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錬金術師さんと祭りの準備

…………………


 ──錬金術師さんと祭りの準備



 聖ペトロ祭を明日に控えた今日。


 ボクは新生竜の素材を使ったポーション作りでくたくたになっていた……。


 作っても、作っても素材が減らず、後の方は自分でも何をしているのか分からないぐらいになってしまっていた。幸いにして間違ったことはしていなかったけど。


「疲れているようだな、リーゼ君。大丈夫か?」


「う、うーん。ようやく終わったんで休みます……」


「そうか。その前に風呂に入ってはどうだろうか? 随分と汗をかいたように見える。お湯は俺が沸かしておこう」


「そうします。すみません、ヒビキさん」


 はあ、でもようやく作り終わった。


 家の中には今や数百本のポーションの瓶が鎮座している。エステル師匠は今度またトールベルクに行って売ってこないといけないねと言っているが、トールベルクに行くのは聖ペトロ祭が終わった後だろう。


 そう、聖ペトロ祭だ!


 白魔術師のお祭りなのは気に入らないけれど、お祭りはお祭りだ。


 ご馳走が並んで、みんなでワイワイはしゃいで、いろんな楽器を鳴らして踊ったりするのは楽しい! 村のみんなで騒ぐのはとっても楽しい!


 それも今年は新生竜7体分のお肉がある。豪勢なバーベキューパーティーになるだろう。香草もたっぷり採取して、開拓局に納品しているので、美味しいお肉が食べ放題のはずだ。それもまた楽しみである!


「リーゼ君。風呂が沸いたぞ」


「はーい!」


 お祭りのことを考えたらテンションが上がってきちゃった! 疲労感もどこかに消えて、もっとお祭りのことを考えたくなる!


「お風呂、お風呂♪」


 ボクは汗で塗れた作業用の衣服を脱ぐと、洗濯籠に入れる。今日の洗濯当番はレーズィさんだ。洗濯もの増やしちゃってごめんなさい。


「それにしてもちっとも大きくならないなー」


 ボクは姿見を見るが、身長もスタイルも未だにお子様だ。これから成長の余地ありとは思うけれど、ボクとしてはもうちょっと早く成長して欲しい。


 理想はエステル師匠。長身なエステル師匠はいつ見ても憧れる。


 レーズィさんはあのどこまでも大きな胸は羨ましいけれど、身長はユリアさんと同じくらいと低めだし、そこまででもない。


「まあ、成長期だし、これからずっと大きくなるよね」


 ボクはそう考えて浴室に向かった。


「ふうー。生き返るー」


 ひたすらポーションを作り続けて疲れ果てた体に温かいお湯が染みわたるー。素材もそのまま煮込むようなものだけでなく、みじん切りにしたり、練ったりしなければいけないものがそれなりにあったから、腕も足も疲れ果てている。


「明日は聖ペトロ祭。何か準備不足のものはないかな?」


 ボクは湯船につかりながら考える。


 エステル師匠は爆裂ポーションを使った何かを納品してたけど、あれは何だったんだろうか。今回の聖ペトロ祭の目玉になるような何か新しいものだとエステル師匠は言っていたけれど。なんだか分からないや。


 お肉を焼くときの香草は農家の人も集めて納品済み。ここは抜かりない。


 万が一、コカトリスが麓に下りてきた場合の浄化のポーションも納品している。他にも中級体力回復ポーションや疲労回復ポーションなんかも。お祭りの運営の人たちはこれで憂いなくお祭りを行えるはずである。


 後はうちが出店を出すんだよね。目玉は低級体力回復ポーションで作った南蛮漬け。これに辛みのあるアカヒカリ草の実を加えると酸味と辛みが合わさって絶妙なおいしさになることがヒビキさんの提案で発見されたので、それを売るのだ。


 とはいっても、お金をそんなに稼ぐつもりはないよ。お祭りだからね。お祭りはお金を稼ぐ場ではなく、楽しむ場! 新しい美味しさを村のみんなに味わってもらい、この村の資源のひとつである川魚の新しい調理を方法を学んで欲しい。


 はっ! そう言えばその肝心の出店の建物をまだ組み立ててなかった! 倉庫に材料が眠ったままだ! 不味い! エステル師匠にどやされる!


 ボクは大急ぎでお風呂から上がると、大急ぎで体を拭いてから着替えて、裏庭にある倉庫に向かった。しかし、いつになったら裏庭には温室ができるんだろう。


 と、倉庫には去年のお祭りで使ったときの出店の材料がそのまま眠っていた。台車に載せて運び、移動できるタイプの出店で、去年は炭酸飲料を売ったのだ。低級疲労回復ポーションを混ぜたもので、美味しいと評判だった。


「わわわっ! 今から組み立てないと間に合わないよ!」


 明日は朝一番に出店を集会場まで運ぶのだ。それまでには出店を完成させておかないと。もう日は落ちているっていうのに!


「リーゼ君。そんなに慌ててどうしたんだい?」


「ちょ、ちょっと明日のお祭りの件で準備不足なことがあって……」


「よければ手伝おうか?」


「是非!」


 ヒビキさんが手伝ってくれるなら百人力だ!


「これは……出店だろうか? 君たちも出店を出すのか?」


「ええ。毎年出してますよ。いろいろなポーションを出すんです。今年は南蛮漬けを出しますよ。ヒビキさんの提案で更に美味しくなりましたからね!」


「ふむ。出店で南蛮漬けとは面妖な……」


 ヒビキさんは南蛮漬けを出店で出すのが疑問みたい。


「ヒビキさんの世界では出店ってどんなものを出してたんです?」


「そうだな。焼きそばや綿あめ、タコ焼きやフランクフルトか」


「それってレシピとか分かります?」


「すまない。生憎、料理には酷く疎くて……」


 しょぼーん。


「ちなみにどんな料理なんです?」


「焼きそばはパスタに似ていると言っていいだろう。パスタと違って鉄板の上で焼くのだが。甘辛いウスターソースなどで味付けし、キャベツや玉ねぎ、そして魚介類や豚肉を具にする。出店ではこの料理が定番だった」


「美味しそうですね!」


 パスタ似ていながら、鉄板で焼くというのも面白い。具沢山みたいだし、甘辛い味付けというのもそそられる。是非とも食べてみたいものだ。


「綿あめはどんな料理なんです?」


「文字通り、綿のような飴だ。熱を加えることで砂糖と糸状にし、それを巻きとっていって作る……と聞いたことがある。具体的な製法については知識がない。すまない」


 綿のような飴かー。これまた美味しそうだな!


「たこ焼きは?」


「うむ。小麦粉でタコを包んで焼きくんだ。上からソースや鰹節、青のりをかける。俺はなんだかんだでタコ焼きが好きだな。あれはどこで食べても美味しいものだ。一部の地方の人間は自分でタコ焼きを作るための専門の道具を持っているほどだ」


「タコですか? タコって何ですか?」


「ああ。ここら辺に海はなかったからね。タコというのは魚介類の一種だ。やや人を選ぶ見た目をしてるが、料理してしまえば気になることはない。歯ごたえがあって、とても美味しい一品だ」


 タコかー。どんな生き物なんだろう?


「それより出店を組み立てなくてもいいのだろうか? もう日が暮れているが」


「ああっ! また忘れてた! 大急ぎで作りましょう、ヒビキさん!」


「任された」


 やっぱりヒビキさんがいてくれると助かる。もうヒビキさんもヴァルトハウゼン村に永住しちゃえばいいのに。


 でも、ダメなんだろうな。ヒビキさんは必死になって帰還する術とはぐれた仲間たちを探している。それは郷里に戻りたいという人間のどうしようもない本能だ。


「ヒビキさん。ヒビキさんは帰還の術が見つかったら元の世界に帰ります?」


「そうなるだろう。俺は今でも日本情報軍の軍人だ。軍人として宣誓し、祖国に忠誠を誓った身としては、元の世界に帰ることは義務と言っていい」


 ヒビキさんは帰還の術が見つかったら帰っちゃうのか。


 期間の術が見つかるといいなと思おう反面、帰還の術が見つからなかったらいいなと思うこともある。ヒビキさんにはこの世界に残っていて欲しいのだ。


 だが、それはわがままだ。


「ヒビキさん。帰れる手段が見つかるといいですね」


「ああ。帰ることができるといいのだが」


 ヒビキさんには幸せなんだろうけど、ボクは悲しかった。


 それでも前に進むのみ!


 ボクたちは出店を大急ぎで仕上げると、夕食を食べて眠りについた。


 その日みた夢はヒビキさんが帰還の術を見つけて、元の世界に帰ってしまうものだった。ボクはわんわんと泣き、ヒビキさんを引き留めたが、ヒビキさんは行ってしまった。


 朝起きたらボクの枕は涙に濡れていた。


 さて、明日は聖ペトロ祭だ。憂鬱なことは忘れて全力で楽しもう!


…………………

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