軍人さんと死闘の5分
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──軍人さんと死闘の5分
新たに現れた新生竜4体。
兄弟を殺されたことへの復讐心があるのか、その気配は殺気立っている。
「嘘だろ……。新生竜は3体だって……」
「山では何が起きてもおかしくない。準備しろ、リオ。狩られるぞ」
リオ君がうろたえるのをユリア君が現実に引き戻す。
「レーズィ君。まだ魔術は使えるか?」
「大丈夫ですよう! 余力があります!」
ふむ。レーズィ君の支援があればやれないこともない。
しかし──。
「魔力回復ポーションはこれでラストよ。私の魔力が切れたら空を飛ばれるわ」
レベッカ君の魔力が危ない。彼女にはずっと新生竜を地面に釘付けにするために魔術を放ってもらっていた。これ以上戦闘が長引けば、彼女の魔力は切れ、新生竜は上空から俺たちを攻撃するという手段を得る。
そうなればことは最悪だ。流石の俺も空から攻撃されるのにはどこまで対処できるのか分からない。軍用義肢がいくら人体を強化していたとしても、空を自由に飛び回る相手にどのようにして戦えばいい?
「レベッカ君。後、どれくらい魔術攻撃は行える?」
「恐らく5分弱よ。それだけしか時間は稼げない」
5分か。やれるか?
いや、やらなくては。3体の新生竜でも村の危機なのだ。それが4体ともなれば、危機以上の状況だ。村が壊滅する可能性すらある。
それに今を生き残るためには奴らを殺すしかない。
「レベッカ君。5分で構わない。奴らを地上に釘付けにしてくれ。その間に叩く」
「5分で新生竜4体を? 正気なの?」
「いたって正気だ」
今は冗談を言う気分ではない。
「ヒビキを信じろ、レベッカ。奴は強い」
ユリア君が弓矢で新生竜を狙いながらそう告げる。
「レーズィ君。支援を頼む。魔術が使える限り、全力で」
「分かりました!」
俺はじりっと地面を踏みしめる。
目標は今は地面にいる。これからレベッカ君が空を封じたと同時に仕掛ける。
「<<爆裂嵐>>!」
「<<速度低下>>! <<活力低下>>! <<活力上昇>>!」
新生竜たちの頭上で炎の嵐が吹き荒れ、同時に新生竜たちの動きが鈍り、そして俺の中で戦意がどこまでも向上するのを感じた。
ナノマシンに無理をさせれば極度の興奮状態にもなれるが、それとは異なる戦意の上昇である。何故ならばこの戦意の上昇には身体の能力の上昇が含まれているのだ。速度の上昇に加えて、人工筋肉が激しく脈打つのを感じる。
これなら殺れる。
「勝負だ」
「ヒビキさんっ!?」
俺が駆けだすのにミルコ君たちがうろたえた声を上げる。
「援護する」
ユリア君はそう告げると矢を放った。矢は動きの鈍った新生竜の目に突き刺さり、1体が悲鳴を上げている間に、もう1体に矢が突き刺さる。やはり、ユリア君は頼りになる冒険者──いや、狩人だな。
「ゴオ、ゴオオオオォォォォッ!」
新生竜たちは雄叫びを上げて、口の中に炎をうごめかせる。あれが直撃すれば死だ。
「だが、死にはしない」
新生竜の動きは鈍っているし、その動きは引き気味だ。
だが、連携してはいる。1体目が炎を浴びせるのに、別の個体は待機しているのだから。同時に放って、隙を作るような真似はしない。皆が危惧していたようにこの新生竜たちは知恵を付けたようである。
「しかし、その程度の火力では、な」
1体の新生竜が放てる火炎放射の量は至近距離に迫らない限りは多大ではない。ガスバーナーのように先端の炎は細くなる。
俺は上手くその隙間を縫って、新生竜に迫る。
だが、これでは時間がかかる。残り時間は既に4分を切った。
「フンッ!」
そこに現れたのがリオ君だ。
彼は盾を構えて、炎を防ぐと、俺のために道を作った。
「行ってくれ、ヒビキさん!」
「助かった、リオ君!」
俺はリオ君の作った壁を使って一気に新生竜の群れに肉薄する。
残り3分15秒。
俺は新生竜の胸元に飛び込むとコンバットナイフを構えて、一気に新生竜の喉を切り裂き、新生竜を解体したときに把握した心臓の位置にコンバットナイフを突き立てる。真っ赤な鮮血がほとばしり、俺に噴きかかってくる。
残る3体。
俺はコンバットナイフを素早く引き抜くと、出血で力尽きた新生竜が倒れ込んでくる前に横に転がり、そのままの勢いで俺を狙ってたい別の新生竜の頭部へ蹴りによる打撃を叩き込んだ。レーズィ君の支援で活性化した俺の軍用四肢は新生竜の頭を原型を留めぬまでに破壊し、脳漿がぶちまけられる。
残り2体。残り2分。
「ゴオオォォッ!」
生き残っている新生竜の1体が俺に向けて火炎放射を浴びせる。
だが、4体で連携していた先ほどとは異なり、確実な穴がある。俺はその穴に飛び込み、新生竜に向けて駆ける。全速力で新生竜に向けて突き進む。
体がナノマシンとレーズィ君の支援で完全に戦闘に最適化されているのが分かる。緊張は快楽となり、死への恐怖は脅威を識別する程度に抑え込まれ、全身から戦意が湧き上がってくる。感じたことのない感触だ。
「ふんっ!」
俺は火炎放射の途絶えた新生竜の顔面に向けて拳を叩き込む。骨の砕ける確かな感触が手に伝わり、新生竜は低いうめき声を上げて脳震盪状態になった。
俺はトドメに回し蹴りを食らわせる。その打撃によって新生竜の首が折れ、痙攣し始めた新生竜が地面に崩れ落ちていく。
残り1体。残り1分15秒。
最後の新生竜は雄叫びを上げることはしなかった。奴は飛び上がったのだ、空に。
「レベッカ君!」
「ごめんなさい……。魔力が切れたわ……」
クソ。余裕はないと分かっていたが、このタイミングでか。
「任せろ、ヒビキ」
ユリア君はそう告げると、矢を放った。
「ギャアアアアァァァァッ!」
新生竜に叩き込まれた矢は新生竜に壮絶な悲鳴を上げさせ、その上昇を止めた。
「上級魔獣除けポーションに特製の毒を混ぜた矢だ。激痛が走るぞ」
「助かった、ユリア君」
上昇さえ止められれば、どうにでもなる。
俺は思いっ切り地面を蹴って跳躍すると、新生竜の腹部を蹴り上げた。
新生竜が悲鳴を上げながら落下する。俺は狙いを新生竜の喉に定めたまま、コンバットナイフを構えて共に落下する。
そして、落下の勢いと共にコンバットナイフを新生竜の喉に突き立てて、横に裂いた。真っ赤な血飛沫が噴き上げ、俺の顔面を濡らす。間髪入れずに心臓にコンバットナイフを突き立て、抉るようにして抜き取る。
「……なんとかなったな……」
ギリギリの勝利だった。辛うじて勝てたというところだ。
「やりましたね、ヒビキさん!」
「やったな、ヒビキ」
レーズィ君とユリア君が勝利を知らせる言葉を告げる。ユリア君は新手が来ないか空に目を凝らしながらだが。
「やったのか……。新生竜7体相手に……」
「やったのは俺たちじゃない。ヒビキさんだ」
リオ君が後れて勝利を感じるのに、ミルコ君がそう告げた。
「いや。全員の勝利だ。全員がそれぞれの役割をこなしたからこそ勝利できた。“黒狼の遠吠え”と“チーム・アルファ”の共同戦果だ」
俺は顔面に浴びた血を拭ってそう告げる。全身が血塗れで、いくら拭っても血が落ちない。これは風呂に入る前に川か何かで血を落とした方がよさそうだ。酷く血生臭い。
「とりあえずのところ、これ以上の新生竜はでないだろう。出たとしても逃げるのみだ。もう戦闘力は残っていない」
「ええ。帰りましょう。ヴァルトハウゼン村に」
もはやレベッカ君の魔力は尽きており、俺自身も先ほどの反動のようにやや疲労を感じている。リオ君やミルコ君ももう限界だろう。戦えるのは俺が辛うじてと、ユリア君ぐらいのものだ。帰り道で魔狼に襲われでもしたらシャレにならない。
「新生竜の素材はどうする? 錬金術師が欲しがっていたぞ」
「俺が1体持ち帰る。残りは後日だ。ここにリーゼ君から中級魔獣除けポーションを貰ってきた。これを振りかけておいて、後日再び回収に来よう」
俺はタクティカルベストのポーチからポーションを取り出すと、それを新生竜の死体に滴らせていった。これで魔狼に獲物を食い荒らされることはないだろう。
「勝ったんだな、俺たち」
「勝ったんだ」
リオ君とミルコ君が新生竜の死体を見下ろしてそう告げる。
今日は勝利を噛みしめながら眠れるといいが。
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「お帰りなさい、ヒビキさん!」
リーゼ君の店舗兼家に戻ると、リーゼ君が玄関で待っていてくれた。
「随分と待たせてしまったな。心配をかけてしまったのではないだろうか?」
「それはもうずっと心配してましたよ! でも、エステル師匠がヒビキさんなら大丈夫だって言うし、上級ポーションも渡してるからって言ったから。それでも、とっても心配しましたよ! 新生竜が3体も相手なんですから!」
「その件だが、新生竜は7体だった」
「ええーっ!?」
まあ、驚くのも無理もない。俺も驚いたのだから・。
「とりあえず1体分の新生竜だ。残りの6体は後日回収する」
「7体……。新生竜が7体……」
「リーゼ君? 大丈夫か?」
リーゼ君がなにやら俯いて、ぶつぶつと言っている。
「どうして逃げなかったんですか! 新生竜7体なんて死んだっておかしくないことなんですよ! 何を考えていたのかしれないですけど、ボクはヒビキさんに生きて帰ってきて欲しかったんですからね!」
リーゼ君がそう告げて俺に抱き着く。
「すまない。心配をかけた。だが、あの場面を生き残るためには戦うしかなかったんだ。理解してくれ」
「うう、理解してます。ヒビキさんなら無茶な戦いはしないって」
リーゼ君の涙で俺の服が濡れる。
「でも、生きて帰ってきてくれたからオーケーです! これからはあんまり大きな脅威に出くわしたら逃げるようにしてくださいね?」
「可能な限り善処する」
「善処じゃなくて確実に実行してください」
リーゼ君はいつになく厳しい。それだけ心配をかけてしまったのだろう。反省する限りだ。ようやくこの村にもなじんできたのだから、それをフイにしてしまうようなことは避けなければならないな。
「さて、この新生竜の素材だが、処理はいつする?」
「今から始めます。ヒビキさんは休んでください。今日はお疲れのはずですからね」
「すまない。残りの6体に関しては俺も手伝うから」
俺はリーゼ君にそう告げると風呂を沸かし、血生臭さを拭うために真剣に体を洗った。ほとんどの血は川で流してきたが、まだ血の臭いがする。
「ヒビキ。やったみたいだね」
「ああ。やり遂げてきた。これは返しておく」
風呂から上がるとエステルが晩酌をしていた。
そのエステルに俺は上級ポーションを返却する。
「使わなかったのかい。まあ、使わずに済む方がいいがね」
「全くだ」
こうして、俺の新生竜討伐は達成された。
後日、冒険者ギルドで報酬を受け取らなくては。
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