登録してください!」


 依頼の前にヒビキさんを登録してもらわないと。依頼はヒビキさんにも引き受けてもらって、早速仕事を回したいと思っていたのだ。


「構いませんが。登録手続きについては説明してありますか?」


「うん。ボクが知っている限りのことは説明したよ」


 身分証明書が必要だとか、発行のために小銭が必要だとか。


「では、始めましょう。ようこそ、北部冒険者連盟ヴァルトハウゼン村支部へ。私は支部長のクリスタ・カリエールです。まずは北部冒険者連盟加盟国政府の発行した身分証明書、または現在の現在の身分を証明できる書類を提示願えますか?」


「これでいいだろうか?」


 クリスタさんが告げるのに、ヒビキさんが先ほど開拓局の印刷機で発行されたばかりの身分証明書を差し出す。


「開拓局が発行した身分証明書ですか。これでも問題ありませんが、政府が発行したものはありませんか? その方が手続きがスムーズに進むのですが」


「いや。生憎のところ、今の俺の身元を証明してくれるのはこれだけだ」


 別に開拓局の身分証明書でも問題ないよね? 問題があったら困るよ!


「分かりました。では、これで手続きを進めましょう。ご安心を。記入していただく書類が些か増えるだけです。問題は特にありません」


「助かる」


 助かったー。クリスタさんは規則に厳格な人でダメって言ったら、どう言っても絶対にダメって人だからね。厳格なのはいいことだと思うけど、もうちょっと柔軟性を持って欲しいというか……。


「では、こちらの書類に記入を願います。それが終わったらと黒く手続きに入ります」


「ああ。……しかし、奇妙だな……」


 ん? どうかしたのかな?


「どうかしました、ヒビキさん?」


「いや。昨日から疑問だったのだが、俺の言葉はちゃんと通じているか?」


「ええ。伝わってますけど」


 今更な話題だけど、どうしたんだろう。


「……どうして俺はこの世界の文字が読めるんだろうか……」


 あーっ! そうか! ヒビキさんはボクらが国の名前も知らないような異世界から来た人だった! それなのに普通に会話でコミュニケ―ションできたり、文字が読めたりするのは変だよね? どういうわけなんだろう?


「ふむ。些か疑問だ。俺の態度がおかしかったりすることはないか? 言葉が誤って伝わっているような感じはしなかったか?」


「そう言うことは何も。普通に伝わっていると思いますよ?」


 とはいっても、ヒビキさんが実際に何が言いたいのかボクが心を読めるわけじゃないから、文脈上でおかしな点がないか考えるだけである。けど、その文脈上でもおかしな点はなかったし、問題ないんじゃないかな?


「それならいいのだが。言葉のコミュニケーションはひとつ間違うと争いに繋がる」


 うーん、ヒビキさんは慎重派だな。ボクなら普通に言葉が伝わっただけで満足しちゃうな。けど、よく考えたらその地方では侮辱として扱われる言葉も、他の地方では普通に使われてたりするんだから、安心できないよね。


「書類は……これでいいか?」


「はい。確かに受理しました。しかし、この文字は些か……」


「やはりそうか」


 ボクが覗き込むと、そこにはカクカクした文字で“響輝”と記されていた。一体どこの文字なのか見当もつかないや。


「ここに読みを記しておく。問題ないはずだ」


「ええ。問題ありません」


 ヒビキさんは開拓局で発行された身分証明書に従ってあの奇妙でカクカクした文字にルビを振っていた。クリスタさんもこれで納得したようで、冒険者ギルドの登録手続きは無事に進んだ。


 ボクの方は登録手続きが済むまで暇なので、クエスト依頼の掲示板を眺めてみる。


 そこには未だにラインハルトの山のレッドドラゴン討伐依頼が残っていた。報酬は90万マルク。このヴァルトハウゼン村の村人が出しあった貴重な報酬だ。だが、ヒビキさんが来るまでこの依頼は誰も達成できなかった。


 ボクとエステル師匠も、山でポーションの材料になる薬草を採取しにいくので、このクエスト報酬にお金を出していた。確か10万マルクだったかな? ボクたちが個人としては領主様の次に一番お金を出していたはずだ。


 けど、このクエスト。ヒビキさんが何の手続きもせずに達成しちゃったから、誰も報酬が受け取れないんだよね。クリスタさんは規則に厳格というか、融通が利かない人だから、報酬の一部をヒビキさんに渡すなんてこともしないだろうし。


 もったいないなあ。


 他にもクエスト依頼の掲示板を眺めてみたが、収穫の手伝いとか、イノシシ退治とか、農家さんが出した比較的平和なクエストが並んでいる。けど、ラインハルトの山のレッドドラゴンがいなくなった今、他の魔獣が出てくるのは時間の問題だ。ここにも魔狼退治やゴブリン討伐などの冒険者が胸躍らせる依頼が並ぶだろう。


 ボクも魔獣除けポーションを今から作っておかないとね。ボクの作った魔獣除けポーションでも、ゴブリンぐらいなら、一発で頭をやられて酔っぱらったみたいになり、逃げ去っていくよ。ふふん。


「リーゼ君、ちょっといいだろうか?」


「はいはい!」


 ボクが受付カウンターに戻ると、ヒビキさんはちょうど登録手数料を支払うところだった。冒険者ギルドのギルドカードもただでは作れないので、こうして小さな手数料が取られるのだ。まあ、本当に少額だけど。


「では、これがギルドカードとなります。決してなくさないようになさってください。再発行には5000マルクかかりますからね」


「ああ。しかと受け取った」


 おっと。冒険者ギルドの登録が終わったらしい。


 ちなみにこの村では白パンが1斤が150マルクぐらい。体力回復ポーションの中級に当たり、軽い欠損部位が修復できるくらいなら3000マルクとちょっとお高い。だけれど疲労回復ポーションのしゃきっとするくらいの奴が300マルクと割安。


 疲労回復ポーションは作りやすいのだ。素材であるホホノナガレ草は山の麓で採取できるし、大して時間もかからず作ることはできる。だから、プレゼントの品としてはもってこいなのである。開拓村は疲れている人が多いし、薄利多売で疲労回復ポーションを売りさばくのは、経営方針の重要な柱のひとつなのです!


 体力回復ポーションの上級はかなりの傷を負っていても治癒するらしいけど、実際に使っているところを見たことがないので何ともいえない。ボクもエステル師匠に作ることを許されているポーションは体力回復ポーションの中級までだし。


「では、早速依頼を出しますね。ラインハルトの山のレッドドラゴンの素材回収。報酬はひとり1500マルクで!」


「受理しました。クエスト掲示板に依頼を貼りだします」


 クリスタさんはすらすらと依頼書を記すと、クエスト依頼の掲示板に張り出した。


 この北部冒険者連盟ヴァルトハウゼン村支部の人員は支部長であるクリスタさんとアルバイトの人が1名だけなのだ。アルバイトさんは非常に忙しいときしかお呼びがかからないので、実質この冒険者ギルドはクリスタさんがひとりで運営していると言っていい。


「さあ、早速依頼を受けよう、ヒビキさん! この依頼はE級冒険者から受けられるから早い者勝ちだよ! 急げ、急げ!」


「理解した」


 ヒビキさんは早速貼りだされた依頼書を手に取ると、クリスタさんに手渡した。


「こういうのは直接本人に依頼するのではダメなのか?」


「うーん。一応魔獣絡みの仕事だし、冒険者ギルドを通しておいた方が問題が少なくて済むと思うよっ!」


「なるほど」


 ボクの雑な説明でどこまで伝わったかは謎だけど、ヒビキさんは納得してくれた。


「他の参加者は希望なさいますか?」


「うーん。素材を運んだりするのに人手が必要だからもうちょっと待ちます」


 流石のヒビキさんでもレッドドラゴンを引き摺って麓まで降りるわけにはいかない。その場で解体することはボクにもできるけど、解体した素材を運ぶのにはどうしても人手が必要になってくる。


 3、4人。屈強な男の人がいればいいだけどな。


「ラインハルトの山のレッドドラゴンの素材回収!? マジかよ!?」


「あのレッドドラゴンを倒したのか!? 誰が!?」


 案の定というか、冒険者ギルドはラインハルトの山のレッドドラゴンの素材回収という依頼に騒がしくなった。あの森の悪魔が死んだということに衝撃を受け、一体誰がこのような偉業を成し遂げたのだろうかと詮索している。


 なのに、ヒビキさんは黙ったまま! もっと誇っていいことなのに!


「ヒビキさん、ヒビキさん。みんな君のことを探していますよ?」


「あまり問題ごとに首を突っ込みたくないんだ」


 謙虚というか慎重派というか。目立ちたがらない人なんだね、ヒビキさん。


「まあ、俺だってレッドドラゴンくらい相手にできたけどな」


「本当かよ。B級冒険者のパーティーが5つ近くやられている本物の化け物だぞ。あれを倒すなんて、嵐を食い止めるようなものだ」


 その嵐を回し蹴り一撃で屠った人がここにいます。


「クリスタさん! レッドドラゴンは誰が討伐したの?」


「それは本人の同意がなければ明かせません。ですが、北部冒険者連盟に加入なさっていなかった人なので報酬などは発生しないというところです」


「そりゃまた。農民が退治したとか言わないよな?」


「規則ですので明かせません」


 クリスタさんは本当にお堅い。


「でも、これからレッドドラゴンに押さえつけられてきた魔獣たちが活発化するぞ。仕事の機会だ。レッドドラゴンの相手は流石に無理だけれど、はぐれ魔狼やゴブリンの小集落程度ならどんとこいだ」


「ああ。仕事が増えるな」


 冒険者ギルドの人たちは嬉しそう。これまで仲間がやられていった人たちもいるし、復讐が叶ったというところかな?


「謎のドラゴンスレイヤーに乾杯!」


「忌々しいレッドドラゴンの死に乾杯!」


 冒険者ギルドに併設している酒場で冒険者の人たちが威勢のいい声を上げる。


「それで、この素材集め、誰がいくんだ」


「よければ俺たちに任せて欲しい」


「あんたたちは……」


 そこで現れたのは堅牢なプレートアーマーに身を包んだ青年。そして、双子のようにそっくりなクレイモアを手にした剣士の男性とローブ姿の赤魔術師の女性、そして見た目からして大人しそうなのが窺える弓兵の女性の4名だった。


「あんたらは最近B級に昇格した“黒狼の遠吠え”だろう。なにもこんな安い仕事を受けなくてもいいんじゃないのか?」


 あっ! 噂に聞いたことがある! この北部冒険者連盟ヴァルトハウゼン村支部が誇るエース冒険者パーティーだ!


 けど、なんだってそんな人たちがボクの出した安い依頼に興味を持ったんだろうか?


「あのレッドドラゴンは誰が挑んでも勝てなかった。どうやって倒されたのかに興味がある。もちろん、依頼主の安全を守って、素材を回収することも怠らないよ」


 う、うーん。できればD級クラスの人に来てほしかったんだけどなー。階級の高い冒険者の人はどうにも仕事が雑になる傾向があるからな―。


「これで構いませんか、リーゼ」


「はい。お願いします」


 というわけで、ボクたちは若干納得できないところがあれど、レッドドラゴンの素材を回収しに行くことになった。


 問題が起きなければいいけれど。


…………………

本日23時頃に次話を投稿予定です。

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