錬金術師さんと騎士の護衛
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──錬金術師さんと騎士の護衛
エステル師匠が新生竜の素材で上級ポーションを作り終えた。
かなりの数だ。数百本はある。上級ポーションがだよ?
それもエステル師匠が作った奴だからどれも完璧。ポーションはそれぞれの色をしていて、澄んでいる。不純物などは一切見当たらない。新生竜の素材で作られた上級体力回復ポーションは澄んだ青色をして輝いていた。
ちなみに今回もボクは上級ポーション作りにチャレンジした。けど、今回も上手くいかずインゴさんは上級ポーションとしては買ってくれないだろうということで、中級ポーションと一緒に納めてある。とほほ。
「いつになったら上級ポーションが上手く作れるようになるんでしょうね……?」
「ひたすらポーションを作り続けることだね。今回の新生竜のポーション作りはいい勉強になっただろう。それぞれ素材の品質を見定めて、加工する過程の温度や湿度を調整し、最後に丁寧に仕上げる。それらを数百本と繰り返せば、自然に体がそれらを覚えていく。そうなれば中級ポーションは手間いらずで、上級ポーションでも素材を台無しにすることがなくなるってことだ。その境地に至るまではまだまだだな」
「そんな境地に至れるんですかねー……」
エステル師匠の言うことは難しい。確かに何百本もポーションを作り続けていけば、体が作り方を覚えるかもしれない。でも、今のボクはあれこれと考えながら作っているのが実情だ。素材の品質を見定めるのにも時間がかかるし、加工する過程でもあれこれと手間取るし、最後の仕上げはとても慎重になる。
まだまだ経験不足なのかなー。もっと低級ポーション、中級ポーションで勉強しないといけないなー。凄腕錬金術師への道のりは遠い……。
「さて、これだけの数となると全部をインゴの店に売り払うのは大変そうだ。少しは万が一の備蓄として取っておくとして、残りはどうしたものかね。下手な店には任せたくないしな。今回は売るのは限っておくかね」
流石のインゴさんのお店でも新生竜7体分の素材で作られたポーション全てを買い取るのは難しそうだ。別のお店に売るという選択肢もあるけれど、エステル師匠は他に売る当てがないみたいだしな。
「一応持って行ってみたらどうですか? インゴさんも上級ポーションはいっぱい買い取りたいって言ってましたし?」
「捌ききれなくて飛行船の運賃だけ上がったら損だろう。今回は60万マルク程度の稼ぎを期待して持って行くか。最近は特に金に困ることもないし、無理をする必要もない。インゴの店に潰れてもらっても困ることだからね」
そうなのだ。飛行船は重量が増えると運賃が上がるのだ。ポーションは1本当たりは大した重みはないけれど、数百本ともなれば相当な重さになる。それだけ運賃が値上がりし、ポーションが売れなくて持ち帰る羽目になったら帰りの運賃も上がる。
確かにここ最近はお金には困ってないし、無理に売らなくてもいいかも。
「錬金術師というのは稼げるのですねえ。私も今からでも勉強しましょうか」
万年金欠のレーズィさんがそんなことを呟く。
「レーズィさん。このボクでもかれこれ8年は修行しているんですよ。それで未だに中級ポーションしか作れないんです。錬金術というはエステル師匠みたいなとんでもない凄腕にならないと稼げないですよ?」
「ううーん。そうですか……。考えが甘かったようですねえ……」
錬金術師でバリバリ稼げるようになるのはエステル師匠のように帝国錬金術学校を卒業し、かつ才能と腕前に恵まれ、その上に素材にも恵まれていないといけない。ヴァルトハウゼン村は自然の恵みが豊富で原材料費は低いけど、これが帝都の付近になると値上がりした市場価格で原材料を調達しなければならない。
錬金術で稼ぐのも苦労するのだ。錬金術と書けど実際に価値のないものから金を錬成できた人はいないし。
「さて、馬鹿弟子。出かける支度をしな。明日はトールベルクに行くよ」
「ラジャ!」
久しぶりのトールベルクの街だ。
今度は山盛りカルボナーラが食べたいな!
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飛行船でボクたちはトールベルクにやってきた。
飛行船ではレーズィさんが街道を設置する場所を見定めていた。街道をどのように敷くのか考えるのは開拓局のはずなんだけど、レーズィさんも熱心に地上を見つめて、あれこれとメモを取っていた。仕事熱心な人だ。
そんな飛行船の旅もあっという間で、ボクたちはトールベルクに。
さて、インゴさんお店に向かう前にやるべきことがある。
「ゾーニャさんいらっしゃいますか?」
「ザルツァ卿ですね。しばらくお待ちください」
そう、ゾーニャさんに護衛を頼むのだ。
前回はガルゼッリ・ファミリーとかいう人たちに尾行されて、襲われたし、今回はあらかじめゾーニャさんに護衛を頼んでおくのである。ゾーニャさんがお仕事で忙しかったら申し訳ないけれど、ボクたちだけじゃどうにもならないからね。
「リーゼ!」
「ゾーニャさん。お久しぶりです」
ゾーニャさんがすぐさま駆けつけてくれた。
「リーゼ。村で聖ペトロの祭りがあったと便りにはあったが、あの付近の魔獣は今は静かなのか? ラインハルトの山に新生竜が現れたことによって魔獣が麓まで押し寄せていると前の便りにはあったのだが……」
「大丈夫ですよ。新生竜はヒビキさんたちが倒してくれましたから!」
いけない。そのことを手紙に書き忘れていた。
「ふむ。新生竜は2体だけだったのだろうか?」
「いえ。8体でした。1体は先にヒビキさんが倒して、残り7体は緊急クエストでヒビキさんたちのパーティーと“黒狼の遠吠え”が討伐しました。7体ですよ、7体。ヒビキさんたちってば凄いと思いませんか?」
「7、7体? それはもはや甚大な天災では……」
ボクの話にゾーニャさんが信じられないという顔をする。
まあ、ボクも話を聞いた時には信じられなかったけど、現にヒビキさんは7体分の新生竜の死体を持って来たしね。7体の新生竜はヒビキさんの“チーム・アルファ”とミルコさんの“黒狼の遠吠え”によって討ち取られたのだ!
「ヒビキ。7体の新生竜とは凄まじい戦いだったでしょう……。あなたはどの程度、敵を打ち破ったのですか?」
「共同戦果だ。特に俺が何体倒したということはない」
“黒狼の遠吠え”の皆さんが言うにはヒビキさんが6体倒したそうだけどなー。
「ヒビキさんは6体倒したんですよう! あっという間に6体です!」
「6体!? ほとんど全てではないですか!」
で、レーズィさんが暴露。ヒビキさんは困った顔をしている。
「あれはレーズィ君と“黒狼の遠吠え”のパーティーメンバーと共同で戦ったからこそなしえた戦果だ。俺ひとりが特に戦ったわけではない。俺ひとりでは1体、2体がせいぜいだっただろう。もしかすると返り討ちにあっていたかもしれない」
「新生竜を1体、2体相手できると言えるだけでも凄いことです。普通はドラゴンは新生竜であっても強固なパーティーで挑まなければならないのですから」
「そういうものなのか」
「そういうものです」
ヒビキさんは現に1体の新生竜を瞬殺してるからなー。
「そのことでファルケンハウゼン子爵閣下のご令嬢であるフィーネさんも村に来たんですよ。ヒビキさんから話を聞きたいって。それでヒビキさんはその功績を子爵閣下に讃えられて、ミスリルのナイフを受け取ったのです!」
「ミスリルのナイフとは。見せてもらっていいでしょうか?」
ゾーニャさんがワクワクした様子でヒビキさんに尋ねる。
「これだ。予備のナイフにしている」
「こ、これは刀剣の製造で有名なオーバープファルツの鍛冶職人の手で作られたものではないですか……! これなら100万マルクは下りませんよ!」
「そんなに価値があるものなのか? ……使うのが躊躇われてきたな……」
「いえ。刀剣は使ってこそです。あなたならばこのナイフの価値に見合った戦いができると思ってファルケンハウゼン子爵閣下もあなたにこれを託されたのでしょう」
「ふむ。100万マルクという具体的な数字を出されてしまうと、もはや芸術品の類にしか見れなくなってしまうのだが……」
100万マルクのナイフなんて使うのがもったいなくなるよね。
「馬鹿弟子。そろそろ本題に入りな」
「あっ。ゾーニャさん。今回も護衛をお願いできますか? 前回の件でガルゼッリ・ファミリーの人たちに恨まれているかもしれませんから」
「もちろん構わない。こちらとしてもガルゼッリ・ファミリーの動きには注目している。前回、奴らの一部を捉えたことでその組織の在り方が少しずつだが分かってきた。奴らはいくつかのグループに分かれて行動し、そのいくつものグループの中心にガルゼッリ・ファミリーの頭領と思しき男がいるようだ。だから、動きが掴みにくい」
「ピラミッド式の組織ではなく、ほぼフラット化した組織か」
ピラミッド式? フラット化?
「ひとつの組織を押さえても他の組織は活動を続ける。潰すには頭領を潰さなければならないが、その情報は下部組織には具体的に教えられていないし、頭領は明確な指示を下さず、それぞれ組織に行動を委ねる。そんなところか」
「その通りです。ひとつの組織を検挙しても、別の組織が穴を埋めるように行動を始める。これではいつまで経っても相手を切り崩すことができません」
ふむふむ。いくつもの独立した丸があって、それらがこの周囲に無作為に広がり、この地域を覆い尽くしている。丸のひとつをパンと潰しても、他の丸が大きくなってその穴を塞いでしまう、っていうことか。
図にすると分かりやすいな。
「犯罪組織というより都市ゲリラのようだな。厄介な戦いになるだろう」
「ええ。もう既に戦い続けて3年になりますが、未だに潰せていません」
ゾーニャさんとヒビキさんが頷き合う。
「お喋りもいいが時間があまりないんだがね」
「ああ。すみません。では、出発しましょう」
ゾーニャさんはヒビキさんの意見を聞きたがっていたみたいだけれど、ボクたちも夕方の便で帰らないといけないからね。そこまで時間はないのだ。今回もトールベルクでいろいろと買い物したいことだし。
そして、ボクたちはトールベルクの街を進んでインゴさんのお店に。
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