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錬金術師さんとドラゴン警報

…………………


 ──錬金術師さんとドラゴン警報



 アカヒカリ草は無事にエルンストの山で集まった。


 後は家に帰るだけだ。


「あっ! そう言えばトキノカネ草を採取しないといけないんだった!」


「ん? 確かそれは浄化のポーションの材料だろう。どうかしたのか?」


「ええっと。最近、コカトリスの小さいのが麓に下りてくるようになって、いざという場合に備えて浄化のポーションを備蓄しておきたいってハンスさんが。お祭りで今度は外からも人を呼ぶらしいんで、万が一に備えるみたいです」


「なるほど」


 すっかり忘れていた。トキノカネ草を採取して、浄化のポーションを作って、開拓局に納品しなきゃいけなかったんだ。まだ時間に余裕はあるけど、せっかくなのでこの機会に採取を済ませてしまっておこう。


 裏庭に植えた苗はまだまだ成長してないし、採取は大事だ。


「ところで、レーズィさんはユウヒノアカリ草の栽培、上手くいってます?」


「ちょろちょろと育ってきてますよう。青魔術で夕日の時間だけ日を取り入れる箱を作って、そこで栽培してるんです。毎日魔量を注がなければいけないのが問題ですけど」


 それなら普通に夕方の時刻だけプランターを外に出すのでいいのではなかろうかとボクは思ったが口には出さなかった。プランターを出したり仕舞ったりするのも苦労するものだしね。うん。


「トキノカネ草のある場所は分かるのか?」


「はい。大丈夫です。またラインハルトの山に戻ることになりますけど……」


「それは別に構わない」


 ヒビキさんは本当に優しいなー。


「では、トキノカネ草採取にしゅっぱーつ!」


 ということで、ボクたちはラインハルトの山へ。


 珍しく途中で魔獣に遭遇することがなかった。エルンストの山はともかく、ラインハルトの山は小さなコカトリスが出たり、魔狼がでたりするはずなんだけど。


 まあ、魔獣なんて遭遇しないのが一番だからいいことだけどね!


 そんな気分でボクたちはラインハルトの山を歩いていた。


 その時だ。


「リーゼ君、レーズィ君。伏せろ」


「えっ? えっ?」


 突然ヒビキさんがボクとレーズィさんの頭を押さえて地面に倒れ込んだ。


「な、何事ですか?」


「ドラゴンだ。この間の小さい奴より大きいのが3体。低空を飛んでくる」


 ヒビキさんが告げたようにボクたちの上空を3体のドラゴンが飛び去っていった。


「し、新生竜が3体……。やっぱりあのレッドドラゴンの子供だ……」


「そのようだな。気付かれなくて幸いだった」


 ヒビキさんはどうやってほとんど無音で飛行してきた新生竜に気付いたんだろう?


「ど、どうしましょう? このまま採取して立ち去ります?」


「ふむ。動向ぐらいは監視しておきたい。あれが麓に下りてきたらかなりの騒ぎになるだろう。ヴァルトハウゼン村の住民のひとりとしてはこの山からでるのか、そうでないのかぐらいは見定めておく義務があると思うが」


 レーズィさんがうろたえるのに、ヒビキさんがそう告げて返した。


 ヒビキさんは立派な人だとは思うけど、この状況はちょっと怖いな……。


「リーゼ君。君が依頼主だ。どうするか判断してくれ」


「ええっと。確認しましょう!」


 ボクとしても新生竜が麓に下りてきたら怖い。確認はしておくべきだと思う。そしたら、村の人たちに警報を発することもできるかもしれないし。


「では、あの新生竜たちを追おう。こっちだ。なるべく物音を立てないように頼む」


「ならば、これを使いましょう。<<消音>>!」


 レーズィさんが詠唱すると、ボクたちの足音や布の擦れる音が消えた。


「凄いな。これは便利だ」


「短い時間しか持たないですから、急ぎましょうね!」


 ヒビキさんは魔術に興味津々だ。


「うむ。では、行こう」


 ボクたちはヒビキさんを先頭に新生竜に向かって進む。


 というか、向かってるんだろうか? ヒビキさんには居場所が分かるみたいだけれど、ボクにはちっとも分からないや。


「いたぞ。伏せてくれ」


 ヒビキさんの言葉にボクたちが慌てて伏せる。


 いたっ! 新生竜が……あれ? 2体? もう1体は?


「狩りをしているな。獲物は魔狼か」


 いつもは脅威になる魔狼も今日は狩られる側だ。新生竜2体と対峙し、吠えているが新生竜はじわりじわりと距離を詰めていく。魔狼たちは戦って勝てる相手ではないと判断したのか、背を向けて逃げ始めた。


「上から来る」


 ヒビキさんがそう告げたかと思うと上空から新生竜──さっきの3体のうちの1体──が降下してきて、火炎放射を魔狼たちに浴びせかけた。


 魔狼たちは纏めて炎に包まれ、キャンキャンと吠えながらもがく。


 そこを新生竜たちが集まり、バクバクと炎に包まれた魔狼を食べていってしまった。鋭い牙が魔狼の肉を裂き、新生竜たちは10体ほどの魔狼を15分程度で平らげると、また空に飛びあがって飛び去っていった。


「ふむ。群れで狩りをするのか。この間の個体とは違うな……」


「新生竜と言えどドラゴンですからね。ドラゴンの頭脳の成長速度は早いってエステル師匠が言ってました。大体、20年程度で10歳程度の人間程度の知識を持つと。あれは恐らく8、9歳ほどの新生竜ですから、群れで狩りをするぐらいのことはしますよ」


「それは脅威になるな」


 あのヒビキさんが倒したレッドドラゴンほどになると人語を理解し、考察し、喋り、人間と交渉することすらあるそうだ。それほどにドラゴンは賢いのだ。


 今はまだ8、9歳で群れで狩りをする程度だろうけど、これからさらに成長したらどうなることか分かったものじゃないよ。人間たちの暮らす村があって、そこには食べ物──ボクたちを含む──があると理解したら……。


「既に魔獣の一部は麓に下り始めている。魔獣討伐のクエストが増えたし、リーゼ君のいうようにコカトリスなども麓に下りてきている。それを追いかけてあれが麓に下りてくるのも時間の問題かもしれない。この山はまだ新生竜を3体も養っていけるだけの実りはあるだろうか?」


「わ、分かりません。けど、この山は3体のドラゴンの縄張りとしては狭いです……」


 レッドドラゴンも1体でこのラインハルトの山全体を縄張りとしていた。3体のドラゴンにとってはそれは狭すぎるだろう。


 大人しくシュトレッケンバッハの山やエルンストの山に移住してくれたらいいけど、エルンストの山はお化け魔狼の縄張りだし、1体は余る。


 いずれにせよ、ドラゴンたちは山を下りてくる。


「このことは冒険者ギルドに報告しておこう」


「開拓局にも伝えておきます!」


 そういうことで私たちは聖ペトロ祭を前にドラゴン警報を発することになった。


…………………


…………………


「状況を整理しよう」


 場所は開拓局会議室。


 そこにオスヴァルトさん、クリスタさん、エステル師匠、“黒狼の遠吠え”のメンバー、そして、ボクとヒビキさんが集まっていた。会議室のテーブルにはラインハルトの山、シュトレッケンバッハの山、エルンストの山の3つの山と、ヴァルトハウゼン村の地図が広げられていた。


「ラインハルトの山のレッドドラゴンが討伐されたのが2ヶ月前。それでラインハルトの山は一時的にだが、これまでレッドドラゴンの餌になっていた魔獣たちが増加することになった。その点は冒険者ギルドにも依頼が来ていたはずだ」


「こちらで確認している限り、レッドドラゴン討伐後の低位魔獣討伐依頼は1.5倍となっています。間違いなく増加したでしょう」


 オスヴァルトさんが告げるのにクリスタさんが頷く。


「それから数日前に最初の新生竜の目撃情報があった。ヒビキ君たちの報告だ。その時は単体で、特に群れるようすもなく、君たちを襲ってきたのだね?」


「その通りだ。あれはただの獣だった」


 オスヴァルトさんが尋ねるのに、ヒビキさんが地図を指さして応える。地図はラインハルトの山の一角を指している。


「それからラインハルトの山全体から普通ならば麓まで下りないはずのコカトリスの幼体までもが麓に姿を見せるようになった。そのことで浄化のポーションをエステル君たちに発注していたところだ」


「ある程度の量はあるよ。まだ依頼された量までは足りないけどね」


 次はエステル師匠がそう返す。


「そして、今回新生竜が群れで狩りをしているのが確認された。本来ドラゴンは群れて狩りをすることはない。それも、リーゼ君が確認したような8、9歳の新生竜ならば。これは新生竜が魔狼などの行動を真似て、獲物を仕留める手段を見つけたと判断するべきだろう。この時点で何か異論はあるだろうか?」


「ない」


 全員がオスヴァルトさんの言葉に頷く。


「では、話を続ける。相手は知恵を得た新生竜だ。ラインハルトの山を急速に食い荒らしている。その体格もかなりのサイズに成長していた。このままではラインハルトの山から新生竜が下りてくる可能性がある」


 ラインハルトの山からヴァルトハウゼン村まではすぐだ。


「これがシュトレッケンバッハの山に向かってくれればいいのだが、そうなる可能性に期待するのは危機管理として間違っている。これは最悪の事態を想定して、3体の新生竜が麓に下りてくる可能性を考える」


 オスヴァルトさんはそう告げて、クリスタさんの方を向く。


「開拓局は冒険者ギルドに新生竜3体の討伐クエストを依頼する。報酬は60万マルク。その代わり可及的速やかに新生竜を討伐してもらいたい。少なくとも聖ペトロ祭までにはクエストが達成されることを望む」


「承りました。新生竜3体の討伐クエストを受注します」


 オスヴァルトさんが力強く告げるのに、クリスタさんが頷く。


「そのクエストは俺たちが引き受けよう」


 そして、名乗りを上げるのは“黒狼の遠吠え”のパーティーリーダーであるミルコさんだ。彼が手を挙げて、クリスタさんにそう告げる。


「今現在もっとも早くこのクエストを受注できるのはそちらのパーティーで間違いありません。よって、北部冒険者連盟は“黒狼の遠吠え”のクエスト受注を認めます。クエスト達成時期は聖ペトロ祭まで。それまでに新生竜3体を討伐してください」


「引き受けた。任せてくれ」


 クリスタさんが告げるのに、ミルコさんは自信ありげに頷いた。だが、同じパーティーメンバーのリオさんたちはちょっと不安そうな表情を浮かべている。ユリアさんはいつものように無表情だけど。


「そこでひとつ頼みがあるのだが」


「何でしょうか、ミルコさん」


「“チーム・アルファ”と共同でクエストを受けさせてくれないだろうか?」


 ええ!? ヒビキさんたちも一緒に!?


「理由をお聞かせ願えますか?」


「ヒビキさんの実力は確かなものだとユリアから聞いている。この間の新生竜を討伐したのも彼なんだろう? 俺たちは確かにクエストを受注できるだけの階級はあるが、できるならばパーティーメンバー全員で帰還したい。それでだ」


 やっぱりミルコさんも不安なのかな。群れで狩りをする新生竜が3体だもんね。


「では、“チーム・アルファ”の意見を聞きましょう。そちらはクエストを共同で行うということに異論はありますか?」


「特にない。手伝えることがあるならば喜んで手伝おう。そちらのパーティーメンバーのユリア君には随分と世話になった。その礼をしておきたい」


 ヒビキさんは迷いがない。男って感じの男の人だ。


「決まったようだな。では、この村の存亡がかかったクエストだ。確実に遂行されることを望む。必要なものがあるならば、開拓局に言ってくれ。開拓局からエステル君にポーションの類はいくらでも買い取れるように準備している」


「この間のレッドドラゴンと新生竜の素材で作った上級ポーションも残っているよ。まあ、命が欲しければポーションは忘れずにもっていきな。その代わり、討伐した新生竜の素材はいただくけどね」


 エステル師匠もこの作戦には参加だ。


「なんとしても村を守ろう。聖ペトロ祭を迎えられるように」


「応っ!」


 かくて、ヴァルトハウゼン村において新生竜討伐作戦が始まった──!


…………………

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